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「実質」ほど都合の良い言葉もない。


携帯料金に蔓延る実質〇〇。

 実質〇〇…ひと昔前の携帯電話の機種代や料金プランで、他社から顧客を奪うために、特に乗り換え客を優遇するのに使われた言葉である。

 実質的な支払いはゼロとか1円とか表現されると、あたかもお得な感じに受け取れるものの、実態としては高価な機種代金を、割賦購入して、その分割払いの代金を通信料から割り引くと言った内容だった。

 確かに普通に契約するよりは、通信料が割り引かれる分、機種代が安くなるが、そもそも機種代金がメーカーの定価よりも上乗せされていたり、割引のために指定された契約プランが割高だったり、オプションが強制加入であれば、キャリア側はそちらで資金回収しているだけの話である。

 しがらみの類が嫌いな身としては、下手な割引で身動きが取れなくなるよりは、大人しく機種代を支払い、必要最低限の通信プランで契約したい気持ちが強いため、iPhoneも通信キャリア経由で購入した試しはない。

 その意味では、端末そのものの割引が限定的となる代わりに、安価な通信プランを提供するよう、官製値下げと揶揄される政策に踏み切ったのは、批判の声もあるものの、ガースー様さまである。

 結局、官製値下げの主導権を握ったのが、母体が半官半民のキャリアの時点で、ガースーが何をやったのかは察しがつく。なお、それを引き継ぐと名言した人の現在…

 実際にプラン変更者はそこまで多くない的な記事が1年ほど前に出ていたものの、オンライン専用プランに抵抗がないであろう若年層が、日本社会において少数派であることを鑑みれば当然の結果だろう。

 むしろ最初から若年層の可処分所得を、高齢者のブーイングなしに増やすのが目的だったのであれば、携帯料金の官製値下げは見事な策略だと思い、恩恵を受けた側として評価している。

 結局は実質値下げを規制したところで、キャリアが抜け穴を掻い潜るイタチごっこの域を出ず、利用者とって複雑怪奇なプランが、なかなか淘汰されない側面はあるものの、形はどうであれ、通信料のアベレージが下がるのは良いことである。

実質値上げよりも、価格転嫁して欲しい。

 そんな携帯電話料金の官製値下げで、可処分所得が増えたと喜んだのも束の間、コロナ禍で世界中が異次元金融緩和を行なってきたツケや、某国の戦争によるブロック経済化、すなわちサプライチェーンの崩壊によって、ほとんどの人が経験したことのないレベルのインフレに、現在も頭を抱えている。

 これまでの日本社会は失われた30年と言われているように、30年間デフレ経済だったのが通説である。

 しかし個人的には、価格据え置きで買えるものの量が減る実質値上げ、いわゆるシュリンクフレーションが水面下で行われていた影響から賃金は上がらず、ジリジリと経済的に没落していく状況が、2021年までの日本社会だったように思う。

 しかし、昨年からの原材料費の高騰は、実質値上げで対処できるような状況ではなくなり、ガンガン値上げに踏み切っている企業が多い印象で、某ハンバーガーチェーンなんかは典型である。

 株式投資をしている身としては、企業が値上げに踏み切ると、一般論としては売上高が増加するため、株価にはプラスに働くし、その売上の一部が従業員の賃上げで還元されれば、消費者の懐も潤い、経済にもプラスに機能するため、過度にコストを削減するよりも、価格転嫁して欲しいのが本音である。

 デフレにすっかり慣れきっていると、100円でハンバーガーが買えた時代が良かったと思う人が多数派で、コストが上がるなら、相応な値上げをした方が良いと思う人は少数派だろう。

 しかし、世界経済が緩やかにインフレしている中、日本だけデフレ、若しくは横ばい状態が続くと、輸入に頼っている国として、舶来品=高級の時代に逆戻りしてしまう。

 その例としてソフトバンクが日本で初めて取り扱った、iPhone 3Gは1台199ドル〜だったのに対してiPhone14は799ドル〜と、15年で4倍に上がっている。

 ここ最近の円安傾向が続く前提だと、さらに15年後の2038年にiPhoneが1台40万円になってもおかしくない。

 だからこそ値上げ→業績向上→賃上げ→需要喚起→値上げの流れを形成するために、一時的には苦しいかも知れないが、コスト増に見合った価格転嫁は必要だと考える。

少子化対策の財源確保にも「実質」が…

 最近、何かと話題に事欠かない異次元の少子化対策だが、「国民に実質的な追加負担を求めることなく進める」と総理会見で回答していたが、蓋を開けてみると、年少扶養控除の見直しや、サラリーマン税制優遇措置を縮小する意図で、給与所得控除と退職所得控除を見直す方針であることが、現時点で仄めかされている。

 国民ではなく、財務省の方を向いた政策と捉えれば、確かに「異次元」の少子化対策の口振りに嘘偽りはない。

 言っていることと、やっていることの整合性が取れていない人ほど、信用ならないものはないが、そもそも「実質的な」追加負担を求めないの言い回しが、増税しないものと解釈しがちだが、直接増税しないとは明言していない辺りを、国民側が留意した方が賢明かもしれない。

 冒頭の携帯電話で、割高な料金設定だけれども、機種代金を割り引くから実質〇〇に準えると、割高な税金(=増税する)だけれども、ばら撒くから実質的な追加負担はない。と捉えることもできる。

 屁理屈としか思えないが、こう捉えると皮肉にも、言っていることとやっていることの辻褄が合う。そう考えると、実質ほど都合の良い言葉もないと思う今日この頃である。


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