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第98回箱根駅伝 往路

今年の箱根は寒かった。気温が低く、特に留学生ランナーは辛かったのではないだろうか。しかし、それが幸いして好記録が出た往路の戦いでもあった。個人的に印象に残ったシーンを挙げていく。

【1区】吉居選手、空前絶後を超える区間記録

1区は、なんといっても吉居選手(中央2)だろう。佐藤悠基選手の区間記録がついに更新されたのである。最初は今年もスローになるのかという空気が流れたが、吉居選手が先頭に立ってからは逆にハイペースに持ち込まれた。1km2分40秒台でずっと推移し、10km通過は27'58"、箱根で10km通過が27分台に突入した瞬間であった(前半が下り基調の3区を除く)。

15km以降、顔は苦しくなるも、ペースは目立って落ちない。各ポイントで区間記録を30秒近く上回り、結局、1:00'40"で駆け抜けた。直前の日体大記録会で、28分一桁の"ペース走"と言っていたが、あれは本当にペース走だったのである。オリンピックに出られず苦しいシーズンであったが、最後に良い思いが出来たに違いない。天国の碓井さんもきっと喜んでいることだろう。

【2区】持ちタイムが当てにならないエース区間

持ちタイムがあてにならないといえ、区間賞は田澤選手(駒澤3)でさすがに彼は次元が違った。期待されたY. ヴィンセント選手(東京国際3)は、途中で脚に痛みが発生し、安全運転で行ったそうだ(それでも1:07’02"である…)。

帝京躍進の立役者はこの2区であったように思う。中村選手(帝京4)が、区間8位(1:07'10")の好走だった。そしてこれは帝京大学記録であるはずだ。1区も良かったが、2区でもその流れを引き継ぎ上位で3区に襷渡しできた。他にも松山選手(東洋2)も去年に引き続き好走、66分台が見えてきた(1:07'02")。立役者といえば、近藤選手(青山学院3)もそうだが、こちらは力通りといったほうがよいだろう。

持ちタイム上位の選手が苦戦したのも印象的で、中谷選手(早稲田4)や鈴木選手(明治4)は明らかに本来の出来ではなかった。貰った位置が悪かったため、レースの流れに乗り切れなかったということだろう。駅伝は持ちタイムで走るものではないということがよくわかった花の2区であった。

【3区】遠藤選手、最後も好走

3区といえばこの人、遠藤選手(帝京4)である。4年連続3区を担当し、今回の箱根で陸上競技を引退するという。力からすれば勿体ないのだが、箱根以上のモチベーションを見つけられないということだそうだ。神林選手(青山学院OB)もそうだったが、箱根駅伝の偉大さがよくわかる理由である。

遠藤選手は、今年もきっちり3区を走り切り、区間4位。タイムも1:01'39"と見事な数字を残した。中野監督はレース後の談話で3区以外でも使いたかった旨を話していたが、これだけ安定した成績を残せるのだから、指揮官としてはこの区間で使いたくなって当然である。

先頭争いは、太田選手(青山学院1)が丹所選手(東京国際3)をラスト3kmで突き放した。太田選手は区間2位、丹所選手は区間賞の好走(+日本人最高記録も更新)であった。

【4区】外さない男 石塚選手

全日本8区アンカー対決の再戦となった4区。飯田選手(青山学院4)vs花尾選手(駒澤2)である。しかし、襷が渡った時点で両者の差は約2分。直接対決するにはちょっと差があり過ぎた。

嶋津選手(創価4)や石井選手(順天堂2)の好走が目を引いたが、ここでは石塚選手(早稲田1)を挙げたい。出雲、全日本と失敗レース0できた石塚選手に襷が渡った時点で早稲田は13位のポジション。1区、2区と上級生が振るわずに3区で少し取り戻したものの流れが良くなかった。普通、この位置でもらったらズルズルと下がっていきそうなものだが、それを立て直し区間6位の好走で順位を13→10位に押し上げた。1年生から、ゲームチェンジができる走りができるのは恐れ入る。来年も4区を走ってほしい逸材だが、チーム事情がそれを許さないかもしれない。

また、今井選手(駿河台4)の力走も印象的であった。区間20位ではあったが、そんなことは関係ないと思わせる徳本監督との関係性、そして教え子への襷渡しであった。

【5区】改めて浮き彫りになる下りの難しさ

毎年、山の神の誕生を待ち焦がれるが、そう簡単に山の神は出てこない。それどころか、2年前に宮下選手(当時 東洋2)が作った区間記録の偉大さがわかるような展開になった。区間記録は、1:10"25なのだが、前半の定点タイムなら数名のランナーが上回る。だから実況アナウンサーも区間記録の更新が期待できます!というのだが、最高点を過ぎたあたりから雲行きが怪しくなる。2年前の宮下選手は登り切ってから下るラスト約5kmがとてつもなく速かったのである。

今回、2年連続区間賞を獲得した細谷選手(帝京4)も8秒及ばなかった。もっとも細谷選手の場合は、小涌園(11.9km)から芦之湯(15.7km)の区間で区間記録から遅れてしまったのも響いたかもしれない。それでも2年連続の区間賞は、あの柏原さん以来だったという。山の神にほなれなくとも、その名を十分に轟かせただろう(Numberの記事で山のペガサスと中野監督は言っていた)。

また、前評判の高かった殿地選手(國學院4)や三上選手(創価4)は今回は難しいレースになった一方で、逆に怖いもの知らずの1年生が複数名躍動した5区であった(東海の吉田選手、青山学院の若林選手、中央の阿部選手)。来年以降、再チャレンジすることがあれば、今年のタイムが基準になるため、彼らに課せられたものは非常に大きくなるだろう。


さて、往路優勝は青山学院大学となった。2位帝京大学とは2分37秒、3位駒澤大学とは3分28秒の差をつけた。復路にも選手を残していることから、余程のことがない限り、総合優勝の確率が高まったといえるだろう。しかし、最後までやってみなければ何もわからない。明日も、各選手の健闘を期待したい。

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