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漫画の中の記号

※2021年に書いた心理学のレポートです。
好きな漫画のことしか書いてない。ここでいう「記号」とは、
私たちの感情の動き、反応、行動を引き起こさせる
「対象物」みたいなことです、たしか。難しい。



「漫画の中の記号」 


初めに

私は、今回のレポートでは「漫画」をテーマとし、漫画の中で見られる記号について記述をしたいと思います。

テーマを「漫画」にした一番の理由は、私の関心が漫画にあったからです。というのも、漫画と言えど、現段階ではほとんどの作品は人が生み出しています。そのため、漫画の中のキャラクターたちと私たちの間にはたくさんの類似点や共通点があります。その証拠に多くの方が漫画を読んで「わかるわかる」「これをされたらいやだよなあ」「これはキュンキュンする」といった感想を抱いた経験を持っているのではないでしょうか。もはや人間ではないキャラクターであっても時折人間らしさが垣間見えてしまうこともあるように、漫画のキャラクターには作者の「記号」が受け継がれ、反映されているように思います。つまり、好きなものの分析でさらに理解を深めつつ、「漫画」のなかにも私たちと共通の記号があるということを証明したいと思ったためこのテーマを選択しました。


扱う作品

 今回題材として扱う作品は冨樫義博先生の「HUNTER×HUNTER」と高橋留美子先生の「らんま2分の1」です。好きだからという理由もありますが、「記号」「促進的記号」「抑制的記号」「呪縛」の概念が自分の中でかなりはっきりと見つけられたため、取り上げたいと思いました。ネタバレを控えつつきちんと概要を記述するのでご安心ください。


◇「HUNTER×HUNTER」(以下HH)

あらすじ:様々なキャラクターが「ハンター」(絶滅危惧動物保護ハンターや賞金首ハンターなどを含め、色々な種類がある。簡単に言えば、ハンターになれば人生においてできることの幅が広がり、一生困らないほどのお金も手に入るため、目指すものが多い)を目指す話。


主な登場人物:

①ゴン=フリークス:ハンターの父親(失踪中)に憧れハンターを目指す。

②キルア=ゾルディック:暗殺一家の三男。ゴンと出会い世界が変わる。

③クラピカ:特殊な身体的特徴を持つ民族の生き残り。同胞を殺した幻影旅団を根絶やすためハンターを目指す。(賞金首ハンター)

④レオリオ:医者になり多くの人の命を救うためハンターを目指す。(ハンターになれば医療大学費が全額免除になるほどのお金さえ手に入る)

⑤ヒソカ:殺人狂。

⑥イルミ=ゾルディック:キルアの兄。キルアに暗殺の英才教育(=呪縛)。

⑦幻影旅団(別名:蜘蛛):凶悪な盗賊団。過去にクラピカの同胞を皆殺しにした。


◇HHにおける「記号」

HHには多くの記号が登場します。代表的な記号としては「ハンター」「蜘蛛のタトゥー」「仲間」であるといえます。


◇HHにおける「促進的記号」

「ハンター」:一般人が入れない場所まで入る権利を有し、お金は一生遊んで暮らせるほど手に入る、一般人が手に入れられる量の何倍もの情報を手に入れられる…など、特別な特典が付きまくるため、ハンターを「気高い仕事」「お金が手に入る仕事」「楽しい仕事」「なりたい!」とプラスに捉えるキャラクターは多いです。夢の仕事とまで謳われるほどです。


「幻影旅団のトレードマーク:蜘蛛のタトゥー」:世間では賞金首且つ危険な連中と有名な幻影旅団ですが、登場人物の一人、クラピカにとっては「家族を奪った盗賊団」なので、蜘蛛のタトゥーを見たとたん怒りと復讐心に駆られ、「逃がすまい!」と戦闘態勢に入ります。さらに言えば、幻影旅団の身体に入っているタトゥーが蜘蛛のため、クラピカだけは昆虫の蜘蛛を見ただけで怒りが湧いてくる人物として描かれています。


「仲間」:この記号に関してはキャラクターごとにかなり意見が分かれています。過酷な環境で育ったキャラクターや壮絶な過去を持つキャラクター以外、例えばゴンとレオリオは比較的積極的に仲間と関わりを持ちに行くような姿勢が見られますし、「仲間と一緒のほうがいい」思考です。仲間がいることで強くなれるし、有意義な時間が過ごせると考えるタイプです。


◇HHにおける「抑制的記号」

「ハンター」:ハンターになるためのあまりに過酷な試験を通し、「命が惜しくないやつが目指す仕事」「危険な仕事」「楽できる仕事ではない」「死にたくない!」と、恐怖を含んだマイナスの意見を持ち、ハンターになるのを諦めたキャラクターも多くいました。


「幻影旅団のトレードマーク:蜘蛛のタトゥー」:一般人や一般ハンターは蜘蛛のタトゥーを見たとたん戦意を消失し、命を守るため逃げる選択を取ります。このように、「蜘蛛のタトゥー=奴らだ!=キケン」とつながり、関わることで起こり得る危険を回避しようとする行動に繋がるのです。


 「仲間」:過酷な環境で育ったキャラクターや壮絶な過去を持つキャラクター(キルア、イルミ、クラピカ、など)は「仲間」や「友達」を積極的に作りに行こうとせず、むしろ不要だと感じている節も見られます。また、「仲間」ができたとしても「幻滅される」「いずれ殺してしまう」「失いたくない」との理由から、距離を取り、結局は一人ですべてを背負い込んでしまうところがあります。


◇変化

 「記号」は時代や環境、経験によって変化する可能性を持っています。もちろん、HHの中でもそういった変化が見られたキャラクターはたくさんいます。その中でも特に顕著な例として挙げたいのは、暗殺一家三男のキルアというキャラクターです。彼は幼いころから殺しの英才教育を受けており、「友達は不要」という考えさえも埋め込まれていました。しかし、ゴンをはじめとするたくさんの仲間と時間を共にし、次第に笑顔や子供らしい部分が増えてきます。そして段々と周りのキャラクターにも不器用ながらにも思いやりを持ち接することができるようになってきます。このように、「仲間」に対しての抑制的記号が促進的記号に代わる過程は、人間らしく魅力的なキャラクターを創る上で大切なものだと感じます。


◇HHにおける「呪縛」

HHにおける「呪縛」はキルアとその兄、イルミの間に見られます。キルアは幼いころから暗殺一家のエリートとして厳しい訓練を受けていました。その中には「自分より強い相手と出会ったら戦わず逃げること」「感情を持ってはいけない」「暗殺者に友達は必要ない」などの教えが含まれており、これらがキルアの中で呪縛になっていました。友達が危険にさらされており、戦わねばならない状況下でも「敵が明らかに強ければ見捨てざるを得ない」、自分に笑顔を向けてくれる相手であっても「友達は作ってはいけないから距離を置く」…という呪縛です。



◇「らんま2分の1」(以下らんま)

あらすじ:主人公の早乙女乱馬は中国の不思議な泉(娘溺泉)に落ちてしまった影響で水をかぶると女になってしまう(お湯をかぶると男に)。なんとか完全な男に戻るため男溺泉を探す、という話。


主な登場人物:

①早乙女乱馬:水→女 お湯→男(元通り)。猫が怖い。

②天道あかね:乱馬の許嫁。豚の姿の響良牙をペットとして大切にしている(正体に気づいていない)

③響良牙  :水→豚 お湯→男(元通り)。あかねが好き。

④シャンプー:水→猫 お湯→女(元通り)。乱馬が好き。

⑤早乙女玄馬:水→パンダ お湯→男(元通り)。乱馬の父。


◇らんまにおける「記号」

「らんま」という作品においての記号はずばり、「水」「お湯」「男」「女」「それぞれの変身後の姿」だといえるでしょう。上記のキャラクターたち以外にとって「水」「お湯」は単なる飲料、カップラーメンにそそぐもの、お風呂にためるもの、冷たいもの…etc.という物質でしかありませんが、上記のキャラクターたちにとっては「自分に有益も危害も運んでくる特別な物質」です。例えば、乱馬が男に戻れる泉(男溺泉)を掘りおこすため女子更衣室に潜入するエピソードがあり、そこで乱馬はわざと水をかぶり女の姿になった自分を利用します。周りには何も知らない女子生徒たち。その状況でお湯をかぶるとまずいことになるのは明確ですよね。このように、「水/お湯をかぶると女/男に」という設定だけでなく、それに対する「促進的記号/抑制的記号」がしっかりと絡んでいる点がらんまをより面白くしていると感じます。


◇らんまにおける「促進的記号」

上記でも述べたように、彼らにとって「水」「お湯」「女」「男」「変身後の姿」というのは「促進的記号」「抑制的記号」両側面を兼ね揃えています。

例えば、パフェを堂々と食べたいときや女性割引や特典がつく際は女の姿、決闘時には男の姿、というように、乱馬は状況に応じて「女にも男にもなれる自分の性質」を上手く使い分けます。良牙も同様、豚の姿を上手く活用し、あかねとのひとときを謳歌しています(笑)。また、シャンプーは「乱馬=猫が嫌い」なのを分かった上で、乱馬に対して怒りがわいた時にはそれを利用してわざと水をかぶり、乱馬を懲らしめたりなんかもしています。


◇らんまにおける「抑制的記号」

上記では「水」「お湯」を上手に利用する「促進的記号」について記述しました。しかし、これは裏を返せば「必要でないときに水/お湯を浴びることでトラブルが起きる」という危険性もはらんでいます。よって、乱馬は女湯に侵入した際は何としてでもお湯を避けますし、良牙はあかねの前では水を浴びないよう慎重になります。また、乱馬は猫がこわいため、シャンプーに水がかかるのも全力で阻止しようとします。


◇らんまにおける「呪縛」

乱馬にとっての呪縛は「水をかぶると女になってしまうこと」「完全な男ではないこと」「両性を有していること」です。原作で乱馬の母親が訪ねてくるエピソードがあるのですが、彼女は乱馬の父である玄馬に「乱馬が男らしく育っていなかった場合、玄馬と共に切腹させる」との約束をしていました。このことから玄馬と乱馬は水をかぶると変身する特異体質を頑なに隠すようになります。乱馬との再会を心待ちにしていた母親—今すぐに会って安心させてあげたいと思うも、「自分の不完全な性別」が呪縛となり、「幻滅される」「会ってはいけない」と静止がかかります。

また、良牙もあかねに「自分が豚の正体である」とばれるのを防ぐため、「水がある場所/水がかかる恐れがある状況下でのデートができない」「そもそももう会わないほうが良いのでは…?」という、生き方に制限がかかる呪縛にとらわれています。


まとめ

 上記のように、漫画の中のキャラクター達も私たちと同じように、「記号」に対してそれぞれ思うところがあり、それによって行動も変わってくることがわかりました。普段漫画を読んでいて「このキャラ人間らしくて好きだな」というキャラクターは、こういった「記号」のとらえ方が私たちと共通しているからかもしれません。現実世界ではありえないようなことが起きるのは漫画の魅力の一つではありますが、キャラクターの心情を「自分たちと重ね合わせて楽しめる」ということもまた、漫画が人々にとって欠かせないエンターテイメントであり続ける理由だと感じます。お読みいただきありがとうございます。



◇参照文献: 
冨樫義博『HUNTER×HUNTER』集英社出版、1998-年

高橋留美子『らんま2分の1』小学館出版、1987-1996年

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