誰にも教えたくないものを知りたいという欲求。

*何年か前に、ぼくが贔屓に通っている店で、お遊びで「うちの店にコピーつけるなら、どんなの?」と店主から言われたことがあった。たいして考えてもいないし、その場で一、二分考えて出したものだけれど、ぼくはたしか「誰にも教えたくない店を、知りたいという矛盾した欲求。」みたいなニュアンスのコピーを口にしたと思う。ま、まだまだいじりようはあるし、ビジュアル次第でもあるんだが、即席にしてはええやないか、と労ってやってください。

しかしこれは、ぼく自身がそのお店について考えたときに、本当に思ったことだ。大阪駅から一駅だけ電車に乗って、雑居ビルの3階にそのバーはある。一見さんなど辿り着きようのないその店は、ほとんど常連さんだけが訪れている。逆に言えば、一度通ってしまえば、そこに次も来たくなるような魅力がある。そして「オレ、いい店知ってるよ」と誰かに自慢したい気持ちと、誰からかまわず教えたくないよという、矛盾した気持ちが両立する。

いいものを知ったとき、人に教えたくなるものと、誰にも分けずに独り占めしておきたいものがある。あの店はまさに、そんな店だ。しかしそれでは店はやっていけないし、一見さんお断りになった今もちゃんとやっていっているので、誰かがこっそり教えたりしてるんだろうな。

・「秘密」は、いつか誰かにバレるから秘密なのだ。バレない秘密は秘密ですらなく、もはや「謎」である。謎は謎のまま、誰にも解き明かされることなく、むしろ知られることもなく、謎として残っていく。しかし、秘密というのは次第にバレる。

「誰にも教えたくない店を知りたがる」というのは、そういう意味では矛盾した欲求なのだ。本当に誰にも教えないのならば、その店を知ることはできないのだから。人間って、そういう矛盾したかわいいところがあるよねー。

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