![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/147334527/rectangle_large_type_2_42e35363f466009e11e89e9ff32e8c53.png?width=1200)
行政におけるリサーチの現状と今後の可能性〜これからの行政に必要なリサーチとは?~【#ResearchConf 2024 レポート】
RESEARCH Conferenceは、リサーチをテーマとした日本発のカンファレンスです。より良いサービスづくりの土壌を育むために、デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的としています。
2024年のテーマは「ROOTS」です。リサーチを育む根を張る、そもそものリサーチの成り立ちや進化から学ぶ......そういった意味を込めています。小さく始めて広げてきたリサーチを、いかにして強く根付かせ、厳しい状況を乗り越え、新たな成長へと導けるでしょうか?
中央省庁での実務経験をもとに、『行政におけるリサーチの現状と今後の可能性〜これからの行政に必要なリサーチとは?~』と題し、デジタル庁・増田 睦子さん、デジタル庁・若尾 昌輝さん、総務省・谷口 健二郎さん、よりお話しいただきました。
■登壇者
![増田 睦子さんのプロフィール写真](https://assets.st-note.com/img/1721009081151-YYauXCrz23.png)
増田 睦子
デジタル庁 リサーチユニット ユニット長
一般社団法人行政情報システム研究所 主任研究員。
大学卒業後、外資系出版社で編集者として英米のカルチャー誌に携わる。その後、大手外資コングロマリットで広報職、国内最大規模の医学系学術学会広報職を経て現職。
特許庁「デザイン経営」、経済産業省「Japan+D」のリサーチや教育機関や行政機関でのデザインワークショップを担当。
オードリー・タン氏をはじめとする世界のデジタルリーダーとの共同イベントの企画、運営、各国におけるデジタルガバメントやデザイン政策動向を調査し発信している。
![若尾 昌輝さんのプロフィール写真](https://assets.st-note.com/img/1721009122254-JaCvkzi2fl.png)
若尾 昌輝
デジタル庁 戦略組織グループ 主査
東京大学工学部卒業後、2018年に経済産業省に入省。商務情報政策局情報産業課で半導体産業やDXに関わる政策等に従事したのち、商務・サービスグループ商取引監督課にて割賦販売法の改正を始めとしたRegTechに関する政策等に従事。現職では、民間専門人材と協業しリサーチ・サービスデザイン・マーケティング等の取組を進めるとともに、これらの分野に関する庁内外の理解醸成・浸透に取り組んでいる。
![谷口 健二郎さんのプロフィール写真](https://assets.st-note.com/img/1721009129420-BUuvgfWUIR.png)
谷口 健二郎
総務省 行政管理局 副管理官
東京大学公共政策大学院修了後、2013年に総務省に入省。地方創生やデジタルガバメントの推進などに従事したのち、2019年に英国Royal College of Artに留学し、サービスデザインを専攻。帰国後、中央省庁の働き方改革や業務改革、公共部門のイノベーションの推進などに従事している。
組織で異なるリサーチの捉え方や手法がある
![登壇者3名が壇上で発表している](https://assets.st-note.com/img/1721009225555-Gk5T4cUH2M.jpg?width=1200)
中央省庁といっても、それぞれの組織でリサーチの捉え方や手法は異なるものです。今回は、「リサーチのルーツ」「リサーチってなに?」「リサーチの未来は?」のテーマに分けて各省庁の事例をご紹介いただきました。
冒頭は今回のイベントテーマでもあるリサーチのルーツについてです。『総務省、経産省、デジタル庁、さまざまな省庁がありますがそれぞれの組織で「リサーチ」ってどう捉えられているの?』という切り口で、まずは増田さんがデジタル庁のリサーチ部門で行われている事例を4つに分けて説明されました。
1つ目にデジタル庁内では、組織の課題発見のためにリサーチプロセスを導入し、LEGOブロックを利用したワークショップやエスノグラフィーワークショップなどを実施。これはリサーチスキルそのものを醸成することに加え、職員同士で課題を共有し合う目的があるそうです。
2つ目に海外のリサーチ機関との連携です。海外では行政とリサーチ機関が密接な関係を持っており、先進事例を多く生み出しているNESTA、Danish Design Center、Policy Lab、Oxford Internet instituteなどの事例を学びつつ、どうやったら日本でも政策立案に盛り込んでいけるかを、それぞれの機関と定期的な情報交換の場を持ちながらデジタル庁としての取組みの可能性について考えているのだそうです。
3つ目に政策リサーチとして、2023年から大学との連携リサーチを開始。初年度はハーバード大学やケンブリッジ大学に留学している日本人学生と「外から見た日本」という観点で共同リサーチを実施し、若い世代の声をデジタル政策に反映しようと進めていると紹介がありました。
4つ目は、リサーチユニットです。デジタル庁では若手リサーチャーを中心にチームを組成。ナレッジ収集を主とした基礎リサーチと、未来提言を含むインテリジェンスリサーチを実施しているそうです。
サービスデザインの手法を取り入れたプロジェクト
![発表する谷口さん](https://assets.st-note.com/img/1721009245286-rOAiRS0u6v.jpg?width=1200)
続いて、総務省の谷口さんがサービスデザインの手法を取り入れたプロジェクトについて解説しました。
「そもそも組織の作り方として、デジタル庁のようにリサーチユニットという形で組むこと自体が珍しい」と谷口さんは言います。一般的に、霞ヶ関では各部署で異なった政策分野において必要なリサーチを実施し、外部の研究所にリサーチを委託することもあるのだそうです。
谷口さんが紹介した「未来の公務をデザインする若手プロジェクト」は、令和3年9月に河野太郎国家公務員制度担当大臣(当時)と川本裕子人事院総裁の発意の下、有志で集まった若手職員が未来の公務のあり方について議論し、人事行政や公務員制度を担当している組織に提言したプロジェクトです。
谷口さんは英国 Royal Collage of Art (RCA)に留学し、サービスデザイン専攻を修了。政策立案へのデザインの活用を含む、行政イノベーションの推進のための活動を行ってきました。そこで、このプロジェクトにもサービスデザインの手法を取り入れようと考えたのだそう。
チームのメンバーは、内閣人事局から3名、人事院から5名の若手職員(課長補佐級・係長級)が参画。ユーザーインタビューやデータ分析、協創ワークショップ、プロトタイプ検証など、霞ヶ関としては珍しいサービスデザインのプロセスで提言の取りまとめを行ったそうです。
もう1つ、谷口さんの関わっている事例として「法制執務コミュニティ」を紹介。法制執務コミュニティは、府省横断の協創的活動により、法令案を作る業務(法制執務)を改善するための取り組みを進めており、これまで法制執務に関わってきた各府省等の職員など約40名が参画しているとのこと。
これまで職人芸的なスキルで「暗黙知化」してきた法制執務に対して、法制執務コミュニティが課題の洗い出しやサービス設計を行い、業務効率化ツールなどを協創・試行・実践して各省へ展開しているのだそうです。
ちなみに、法制執務のデジタル化の部分に関してはデジタル庁が別途動いており、法制執務コミュニティとうまく連携することで、ユーザーの声をデジタル庁の提供するサービスに反映するようにしているそうです。
省庁では各部署の政策に関する仕事=リサーチ
![発表する若尾さん](https://assets.st-note.com/img/1721009275853-d4RCcMQPAJ.jpg?width=1200)
増田さんと谷口さんお二人の事例を踏まえて、「総務省と経済産業省のリサーチプロセスは似ており、各部署がリサーチするものと外部機関が横串的にするリサーチがある。各部署の場合、急ぎのときは数時間単位で課題解決を求められており、仕事=リサーチをこなしていると言っても過言ではないと思います」と若尾さんは言います。
また、「デジタル庁はマイナンバーカード・マイナポータルのサービスを提供しているので、民間のリサーチャーを含めて横串的に改善を図っていることが各省庁と異なる」とUXリサーチが発達している点についても言及しました。
デジタル庁のなかにはサービスデザインユニットとして、サービスデザインやUXデザインの専門人材が集まるチームがあり、リサーチユニットとコラボレーションし、サービスの改善にあたることもあるのだそうです。
以上を踏まえて、増田さんから「省庁におけるリサーチは日常的にやっているものということですが、常に意識してやっていることなんでしょうか?」とお二人に問いが投げかけられました。
谷口さんは「たとえば政策を進めるにあたって、財務省へ次年度の政策に関する予算要求をする際にエビデンスを説明するプロセスが一般的です。そういう意味では、エビデンス収集を意識していますが、先ほど若尾さんがおっしゃったように普段から短時間でこなすリサーチが増えると質が下がってしまう可能性も否めません」と課題感をあらわにしました。
続いて「ほとんど谷口さんと一緒の考えです」と言うのは若尾さん。日々の短期間で課題解決するリサーチをこなしながら、各部署で抱えている中長期的なミッションにも「政策に対して課題意識は持てているだろうか?」と常にアセスメントしながら、同時に財務省への予算要求プロセスもこなしているそうです。
行政にはリサーチにもとづいた価値を提供することが求められている
![壇上で話す登壇者3名](https://assets.st-note.com/img/1721009296910-gxchHgD42t.jpg?width=1200)
デジタル庁でリサーチユニットが立ち上がった際に手上げをした若尾さん。増田さんからの「なぜリサーチが重要だと思ったのか?」という問いに対して、「端的にいうと視座を高めること広げることができると思った」と言います。
若尾さんは、国家公務員として働くなかで情報が偏りがちになることに危機感を覚えたのだとか。そこで、情報をリサーチ的な視点で得ることで冷静に物事を考えていけるのではないかとリサーチユニットに立候補したのだそうです。
谷口さんは、リサーチの重要性について「我々は税金をもらって仕事をする以上、よりよいサービスや政策を世の中に提供することが大切。そのなかで、リサーチにもとづいてしっかりとしたエビデンスを持って価値を提供することが絶対的に求められています」とのこと。そのためにも、職員のリサーチスキルの底上げをしていかなければいけないと続けました。
組織を横断にしたリサーチのコラボレーション
![質問をする増田さん](https://assets.st-note.com/img/1721009311408-ox4RpxOex1.jpg?width=1200)
ここまで、リサーチの介入によってポジティブな変化が生まれた事例を紹介していただきました。そこで、「これから行政でリサーチはどうなっていくと思いますか?」というリサーチの未来について、増田さんから質問が投げかけられました。
「今後はさまざまなリサーチの領域が増えて、仕組み化されていくと思います」と答えた若尾さん。現在は、谷口さんをはじめ各省庁で志の高い方たちがコミュニティを創設し、提言をしていくなどの動きがあるなか、今後は組織を横断的に仕組み的にリサーチが続くことで、よりよい行政サービスが生まれるのではないでしょうか。
谷口さんは「霞ヶ関では伝統的なリサーチがあるなかで、最近は我々のようなデザインリサーチなどの手法も取り入れるようになりました。今年からは、総務省でユーザーリサーチの研修を始めています。今後は、ユーザーリサーチで各省庁とコラボしていけたらなと思っています」と語りました。
また、増田さんは「デジタル庁は横串で各省庁のサービスやプロダクトに関わっているので、今後は谷口さんのチームとコラボしてく機会もどんどん作っていきたいです」と付け加えました。
リサーチを組織に根付かせ、新たな未来を感じさせる発表でした。今後も行政におけるリサーチのコラボに注目です。
本セッションではアーカイブ動画を公開しております。
🔍............................................................................................................
RESEARCH Conferenceの最新情報は公式Xにてお届けします。フォローをお願いします!
[編集]リサーチカンファレンススタッフ [文章]小澤 志穂 [写真] リサーチカンファレンススタッフ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?