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本の効用

*一冊の本は、平均にして約10万字というおびただしいほどの文字数から構成されているそうだ。もちろん小説やエッセイ、研究書とかジャンルによって違うのだろうけれど、10万字ですよ、10万字。原稿用紙2枚の読書感想文を書くのにすらあれだけ手こずっていたのに、その120倍近くありますから。10万字の文字が、自分に一気にうわーっと襲いかかってきたと思ったら、こわいですよね。文字の大群。

人間は1分間で約300文字ていど喋ると言われているので、時間に換算してみると、330分近くなる。つまり1冊の本の内容をおしゃべりにしてみたら、5時間半もの時間がかかるわけだ。それほどの時間をかけて、本はわたしに語りかけている、とも言える。

しかもそれを「書いて」いるのだ。口さえ動かしていればいくらでも言葉が出てくる「おしゃべり」ではなく、頭の中で浮かんだ言葉を、いまぼくがこうしているみたいに「書いて」いる。言葉を選び、どうにか伝わるようにと工夫し試行錯誤した文章を文字数になおすと、10万字あるというわけでさ。

本をそういうふうに捉えてみると、おもしろいなと思ったのだ。持ちうる言葉と心のすべてを使って、時間にして5時間半、文字数にして10万字近く、しかもそれを見ず知らずのわたしに語りかけてくれているなんて、いったいどういうことなのだろう。自分の周りに、そんな人間が何人いるだろうか?自分はそれを、見ず知らずの人や隣人にできるだろうか?

おもしろい・おもしろくない・好みだった・文体が合わないなどなど、いろんな感想はあって当然だ。けれど、そのように捉え直すと、ぼくらはすでに本からじゅうぶんすぎるくらい愛されていると言えるんじゃないかなぁ。表現であるとか、仕事だとか、メッセージがとか娯楽とかそういうもの以前に、本という媒体を経て、僕たちはすでに愛されてるんじゃないかなぁと思ってね。この文章だって、本に比べたらこれっぽっちだけれど、読んでくれる人を先に愛さないと、ある意味ではできないわけだったりして。

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