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思い出の味

*先日、「紅茶豚」という料理を久しぶりにつくった。この料理は紅茶で豚を煮出して、臭みをとってタレに漬け込むいわゆる「煮豚」なんだけれど、ほとんどの人に言っても知らない。かくいうぼくも、二十歳になるまでこの料理を知らなかった。きっかけは、和歌山にあるクラフトビールの会社の社長が、たまたま友人の家に遊びに来ていて、そこでレシピを教えてくれたのだった。

たしか「思い出の味」についての話をしていたんだと思う。その社長さんの思い出の味こそが、幼い頃に母が作ってくれていた「紅茶豚」なんだそうだ。味のイメージはまったく想像できなかったけれど、なんだか美味そうな予感はする。次の日、その方がレシピをわざわざまとめて連絡してくださった。それ以来、半年に1回ほどは余った紅茶パックをコトコト煮出して、紅茶豚をつくっている。

料理や味ってのは、そこにまとわりついてくる「思い出」も含めて味なんだよなぁ。実際に、その社長さんは早くに亡くなった母親を思い出すように作るそうだ。ぼくはそのエピソードも込みで、しかもわざわざ連絡してくださったことまで思い出して、その料理をつくる。思い出と思い出が紐付き、思い出されることでまた「思い出」になっていく。

「秘伝の味」だってさ、その「秘伝」の中には分量や使う調味料の他にも、いろーんなものがまとわりついての「秘伝」だよ。「おふくろの味」だって、よくよく聞いたら「おふくろのおふくろの味」だったりするもんなぁ。「今まででいちばん美味しかった料理」と「最後に食べたい料理」がちがうのは、こういうところに理由がある気がしている。お金を出せば美味しい料理が食べれるわけではないのだ。労働後のビールの美味さったらよ、ありゃ、働いたことのない人間にはわっかんないんだろうなぁ。ま、ぼくはビール飲まないんですけど。


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