15年前、出会い系サイトに登録しました
なんでもない、文章を書こうと思います。どのくらいなんでもないかというと、今日書いたのは、高校生のときの思い出です。
わたしが卒業した高校には名物課題があって、そのうちの一つが「原稿用紙80枚以上で、小説を書く」というものでした。通称、「80枚創作」。同じ高校の出身者だったら、今でもこのトピックだけで一晩飲みあかせるくらいには、黒歴史と必ずともにある、思い出深い課題です。
わたしが提出した小説のタイトルは(この時点で、ひどく胸が痛いんですが)『テクノストレス・シンドローム』でした。
簡単なあらすじは、以下のとおり。
「出会い系サイトでサクラのバイトをしている、男子高生。ある日、サイト内で知り合った男性と、勢いでデートの約束をしてしまいます。男の自分は行けるはずもなく、罪悪感を抱えながらもすっぽかしますが、どうやらそこに謎の女性が現れて、デートは成立していたようで…!?」
…今、改めて思い出したら、完全にラノベな世界観ですが、わたしは実際に、どっぷりとインターネットの住人でした。当時は悪の温床のように言われていた、出会い系サイトにも、この小説を書くときに、登録したことがありました。
男性としても女性としても、何人かとやり取りをして、いわゆる「エロチャット」というのにも、一度入ってみたところ、「パンツ脱いで」とか「どのくらい経験があるの?」とか「毛は濃いの?」みたいなことを、おじさんがタイピングをめちゃくちゃミスりながら聞いてくるのが、なんとも生々しいなぁ…と、未成年は眺めていました。思い返せば、なかなか行動力がありました。
当時のわたしは、匿名掲示板や、絵チャット、あるいは、mixiの前身のような日記サイトに通っていて、深夜まで、パソコンの前に貼り付く毎日。そのとき好きだった人は、顔も知らない人でした。
わたしの書いた、どこにも公開されていない小説で現れた「謎の女性」というのは、ネット内のもうひとりの自分の人格です。
ハンドルネームを与えられた、そのモニターの中の自分自身は、ときに現実の自分とは、口調も、性格も、(もしかしたら性別も)ちがうものだけれど、そんな人たちが、当時のネットの世界で、わきあいあいとしていた光景は、よく考えると、ちょっと不思議。
いまは、インターネットの世界と、現実世界は限りなく表裏一体です。本名で、顔写真つきでTwitterなんてしているわたしが「今日はパフェ食べたぴょん★☆おいしかったのだ〜♥」なんて書いてしまったら、もう、ねえ…って感じなわけですが、匿名文化だったら、そんな自分にも変身できたんですよね。そう、変身だったんです。
匿名文化は、オタクだけのものになっています。SNSやブログサイトは、現実で力のある人が、ネットの世界でも力を持っていることが多くて、その逆もまたしかりです。現実に生きにくさを抱えた人たちが、ネット弁慶したり、全然ちがう人を演じたりすることで、なにかを保ちながら、バランスを取っていた、よき時代はすぎました。
森林が伐採されるとか、熱帯雨林が開拓されてしまうとか、そういう感じで、弱い人のビオトープだったインターネットの世界は、どんどん狭くなっていって、行き場を失ったのが、「無敵の人」だったりするのかなぁ。
登録した出会い系サイト、今どうなっているのか、サイト名もわからないから検索できないんですけれど、たしかわたしは「メアリー」とか、そんな名前でやっていた気がします。だれか女の子と、仲良くなったような。Tinderよりも、ことばが大事な世界でした。
がんばって生きます。