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セーヌ左岸の絵本屋で

この写真を見る度に、僕はパリを想い出します。パリで過ごした、あの日々を。あの日々は、パリの街角に枯葉が舞い散り、秋と冬が入り混じる、ほんの二週間ほどの日々でしたが、僕にとっては、二ヶ月にも、いやむしろ、二年にも思えるほどの日々でした。それぐらいに濃密で、忘れられない日々だったのは、なぜなのか?それはきっと、生まれて初めて、パリで個展を開催したということと、期間中、パリの街をひたすら歩いて、パリの空気を思う存分味わったということが、間違いなく、大きな理由だと思います。あの日はちょうど、個展の会場へ行く前の、空いた時間を利用して、目的もなくぶらぶらと(けれども一人足早に)、セーヌ左岸を歩いていると、古本屋がたくさん並んだブキニストに遭遇し、その周辺でしばらくは、いろんな本や絵葉書などを物色したりしましたが、そろそろそこを去ろうかと、そう思ったその矢先、ふと一軒の絵本屋が、僕の視界に飛び込んで、僕は思わず心の中で、アッ!と叫んでしまいました。

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それはなぜかと言いますと、その絵本屋は、僕が以前夢で見た、絵本屋さながらの雰囲気で、そこに並んだ、色とりどりの絵本はまるで、宝石か何かのようにキラキラと、光り輝いていたのです。しかも、その絵本屋の店先には、仲のいいフランス人の老夫婦が、寄り添いながら、笑顔で立っていたのです。僕はもう、その光景を見ただけで、感動のあまり、涙を流しそうでしたが、それをなんとか抑えつつ、「ボンジュール!」と、僕も笑顔で挨拶し、一冊一冊慎重に、絵本を手に取り、ページをめくり、ため息をつき、それを何度か繰り返し、けれども時間は過ぎてゆき、その日はそこを、泣く泣く後にしましたが、その翌日に、僕は再びそこへ行き、持参した鞄に入り切らないほど、絵本をたくさん買ったのは、今更言うまでもありません。そんなパリの想い出も、今では少し色褪せて、しわになったり、かすれたり、傷がついたりしましたが、あの時買った絵本のように、それがかえって味になり、僕の心のアルバムに、収められているのです。

このマガジンでは、そんな僕の想い出を、綴ってみたいと思います。と言っても、古いフランス映画のような、美しい想い出はありませんが、人が生きている限り、どんな人にも、日々は必ず(今日もいずれは)、想い出になってゆくわけで。もしかすると、人は誰しも、想い出という名の日々を集める、コレクターなのかも知れません。


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