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夏イチゴ試験栽培2023 準備③ 成育方法/観察ポイントを考える

栽培管理の課題を見つけるための生育方法/定点観察ポイントを決めた。定植初期の4月ー8月の栽培期間中間点での傾向


いちご栽培に占める「育苗」管理の重要さ

いちご栽培には「育苗の栽培管理」と「定植後の栽培管理」の2つの管理プロセスがあるが、育苗の生育管理が定植後の生育・収穫に大きな影響を及ぼすことは、いちご生産者が身に染みて実感していることである。

試験栽培の参照文献である「紅ほっぺ」の特性と栽培技術 ~試験データから読み取る栽培管理~ 静岡県農林技術研究所著、「信大 BS8-9ʼの品種特性と栽培指針」信州大学農学部 蔬菜花卉園芸学研究室著の中でも、親株からの採苗(ランナー受け)、施肥管理、防除管理の推奨方法について相当量の記載がある。特に、「紅ほっぺ」の特性と栽培技術の中では、育苗方法の違いによる定植後の収穫量の影響の試験データが発表されており、いちご栽培に占める「育苗」管理の重要さが示唆されている。

育苗日数と定植後の収量の関係(等級別) 

左図は1月末までの収量:いちごの卸売市場価格が高い時期の収量
右図は3月末までの収量:3月以降の収穫量が増える時期の収量


育苗がその後の収穫量に及ぼす影響事例

自分で育苗するか、定植苗を購入するかの選択肢の課題
作るか、または、買うかは、最重要課題の1つ

定植苗を作るか、買うかは、いちごを育てる考え方次第ですが、選択の際に考慮すべき点には以下が挙げられる。

・ランナー受けの親株の手配、育苗場所の確保
・花芽分化、その後の収穫量に影響のある育苗管理方法の習得
・育苗の防除方法の習得
・育苗管理に要する時間(育苗期間+定植後生育期間=いちご栽培期間)

家庭菜園、自給的農業、副業/専業農業の各々のケースで、育苗の経済的生産性に対する見方が異なる。 専業・大規模生産者にとっては育苗コスト(●●円/苗)の経済計算は全体の営農計画にとって重要な指標となる。 

家庭菜園/自給的農業の場合は、経済生産性とは異なる「イチゴと共に暮らすライフスタイル価値」の視点からの選択肢となる。

本夏イチゴ試験栽培2023では、長野のいちご生産者で育苗された定植用苗を購入。 定植後での試験栽培課題に注力することとした。

定植前の育苗された苗の様子

伊東・伊豆高原での試験栽培の栽培環境は、屋外プランター栽培と小型ビニールハウスの高設栽培システム

本試験栽培では、いちご生産者仕様の培土成分・1株あたり培土量、液肥を使用して、参照文献の栽培指針/推奨管理条件に従い、栽培を実施した。

施設環境: 
・ 屋外プランター栽培:定植時期 4月後半ー4月末 家庭菜園・自給的農業での夏イチゴの栽培生産性の試験栽培
・ 小型ビニールハウス栽培: 定植時期 3月末  生産者仕様の高設栽培であるが、小型ビニールハウス故に、真夏の高温環境が大型ビニールハウスと比較するとより厳しい栽培条件となる。

いちご栽培の文献から読み解く栽培管理条件&観察ポイント

参照文献とした「紅ほっぺ」、「信大BS8-9」各品種の栽培ガイドラインで、管理すべき栽培条件と観察ポイントについては、公開されている試験データの濃淡の違いはあるが、概ね以下のパラメータに着目して栽培管理と観察を推奨している。

定植関係: 定植時期、定植の際の株間長さ、定植準備作業
潅水管理: 給液のEC値による濃度管理、廃液EC値測定による給液濃度調整、培土の推奨水分率
温度管理: いちご栽培にとって適温な温度環境づくりの調整
摘芽/摘葉/摘花管理: 収量の最大化、病気予防のための株の管理

試験栽培の検証課題
屋外プランター栽培(家庭菜園)、小型ビニールハウスで、いちご生産者と同等の収穫量が実現できるか?

冬春いちご(紅ほっぺ)の栽培カレンダー事例

冬春いちごの栽培カレンダーは概ね下図の通り、加温下での促成栽培のため産地の場所にあまり依存せず、11月-1月の早期収量、3月以降の最盛期収量が一般化している。

夏イチゴの栽培カレンダー

参照文献では、夏イチゴの収穫の月別分布については試験データが公開文献で示されている。

公開文献から収穫の月別分布を読み解く

信大の栽培指針の文献の中では、定植後45日間は花房(恐らく頂花房のこと)を摘除して、株の育成を図ることを推奨している。一次腋花房(5月28日∓18.0)から収穫に持っていくので初収穫は7月としている。

「信大 BS8-9ʼの品種特性と栽培指針」出展

伊東・伊豆高原で観察された開花・収穫推移
屋外プランター栽培、小型ビニールハウス/高設栽培、共に、夏イチゴの
公開文献の試験データと同等の収穫生産性が確認された。

伊東・伊豆高原は、信大の試験栽培地の長野より温暖であり、4-5月の株の生育が旺盛であったことから、頂花房の摘除を行わず収穫に持って行ったところ相当量の早期収量が実現出来た。 4-5月の早期収量は、夏イチゴの試験データ文献では見られない傾向である。
伊東・伊豆高原の8月末時点での収穫量については次回報告で記載するが、早期収量と7月以降収量を合算すると、夏イチゴの公開文献での試験データと同等またはそれを上回る実績であった。

伊東・伊豆高原での試験栽培での栽培カレンダー

冬春いちご栽培と比較して、夏いちご栽培の顕著な違い

成育傾向: 4月―8月の栽培期間中
・ 花房の連続出現 長野県の夏イチゴ生産者を見学させて頂いた時、信大の栽培指針文献に「花芽/花房の連続出現」が示唆されていたが、 定植後1か月程度(4-6月)で花房数の増加が顕著であり、真夏もそれが継続。 
・「紅ほっぺ」冬春いちごの生産者にとっては、花房数の多さが収穫量にどのようの反映されるか等、未知なる体験であった。

収穫量傾向 4月ー8月の栽培期間中
・伊東・伊豆高原では、4-5月の温暖な気候故に、屋外プランター栽培、小型ビニールハウス栽培共に、早期収量が上がる栽培地としての優位性があることが確認された。小型ビニールハウスではそれが顕著に現れていた。
・今夏は7月上旬より猛暑が始まったが、8月より収穫果実の小粒化が顕著となった。高温環境での花芽管理をどうするかは今後の課題。


次回の活動報告予定
夏イチゴ試験栽培2023 活動報告④ 夏イチゴの消費者価値から、栽培方法を考える。 地域内だから成立する芳醇な食のバリューチェーンを求めて

夏イチゴの試験栽培2023 バックナンバー

活動報告① プロジェクトの仲間作り
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活動報告②  栽培環境・方法を決める
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