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どうしても羨ましい生き方

*人生に疲れたら、NHKの『ドキュメンタリー72時間』という番組をよく観る。人ではなく、場所に72時間密着したドキュメンタリーだ。定点観測でその場所で生まれている物語を追っかけることなく映し出す。この番組のために、NHKオンデマンドに月1000円近く払っていると言っていい。行ったことのない土地の、行ったことのない場所にある、会ったこともない誰かの人生を垣間見ては、なぜか猛烈に癒される何かがあるのだ。

昨日観ていた回は、北海道の灯油給湯車に密着した回だった。北海道の冬では灯油が不可欠らしく、家庭や店舗に給油しにいく会社があるのだそうだ。月に数百リットルもの灯油を、ひとつの家庭で使い切るのだという。団地の上階にひとりで住んでいる高齢者の女性のもとに、下に停めた給油車からホースをぐるぐると自分の身体に巻きつけ、垂らしながら階段を登っていく。その光景がみょうにグッときた。

そんな各家庭の灯油事情や、給油を行う仕事の人たちの人生を垣間見ながら、ぽろぽろと涙がこぼれていた。理由はわからない。理由なんてないのかもしれない。みんな色々ある、というその「色々」がほんの少しだけ知れたとき、自分の「色々」が少し軽くなるのかもしれない。

もう何の回だったか忘れてしまったけれど、離島かどこかのスナックを特集した回で、40歳ぐらいの男性が東京から移住してきて、そこに入り浸っている光景が映っていたことがあった。彼は大手企業を辞めて、その離島に来たとかそんなんだったと思う。絵に描いたようなノマドスローライフではなく、バイトをしながらその日暮らしのようにスナックに駆け込み、1日を終えていくその男性の生活がとてつもなく羨ましくて、涙を流したことがあった。あんなふうに生きたい。どんな成功者よりも、その姿はぼくにとって鈍色の輝きがあった。

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