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雨の日に傘を取り上げ、晴れの日に貸す。


やられたら、やり返す。倍返しだ!

 タイトルは銀行の行動原理を表す教訓で、松下幸之助さんの言葉説が有力である。

 最近話題の某中古車販売・買取会社の借り換えを銀行団が応じない方針が明らかになった。政府から借り換えさせるな的な、相当な圧力があったのだろう。

 個人的に非上場企業である某B社がどうなろうと知ったこっちゃないが、一般論として何ら不祥事のない企業に対しても、景気や業績が良い時は融資の営業をするくせに、景気や業績が悪くなると貸し渋る銀行の姿勢は、これでは何のための金融機関だと個人的には思う。

 もちろんバブル期に不動産などの資産を担保に借りられるだけ借りて、バブルが弾けた際の連鎖反応から不良債権化したことで、北海道拓殖銀行が経営破綻した教訓であることは理解している。

 とはいえ、審査を厳格化して債権が回収できる見込みが高い相手のみに貸し出す姿勢は、そもそも借り入れの必要のない相手に利子を支払ってくださいと言っているようなもので、長期的には顧客離れにつながる行為である。営利企業であれば無駄なコストは支払いたくないのが正直なところだろう。

 しかも銀行は他人から預かったお金を元に運用したり、貸し出して利息を得ている訳で、他人の褌で相撲を取っているに等しい。

 それにも関わらず、自らの裁量で多少のリスクを取ってでも、金融機関として経済を支えようと言う意思よりも、なぁなぁまぁまぁで面倒ごとは先送りで有耶無耶に、余計なことはせずに楽して現状維持していきたい雰囲気すら感じてしまうのは、私の色眼鏡だけだろうか。

 別に銀行に私怨があるわけではないが、困ったときほど頼りにならず、安全に金を取れそうな奴から、順番に取っているような企業に未来があるとは思えず、それなら実店舗を持たずにコストを抑えたネットバンクで充分である。

 派生でクレジットカード会社も、早期退職で職業欄が社畜から学生に逆戻りしたものの、今のところ利用枠が縮小した会社はない。

 とはいえ、カード会社から保険などの余計なオプション営業電話はパタリと途絶え、対面でカード切り替えを行った際に、キャッシング枠は「なし」でお願いします。と案内された。

 元からそんなものは使わないため実害はないが、クレヒスに傷はないものの職業属性の変化から、営業目線で取りっぱぐれのない、安心安全カモリストからは除外された感が強く、テーマ・オブ・半沢直樹が脳内再生する程度に思うところがある。

囚人のジレンマの最適解?

 ところで、ゲーム理論の囚人のジレンマをご存知だろうか。

 共犯者AとBを別々で取り調べを行い、双方が黙秘を行うと仲良く懲役2年。双方が自白すると仲良く懲役5年。しかし片方が黙秘、もう片方が自白した場合、自白した方が懲役1年で済み、黙秘した方は懲役10年になる。

 相方がどう考えているかは分からないため、自分が自白した場合の懲役は、相方がどちらに転んでも最大で5年なのに対して、黙秘して裏切られると懲役10年と、自分だけがバカをみることから、お互い黙秘を選ばず自白して、仲良く懲役5年コースになる状態(ナッシュ均衡)を、ゲーム理論では囚人のジレンマと呼んでいる。

 全体最適はお互い黙秘のはずだが、プロスペクト理論で証明されているように人間の感情は、損失回避のために非合理的な行動を取るように出来ているため、懲役10年を確実に避けられる「自白」を選んでしまう訳である。

 全体最適を考えて守るよりも、裏切る方向にインセンティブが働いてしまい、結果として全員がバカをみる現象を、経済学では「共有地の悲劇」として知られている。

 これを相手がランダムで協調したり、裏切るゲームにして、最も多くの得点(=全体最適)を獲得するプログラムを競うコンテストが1984年に開催されたが、その時1位を取ったプログラムがたったの3行と、非常にシンプルだったことに学びがある。

 プログラムの指示は、
1.相手を信頼する(協調)
2.やられたら、やり返す!(裏切り)
3.1に戻る

 最もバカを見ない合理的な戦略は、たったのこれだけ。現在に至るまで、条件を変えて様々なシミュレーションを行っても、良い成績を出すプログラムの多数派であり続けているのだから、驚きである。

 つまり、人間関係や企業や行政機関との付き合い方の最適解は、まず相手を信じて様子見、やられたらやり返すが、再度協調してきたら、こちらも協調することが、どうやら理に適っているらしい。

 私を含め、多くの人が一度は他者を信じてみるものの、いつかは裏切られ、それ以降は永遠のブラックリスト入りしてしまうが、一度裏切った相手が再度協調してきた場合は、こちら側も協調するのが全体最適を考えると合理的な選択なのである。

 感情が邪魔をして実生活に落とし込むのは中々難しそうだが、それでも知っているのといないのとでは、判断に迷った際に期待値の高い、数理上有利な方を選択できる意味で、知っておいて損はないだろう。


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