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手直しするよりも、作り直した方がはやい。


今あるものを闇雲に活かそうとしない勇気。

 タイトルはスーパーファミコンのゲームソフト「MOTHER2 ギーグの逆襲」の開発が難航した際に、後に任天堂の社長を務めることとなる岩田聡氏が、「いまあるものを活かしながら手直ししていく方法だと2年かかります。イチからつくり直していいのであれば、半年でやります」と語った伝説のエピソードが元ネタである。

 私はスーファミ世代ではないため、遊んだことも、当時の状況も歴史の1ページでしか知らないが、宣言通りイチからつくり直して半年でβ版が完成。もう半年間をブラッシュアップに費やし、開発に携わってから1年で発売に漕ぎつけた。

 岩田さんは途中から携わったことで、心理学で言うところのサンクコストバイアスがなかったことが幸いして、4年掛けて未完だった成果物を切り捨てる判断に繋がった側面もあったのかも知れない。

 サンクコストバイアスとか、コンコルド効果なんて名称が付くくらいだから、我々は往々にして、今あるものをどうにかして活かそうとするあまり、非合理的な判断をしてしまう嫌いがある。

 しかし、今あるものを闇雲に活かそうとしない勇気を持ち合わせることで、人生で上手くいかなくなった局面で、ある種の損切りにより試行回数が増え、長期目線で期待値の高い人生を歩める可能性が上がるのかも知れない。

 少なくとも、私は20代半ばで大病を患った時に、上記の考え方を持ち合わせてたことで、鉄道員という枠組みに固執することなく、現在平穏な生活が営めている。

不変の過去は埋没費用として割り切る。

 私は無借金至上主義的な側面があり、高校を出た直後に奨学金という名の教育ローンを組んでまで大学に行く気にはならず、電鉄会社に駅係員として就職した。

 だからこそ、最近どこかのNPO団体が「奨学金帳消しプロジェクト」と銘打って社会活動をしているのがモヤる節があるが、記すと長くなるので、この件は別の機会に記せればと思う。

 さて、工業高校卒で電鉄会社の正規雇用は、ネームバリューからすれば勝ち組感があるが、労働集約型産業故に賃金が安く、シフト勤務の構造上、薄給激務になりやすいのは、国交相のパブリックコメントで13連勤手取り14万電鉄と揶揄される事業者があることから、内部関係者でなくともおおよその実情は窺い知れるだろう。

 人口減少時代という日本の人口動態と、ICT化で人が移動する需要が低下する時代背景も相まって、斜陽産業で徐々に事業規模を縮小していかざるを得ないうえ、労働集約型産業の構造上、スキルが溜まらない単純作業を繰り返す。

 かつて改札で切符に鋏を入れていた人、きっぷ売り場で紙の切符を売っていた人、精算所窓口の人たちが、自動改札機、自動券売機、自動精算機に代替されたように、現行作業の改札窓口、案内放送、ホーム上の列車監視、売上の集計業務諸々が、機械化までの繋ぎ感が強い意味で、勘の鋭い人から順に将来性のなさに気づいて業界を去ろうと試みる。

 しかし、決められたことを決められた通り実行するだけの、単純作業しかやっていない職務経歴で転職市場に出たところで、即戦力にならない以上、どうせ教えるなら、中途半端に社会を知って歳だけ取っている奴よりも、右も左も分からない若い人材を採って、純正培養したいと考えるのは、火を見るよりも明らかだろう。

 面接の場面で「あなたは何ができますか」と問われ、「電車の運転ができます」と答えたところで、「お、おう…」としかならない。

 国家資格である動力車操縦者は参入障壁ではあるものの、それを活かせる業界全体が先述した通りの斜陽産業である以上、それを活かしながら人生設計を手直しするよりも、免許取得までに費やした時間や労力という名の過去は変えられない以上、埋没費用として割り切り、イチから人生をつくり直してしまった方が早い。

株式投資に出自は関係ない。

 そうして工業高校卒、電気工事士の資格持ち鉄道員という、流行り?のピボット転職を繰り返したところで、現場仕事から抜け出せない出自でありながら、それらをガン無視した。

 結果として、個別株を運用する形で生計を立てているのが現状である。誰にでも開かれた市場で、安く買って高く売るキャピタルゲインを狙うか、保有し続けて配当や株主優待のインカムゲインを狙うか、あるいは双方をミックスした戦略か。その程度の違いはあるものの、基本的に参入障壁はない。

 参入障壁がないということは、誰でも参加できる以上、レッドオーシャンとなりやすく、そんなフィールドのなか5〜10年スパンで、少なくとも五分五分よりは高い勝率で資産を増やせている。

 おそらく私からすればできて当然で、誰でもできると思い込んでいる何かが、実はそう易々とできず、事実上、再現性がない手法があるのかも知れない。

 株式投資に出自は関係ないが、誰でも参加できる場である以上、最低限の簿記やFPの知識は持ち合わせておいた方が、現状をそれなりの解像度で分析するのに役立つだろう。

 加えて旧帝大や難関私大出身の、金融工学をガチって外資系金融のファンドマネージャーを務めているような頭脳明晰な方々と、真正面から知能戦で闘うのは分が悪いのが明らかである以上、エリート街道を歩んできた人たちが、率先してやろうとは考えないような、現場作業染みた泥臭い作業で差別化するようには意識している。

 例えばスクリーニング機能は便利だが、PBR1倍割れとか、配当利回りが何%くらいと言った、旬な条件で絞り込むとヒットする銘柄は、既に織り込まれているものと考え、私なら手を出さない。

 逆にスクリーニング機能ではヒットしない、何かしらの癖があって割安のまま放置されているが、ポテンシャルが高そうな銘柄は、会社四季報を隅々まで目を通すみたいなことをしないと見つけられなかったりするが、労働として市場に参加している機関投資家は、そんな非効率なことはできず、そこにチャンスが有ったり無かったりする。

 その場に応じて、有り合わせの知識+足りない部分はリアルタイムで補うを繰り返したことで、過去の出自とは全く関係のない世界で、未だ退場せず平穏な生活が営めているが、今の状態を鉄道員を活かしながら手直ししていたら、おそらく人生が終わっているだろう。

 一貫性に拘るが故に、行き詰まった感覚に苛まれている方は、イチからつくり直すことも頭の片隅に置いておくと、どこかで役立つ側面があるかも知れない。


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