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白い世界とユトリロと

パリにいた時は、ホテルから歩いて、運河を抜けて、坂道を登り、モンマルトルにもよく行きました。

サクレクール寺院やテルトル広場など、有名な観光地をはじめ、知人に誘われて、小洒落たレストランにも。

だけど、僕が本当に行きたかったのは、そういう賑やかな場所ではなく、人気のないモンマルトルの裏通りでした。

おそらくは、パリのガイドブックにも載っていない、地元の人だけが通るような、陽の当たらない寂れた裏通りに。

なぜならそこには、僕が好きな酔いどれ画家の足跡が刻まれていて、その画家が好んでモチーフにした場所だから。

その画家とは、若き日のモーリス・ユトリロのことですが、その痕跡を追いかけて、迷い込んだのがこの場所でした。

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そこには、何人かの小さな人影があり、建物の壁は白く、空は曇ってなお白く、その下にある寺院の屋根もまた白く…。

孤独や悲哀をキャンバスに塗り込んだ、ユトリロの絵のような詩情あふれる白い世界が、そこには秘かにありました。

その世界は、華やかなパリとは違い、決して映えない風景ですが、僕の中ではいつだって、眩しく映えているのです。

と言うよりも、映えるとか、映えないとかの基準ではなく、ただ単純に、好きか嫌いかを決める針が僕の中には存在して、

その針が指し示す、好きな場所へ行くことが、僕にとっての人生であり、人生をより充実させる、指針のような気がします。


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