発達系女子とモラハラ男 (書評) 前編
ご無沙汰しております。red_dash です。年度末が近づいて、研究費を最後の1円まで有効活用すべく頭を巡らせながら実験しています。
今回は、鈴木大介氏の書籍「発達系女子とモラハラ男」について書きます。彼とその発達障害の妻の生活を改善した方法、そして発達障害者に生じる困りごとはどのような理由で生じるかを紐解いた本になります。なお、長くなったので前後編として投稿します。
あらすじ
鈴木氏は元々、主に子供や女性の貧困について書くルポライターでした。いわゆる『弱者の味方』となる立場を志していたのだろうと思います。彼はライター生活の中で出会った女性と結婚します。後に『お妻様』と称される女性です。お妻様は家事が苦手な発達障害者。個性的で独特の視点を持っている、しかし家の中は荒れ気味で、職もないお妻様。(そんなお妻様との生活を描いた前作『されど愛しきお妻様』もなかなか面白い本でした。)
さて、本書は困難を抱えるお妻様を理解ある鈴木氏が救っていく書籍...ではありません。むしろ逆。妻の存在が彼を助け、彼は妻を理解していく。その過程と分析を描いています。
もともと彼は家の中ではモラハラ夫であったと振り返ります。彼はワンオペで家事を回しながら(すごい!)役に立たない妻に当たっていました。「パラサイト妻 vs ワンオペ家事夫」の状況と捉えていたようです。そんな彼は無理が祟ったか、2015年に脳梗塞由来の高次脳機能障害となります。高次脳機能障害は発達障害に近い様態を後天的に生じさせる病態があり、その経験を通じて彼は「発達障害特性を持ちながらこの世界を生きる妻たちがどれほど大変な思いをしていたのか」に気づきます。
発達障害様の困難を実際に経験する中で、彼はどのような理由で障害が困難を生み出すかを紐解きます。そして困難を回避する工夫をし、妻と協力しながら生活を立て直す方法を模索していきます。その過程で彼は、彼と妻との過去の関係性が「障害を抱えた妻 vs 精神的DV夫」であったと気づき、その関係性を改めていきます。本書は彼にとっての懺悔と更生の物語です。
本書に私が感銘を受けた理由その1 発達障害の困難に対する分析と言語化が見事
本書は発達障害や高次脳機能障害に由来する障害の様子を描いており、その言語化が見事。注意障害の様を「ゴリラグルー(接着剤)でつけたかのように注意が引きはがせない」現象、易疲労(疲れやすさ)は認知資源の「点滴バッグの一日分が絶望的に減ってしまった」状態と説明するように、実にわかりやすい。しかも、これらの様子をマンガも付けて表現しており、視覚的にも理解しやすく描いています。
さらに、発達障害の何が困りを生じさせているかの描写と分析がうまい。ちょっと長いですが、引用します。
すなわち、情報の重みづけの困難さと、注意の切り替えの困難さの組み合わせによって片づけの難易度が上がる。部屋を片付けて情報量を減らすことで、その困難は回避しやすくなる、との分析です。
彼はこういった分析を繰り返し、妻が作業しやすい環境を整えることで、最終的にはお妻様を家事の戦力として活躍させることに成功しています。見事。
私にも障害特性がありますが、何がどのように困るかを説明するのは難しい場面に直面することがあります。彼の困りの分析と言語化は、障害当事者が困りを説明する際に使いやすい言葉を提供してくれたとも感じました。
長くなってしまったので、今回はここまで。素敵な一日をお過ごしください。
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