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虫くらいのスケール感で生きたい。

地方移住で思わぬ引き出しが使われる。

 日本で地方をひとくちに表現するのは難しい。無数の島の集合体で日本列島が構成されている手前、地域毎に特色があり、それが各地の景観の違いとして現れていて、良さにもなっている。

 とはいえ、共通しているのは、国土の実に3/4が山でできていることから、森林が身近にある暮らしとなる可能性は極めて高い。むしろ、どの方角を歩いても山が見えることのない、東京都区部の多くが文字通り不自然なのである。

 そんな花鳥風月に明け暮れる生活をしていたある日、玄関の足元にバッタモドキがとまっていた。都市部で純正培養された人であれば、虫嫌いの確率が高く、大抵の人は真っ先に払い除けてしまう。早期退職前に同僚がコガネムシで絶叫した時は閉口したが、どうやら都会人はそれくらい虫に耐性がない。

 私は幼少期にムシキング全盛期を経験しており、無駄に予備知識があるため、まずは何の虫なのかを知りたい好奇心が勝り、まじまじと眺めることが多いものの、高校から生活の中心地が都内だったこともあって、日常でそんな機会はここ数年なかった。

 直感的に何とかバッタではなく、モドキが付く奴だと見分けた。自分がスッキリするために調べると、ちゃんとショウリョウバッタモドキで、無意識的に背中の色で見極めていたのだから、幼少期に覚えた知識の引き出しほど、定着しているものだと我ながら感心したが、肝心のムシキングでコイツは出ていないと記憶している。

 移住して山道を散歩していると、車とすれ違うよりも、クマバチにホバリングされる回数が多いものの、ホバリングしているのは毒針を持たないオスであり、温厚なハチで単独行動であることを知っているため、気が向いたら手頃な石を追いかけて貰えるよう投げて、遊び相手になって貰う程度に手慣れている。

 とはいえ、ホバリングしている以上、近くにメスがいる可能性が高く、巣も枯れ木や柔らかい木材など、足元に近いこともあるため、不用意にメスを刺激してしまうと、毒性は弱いものの、太い針でコチラが痛い思いをする可能性はゼロでない。

 それに、弱肉強食の自然界故に、肉食性かつ人間に危害を及ぼす可能性のあるスズメバチやアシナガバチが、クマバチを狙って近くにいる可能性もゼロではなく、羽音が似ていて毒性の強い蜂の発見が遅れると命取りになりかねない以上、適度な距離を取って、近寄らないのが賢明ではある。

 因みに航空力学の世界では長年の間、クマバチの図体でなぜ飛べるのか、解明されていなかったが、レイノルズ数によって証明され、人間が考えるよりも高度な技術で飛行している辺りに、人知の浅はかさを思い知らされる。

甲虫のモドキ、ダマシ、ニセから学ぶ。

 そんな虫と共存する生活に切り替わって、はや数日。最近公開された上記の動画内で、「なぜ虫にはダマシとかモドキが多いのですか」の質問に対して、養老先生が「印象ですね」と答え、落合陽一さんが「サイズ感の問題な気もちょっとだけするな」と付け足した。

 時間にして30秒の、とりとめのない会話ではあったが、名前の付け方に疑問を持たず、さも当たり前だと認識していた身としては、言われてみれば確かにそうだと、ハッとさせられた瞬間だった。

 一応、ちゃんとした経緯としては、甲虫はあまりにも種類が多過ぎるがゆえに、最初に発見した種類と類似した虫を見つけてしまうと、ダマシとかモドキを付けざるを得ない学者の苦悩から来るものらしい。

 そんな使い所のないうんちくを知り、へぇ〜と思いながら、人生観もモドキとかダマシに擬態できるスケールの方が良いのではないかと、勝手に想像するのであった。

 金融資産の運用収益によって、経済的に独立して早期退職する、Financial Independence Retire Earlyの頭字語である、FIREが世間にも認知されて久しい。

 しかし、みんながみんなFIREを目指す世界になってしまえば、誰も労働せず、実体経済が機能しなくなり、後ろ盾となっている市場経済もクラッシュすること間違いなしだ。実際にそんなことは現実的に起こり得ないとはいえ、横文字で格好よくFIREなんて言葉を用いるから、無駄に憧れる人を増やしてしまう。

 働かない現役世代など、日本社会では虫けら同然のスケールなのだから、ニートモドキとか、ニートダマシのような、決して憧れないであろう表現の方が、当事者としては、日の目を浴びずにぬくぬくと隠居できるものである。

 一応、ニートの定義としては非労働力人口のうち、専業主婦(夫)と求職者を除いた40歳未満となっているため、そのまま条件に当てはまるものの、偶然とはいえ、学び直しで大学に在籍していることから、無業状態とは言い切れず、ニート状態にある個人投資家兼大学生と表現するのが適切である。

 しかし、虫けら同様、ニートも生態や特徴ごとに細分化すると、あまりにもバリエーションに富んでいるため、やはりFIREではなく、ニートモドキとか、ニートダマシと命名した方が、分かりやすく、それでいて覚えやすいような気がしてならない。

 そんな、虫くらいのスケール感で半世紀以上はあると、信じて疑わない長いようで短い余生を過ごすスタートラインに立った者として、肝心の資産運用で虫の息にならないことを願う今日この頃である。


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