すばらしき世界

*まさか、こんなに早く機会がやって来ようとは。

土曜日に『すばらしき世界』という映画を、映画館で観た。役所広司さん演じる、殺人を犯して刑務所から出てきた主人公が、人生をやり直していく物語。これがもう、とんっでもなく良かったんだ。別に涙を流したからいい映画ってわけじゃないけれど、ぼろぼろと流れる涙を拭うこともなく、スクリーンをただまっすぐに見ていた。

登場人物がみんな、いい人なんだよな。同時に、悪いというか、いいところばかりでもないんだよな。中でも六角さん演じるスーパーの店長は、たまらなかったよ。「今日の三上さんは、虫の居所が悪かったんだね」の一言には、感動した。あの一言は、なかなか言えないよ。やさしいでも強いでもなく、真横にいる「友達」だからこそ言える一言だった。思えばあの役は、ずっと主人公の真横にいようとしていたな。

先日、ある映画を見て拍手がしたくなって、でも出来なかった体験を書いた。そして3日後くらいに、この映画を観た。ぼくはもう、心からの拍手を送りたくてたまらない。でもやっぱり、怖い。怖かった。でも、でもここでやらなきゃどうする!こんな近いタイミングでこの映画を観たってことは、やれってことなんだと自分を奮い立たせ、エンドロールが終わりシアターが明るくなるまでの何秒間か、思い切って拍手をした。暗い中だけど、みんなの視線が集まるのが分かる。でも、拍手を続けた。この拍手は、映画に関わった人たちに送っているものなのだ。

特に誰もその拍手に乗っかることなく(隣で見ていた彼女が、そういえば遅れて拍手してくれていた)、ぼくの拍手は止み、ぞろぞろとシアターを出る他のお客さんに混じって、ぼくも出た。別に、すばらしいことでもなんでもないし、迷惑に感じた人もいたかもしれない。でも、正直ぼくはうれしかった。拍手を送りたいものに、拍手を送れたのだ。


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