債務対GDP比率など名目GDPを増やせば改善する単純な指標だ

 久しぶりのnoteとなるが、今回は昨今の財政健全化論のバカげた数々の話に対して、正直ムシャクシャして腹が立っていることもあり、記事を書いてみた。これから書く話は、ハッキリ言って小学生でも理解できる話だ。しかし、こんなことも理解出来ないのが、今の日本社会の大人たちなのである。

 良く「日本は財政危機だ!」「このままでは財政破綻する!」と言っている人達が持ち出す指標として、「債務対GDP比率」というものがある。具体的には下記のグラフだ。

21世紀のG7諸国の債務対GDP比の推移

 このグラフを持って、諸外国の中でも債務対GDP比率が237%とダントツに高い日本は財政危機国であり、このままだと日本は財政破綻すると財務省は煽り立てているのである。そして、また多くの日本人も、その煽りを何の疑いもなく受け入れて、「日本は財政破綻するんだ!」「これ以上、国の借金は増やしてはいけないんだ!」と受け取ってしまっているのである。
 しかし、このグラフは極めて「子ども騙し」なグラフなのである。何故ならば、債務対GDP比率とは、

債務対GDP比率=債務残高/名目GDP

の分数(割り算)で求められる式だからだ。よって、このグラフを持って、「日本の国の借金は増え続けている!」「これ以上、国の借金を増やしてはならない!」と、勘違いしてはならないのである。
 なので、この債務残高と名目GDPをそれぞれ分けたグラフを見てみよう。

21世紀の日米の政府総負債額の推移(2019年まで)

 このグラフは日本とアメリカの債務残高をドル単位で示したグラフであるが、債務残高が増えて続けている青の国は、日本ではなくアメリカの方である。つまりは、日本よりもアメリカの方がずっと国の借金は増え続けているのである。(なお、一時期、日本の債務残高が減っているように見えるのは大幅な円安による影響である。)
 さらに、最初のグラフと同じように、G7諸国で増加率を比較してみよう。すると、このようなグラフになっている。

21世紀のG7諸国の政府負債の増加率(2018年まで)

 水色の線が日本の増加率を示したグラフであるが、ナント!日本の国の借金はドイツに次ぐ低い増加率なのである。17年間で約1.7倍程度にしか増えていないのである。対して、先ほど示したアメリカは384と4倍近く、イギリスに至っては5倍近くまで膨れ上がっているのである。増加率だけで見れば日本よりも、アメリカやイギリスの方が、ずっと財政が悪化している国と言えてしまう。
 しかし、何故、日本よりもずっと国の借金が増え続けているアメリカやイギリスは「財政危機国」とは言われないのだろうか。そのカラクリは次のグラフで分かる。

21世紀のG7諸国の名目GDPの増加率

 これが債務対GDP比率の分母である名目GDPの増加率を示したグラフである。先ほど述べたアメリカやイギリスはこの17年間で194と、約2倍近くも名目GDPが増加しているのである。すなわち、21世紀に入ってから、経済規模が2倍2倍(by高見山)に増えているのである。だから、アメリカやイギリスも、分子の国の借金の総額(債務残高)がいくら増えようが、分母の名目GDPも増えているため、債務対GDP比率もそこまで上昇していないのである。よって、両国は決して「財政危機国」などとは呼ばれていないのである。

 対して、我が国・日本はというと、17年間で105、つまり1.05倍にしか名目GDPは増えていない。まさしく、まるで成長していない(byスラムダンクの安西先生)国なのである。分母の名目GDPがまるで成長していないから、日本の債務対GDP比率は上昇の一途を辿り、それを持って「財政危機国」扱いしているのである。
 しかし、先ほど述べた通り、債務残高の増加率はドイツに次ぐ低い国だから、日本は決して国の借金が増えまくっている国ではないのである。あくまでも、名目GDPがまるで増えないから、債務対GDP比率も悪化しているように見えるだけなのである。
 つまり、日本は「財政危機国」なのではなく、「名目GDP危機国」と言った方がずっと正しい。問題なのは国の借金が増えることではなく、名目GDPが全く増えないことにあるのだ。では、何故、日本の名目GDPは増えないのだろうか。

 その理由も足し算が分かれば分かる話で、名目GDPの公式は、

名目GDP=個人消費+民間投資+政府支出+純輸出

4つの項目から成る。つまりは、政府が支出を増やせば(より厳密に言えば、名目GDPにカウントされる項目に支出をすれば)、名目GDPも漏れなく増えるのである。しかし、日本の政府支出の増加率と言えばこうだ。

20年間の政府総支出の伸び率

 日本の政府支出は20年間で1.1倍にしか増えていない。世界で最も政府支出を増やしていない国なのである。要は「ドケチ国家No.1」なのである。世界で一番国民に対して、渋ちんな政府が日本国政府なのだ。これでは政府支出が名目GDPの一項目である以上、名目GDPも増えないのは当然のことなのである。
 そんなことも、政治家・財務官僚・経済学者が理解できない世界最下位レベルにあるのが、我が国・日本の政府なのである。

 以上のように、こんなことは別にMMTがどうとか、経済や財政の知識など無くても、割り算と足し算さえ出来れば小学生でも分かる話だったかと思う。
 債務対GDP比率が世界最悪だからと言って、日本は財政危機国、国の借金が膨れ上がっている国では決してないのである。日本が危機的状況なのは名目GDPであり、さしづめ、日本は財政危機国ではなく「経済危機国」と言った方が、ずっと適切なのである。「債務対GDP比率が世界最悪」というある種のプロパガンダに騙されている日本国民がほとんどだと思うので、是非、この債務増加率のグラフと名目GDP増加率のグラフは、広く拡散して頂けると大変ありがたい限りである。

 特に地元選出の国会議員の方々など、政治家に対して、「日本の債務対GDP比率が世界最悪なのは、名目GDPの増加率が世界最悪だからなんです。」と伝えて、広めて頂ければ、政治が正しい解決策の方向に向かうことであろう。もし、必要であれば、私自身も国会議員会館なり、全国どこへでも説明しに行く所存である。

 最後に参考文献として、今回の話をもう少し丁寧に、詳細に書いた私の論文が掲載されている本も紹介しておこう。興味があれば、ご購入頂くか、図書館などにリクエストして頂ければ幸いである。

『コロナ時代の経済復興―専門家40人から明日への緊急提案―』
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