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人は一人じゃ生きられない

*人間という生き物が生まれてから、今の今まで生きてくる中で、いろんな変化を繰り返してきた。それぞれの時代時代を生きた人はいても、せいぜい長く100年やそこらの命だ。植物が葉をつけ、花を咲かせ、枯れて種を落とすようにして、人は生命活動をおこなってきた。その長い歴史と、短いぼくの人生とを照らし合わせながら、人はなにを受け継いできたのだろう、などとおおざっぱに考えていた。

思えば、ひとりの人って、その人をかたちづくる何人もの人の集合体だよね。ヒトは血と肉と骨で出来ているかもしれないけれど、人は、血と肉と人と骨と、その人が出会った人や心で出来ているんじゃないだろうか。「人は一人じゃ生きていけない」ということばの本当の意味は、物理的な意味だけじゃなく、群生動物である人が、ひとりで人生を始めてひとりで終わることなんてできない、という諦めと、その向こう側にある慈しみを表現しているようにも思える。

うん、そうだ。そうだね。たったひとりの人間の中に、幾人もの人間が生きているのだ。ぼくというたったひとりのちっぽけな人間の中にも、たくさんの人間がいる。好きな人も嫌いな人も、長い時間を一緒に過ごした人も、出会い頭のように会った人も、顔も見たことのない人も、もう会えない人もいる。「ぼく」というひとりの人間をかたちづくっているのは、「ぼく自身」ではなく、ぼく以外の人々の結晶じゃないか。

忘れられない人も、思い出せない人も、会えなくなった人も、身近にいる人も、みーんなその人の中で生きて、その人をかたちづくっている。綺麗事のように聞こえるだろうか?綺麗事だとしても、まるっきりの嘘だとしても、ぼくは少しだけそう信じたい。祖父のことを考えながら、そんなことを思っていた。


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