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ドブから見る星

*仕事をしていて、ふっと我に帰るように、話している人と一線を引いてしまう瞬間がある。それはもう潮干狩りができるかのように、スッと一線を引いてしまう。そのスイッチが入る瞬間も、最近は自覚的になった。そのほとんどが綺麗事で、きれいな言葉で、何かをまとめようとしている瞬間だと気付いた。ぼくはその瞬間に、それらにまとめきられない経験や人を思い出しては、スッと引いてしまうのだ。

僕もすべてを知っているわけではないが、世の中には奇妙なものや禁忌とされているもの、タブーや非常識は腐るほどある。それらは目に触れないところにたいてい潜んでいて、その種は誰もが持っているようにも思う。そうした物語や実話を聞いたとき、ぼくは少し羨ましいとすら思ってしまうほど、どこか心が惹かれてしまう。

そういう経験こそないが、そういう人たちを数人知っている。世の中にいい話にどうがんばってもまとめきられない話も少ないが知っている。僕はそういう話や人がけっこー好きだ。嘘がない。耳障りも喉越しも悪いが、その人たちが紡ぐ言葉には嘘がない。それだけでいい。誰も幸せにならない真実のドブのような話でも、当人からすれば大切な体験だからこそ話しているわけで。どこの誰にも聞かせられないような、そんな話を酔った勢いでしてくれる人を僕は友人と呼びたい。

どこからでも星は見える。山でも海でも屋上からでも。ただ、ドブの中から見る星は、展望台で見るよりもずっと綺麗で儚くて幻で。星は星だから変わりようがなかったとしても、きっとそこから見える星は、どのその星よりも美しいと思う。どこで誰と見たかで美しさは変わる。星は星で、それ以上でも以下でもない。ただそこに誰よりも身勝手な美しさを投影できるのが、人間のどうしようもなくて愛おしいところだと信じている。

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