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A 誰もいない筈なのに鍵がかかっていたトイレの話

体験者:阿比留さん/30代男性(取材年月日:2022年9月11日)

 これまでに投稿した話の中にも「子ども時代に体験した出来事」というのがいくつかありました。やはり感受性の強い幼少期には、様々な不思議を感じやすいのでしょうか。
 ところが幼い頃には不思議に感じ、未知の存在が関わっているのではないかと思えた現象も――成長してから振り返ってみると「あれはこういうことだったのではないか?」と、より合理的で納得のいく解釈が生まれることがあります。

 今回のお話も、一度生起してしまった不思議体験を再解釈し、「不思議を解消した」物語だといえるでしょう。

2階が怖い、古い家

 大阪府で生まれ育った30代の男性・阿比留さんが、小学生の頃に体験した出来事です。
 クラスメイトにAくんという男の子がいて、彼の家はよく友達のたまり場になっていました。

 Aくんの家は木造二階建ての一軒家。その2階部分は、なんと江戸時代から改装していないというとても古い建物です。
 Aくんととても仲が良く、しばしばお互いの家に泊まりに行っている友達がいました。その友達曰く、「Aくん家の2階ってさ、夜に行くとめっちゃ怖いぞ」とのこと。それについては住んでいるAくん自身も同意していました。

 いかにも古めかしい雰囲気が恐怖を誘うのでしょうか。
 とはいえ阿比留さんが日中に上がって見た限りでは、何がそんなに怖いのかはわからなかったそうです。

鍵のかかったトイレ

 ずいぶん昔の話なので、阿比留さんもハッキリとは覚えていないそうですが――恐らくは小学校中学年くらいの頃の、とある日曜日。
 その日阿比留さんたちは、Aくんの家に集まってテレビゲームをしていました。
 Aくんの家族はみんな出払っていて、家にいるのは子ども達だけです。友達は全員で6~7人くらいいたと記憶しています。

 不意に便意を催した阿比留さんは、みんなが遊んでいる部屋を出てトイレへと向かいました。

 トイレのドアに手をかけた阿比留さんでしたが――
 「あれ?」
 鍵がかかっているようで、開きませんでした。

 先に誰か入っているのかな?
 そう思った阿比留さんは、試しにノックをしてみました。

こん、こん。

――こん、こん。

 すぐに中からノックが返ってきます。
「ああ、友達の誰かが先に入ってたんだな。また後で来よう」
 そう思って阿比留さんは一旦部屋に戻りました。

 遊び部屋に帰ってきた阿比留さんはすぐに違和感を覚えました。
なんとその場には、友達全員が揃っていたのです。

 この家にいたのは自分たちだけで、家族のだれかが帰ってきた形跡もない。
――じゃあ、今トイレに入っているのは一体誰なんだ?

 阿比留さんの心に、驚きと恐怖心がこみあげてきました。
 少し時間を置いてから恐る恐るトイレに戻ってみると、既に鍵は開いていて、中には誰もいませんでした。その間にも人の出入りはなかったはず。

 トイレに入っていたはずの何者かは、どこから現れてどこへ行ったのでしょうか?

解釈

 この体験は阿比留さんの心にずっと「不思議な出来事」として残り続けていました。
 もしかして泥棒が侵入していたのか? それともまさか幽霊が――? 
いろいろと不穏な考えも浮かんできます。

 しかしある時ふと阿比留さんは、「鍵の掛かっていたトイレ」の謎を解釈するもう一つの可能性を思いついたのです。

 その鍵となるのは、「Aくんのお祖母さん」でした。
 実はあの日あの時、友達の家には自分たちの他に、自宅介護を受けている彼のお祖母さんもいたのです。

 ではどうして阿比留さんはトイレに鍵がかかっていた時、すぐに「お祖母さんが入っている」とは考えなかったのでしょうか。

 その一つの理由は、彼女がいつも使っている手押し車が無かったからです。歩くのが不自由なお祖母さんは、移動する時は家の中でもいつも手押し車を使っていました。
 お祖母さんがトイレを使っているのなら、そばに手押し車も当然あるはず。その先入観が、「トイレに入っているのはお祖母さんだ」という解釈を見えなくしていたのです。

 実際にお祖母さんがトイレまで移動しているところを、阿比留さんは見たことはありません。でも、Aくんや家族が出払って家に誰もいない時でも、一人でトイレには行っているはずです。壁に手をついて歩くなど、何かしらの方法を使えば、手押し車無しでもトイレに行けるのではないか――。

 今になって考えてみれば、その解釈が一番可能性が高いのではないかと思い至ったのです。

 しかし確かなのは、当時の阿比留さんが「誰もいない筈なのにトイレに鍵がかかっており、ノックが返ってきた」のだと感じたこと。
 何せ古い話なので記憶もあいまいになっています。「もしかしたらあの時、部屋に帰る途中でお祖母さんの部屋を覗いて、ちゃんと部屋にいた事を確認したのかもしれない」とも、阿比留さんは語ります。
 それを忘れてしまっているだけなのだとしたら、本当の恐怖体験になってしまう、とも。

 あの時トイレに入っていたのは、本当は誰なのでしょうか。




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