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「正しい情報」なんてない、という話

こんにちは。危機管理情報センターRIC-WESTの松浦です。

危機管理情報センター〈RIC24〉の専門員として日々情報の奔流に接していると、一つの感慨を懐きます。

「正しい情報」なんてこの世に存在しない。

というものです。
これがどういうことか、お話しする前にいくつか実例を交えてご紹介しましょう。


電車が5分遅れたら「遅延」なのか

せっかく急いで来たのに……

ようやく獲得したリード顧客との打ち合わせに間に合わない!
息せき切って駅に駆け込んだあなたは、発車標の表示に顔を曇らせます。

「ああ、また電車遅れてるよ……」

今日も今日とて電車が遅れる最寄り駅

今日は月曜日。週明け恒例の大混雑に巻き込まれ、乗るつもりだった区間急行も10分近く遅れているようです。遅延の理由はドア挟まりか、はたまた車内急病人か。「朝ラッシュならさもありなん」とでも言うように、詳しい案内放送はありません。

どこからともなく舌打ちが響き、男女のため息が耳に届きます。心なしか殺気立ったホームで列にならびながら、刻一刻と迫るタイムリミットに苛立つあなたは、半ば八つ当たり気味に内心こう叫ぶことでしょう。

――なんで案内しないんだ!

さて、このようなケースでは、各列車の遅延に対して鉄道事業各社の反応は様々です。

1本数分程度の遅延では知らんぷりの事業者に、たとえ2、3分の軽微な遅れでも事由を含めてきっちり発表する事業者と、鉄道会社の数だけ存在する運行情報のクセを証明するように「遅延」に対する態度も多種多様です。

この理由は至極単純で、線区ごとの背景が全く異なるからです。

沿線人口や利用者数を反映した列車本数の決定的な差、企業としての出自や通勤列車か都市間輸送かといった性質の違い、公営か民営かといった法人格の別などなど。路線ごとに取り巻く状況が異なるために、1本の列車が持つ重みというのも異なり、結果として旅客案内の質の差となって表れてきます。

コレ、単純なようでいて、当センターの配信担当者を日々悩ませる難問なんです。

電車が5分遅れていたら「遅延」か、それとも「平常運転」か。
あなたはどう思われますか?


巨大地震=災害なのか

つづいては「災害」の定義と結びつくケースです。

「マグニチュード8.1、震源深さ30kmの巨大地震発生!」
「どこで!」
「南極」
「お、おう……」

――はて、これって災害でしょうか?

災害の定義について国際的な合意はありませんが、国連機関のなかで自然災害問題に中心的な役割を果たす国連国際防災戦略事務局(UNISDR)の災害リスク軽減に関する用語集(2009年版)によれば、災害を以下のように定義しています。

コミュニティまたは社会の機能の深刻な混乱であって、広範な人的、物的、経済的もしくは環境面での損失と影響を伴い、被害を受けるコミュニティまたは社会が自力で対処する能力を超えるもの。

(太字筆者)

また、国内に目を向けると、1959年に制定された「災害対策基本法」では、その第一章第二条に以下のような記述があります。

暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害をいう。

(太字筆者)

注目したいのは、両者ともに災害を、その「被害」に焦点を当てて定義しているところです。言い換えるならば、洪水や地震そのものは自然現象に過ぎず、緊急事態になり得るとは言っても、即刻直ちに災害となるわけではない、ということでしょう。

人が居住していない極地の雪崩や、太平洋の沖合で台風が発生しても、それ自体は災害ではなく、それが人々やその営み、社会、環境に甚大な被害を及ぼした場合に「災害」となるわけですね。

では、上の問いに戻りましょう。
巨大地震は、災害でしょうか?


情報の「正しさ」って何……?

ここまで2つの事例をご紹介しました。
「ちょっとセコいんじゃね?」と思われた方、ゴメンナサイ。
ですが、レスキューナウではこの問題を真剣に、あるいは深刻に捉えています。

なぜなら、情報は受け取る相手の背景によって捉えられ方が全く異なるからです。

先に挙げた鉄道路線の線区ごと、すなわち地域ごとの特色などが最たる例です。山間のローカル線での5分の遅延と、東京首都圏の朝ラッシュの5分の遅延では、同じ「5分延」でも重みは違ってくるのではないでしょうか。

レスキューナウでは、この情報の受け取り方によって重さが全く変わってくる問題を、ある出来事について場所・程度・種類といった指標で分類する独自のDLC概念(Distance、Level、Category)によって、可能な限りの客観性を付すことで解決してきました。

……ですが、それも結局は「レスキューナウの考える正しい情報」の範疇に過ぎないのかもしれません。

情報が人から人へ伝わるコミュニケーションによって成り立つからこそのジレンマに、RICの「専門員」は今日も頭を悩ませるのでした。

情報なるものの本質が「解釈論の究極」でしかないのであれば、「正しい情報」なんてものはおそらくこの世に存在せず、そこには「正しいとされる情報」しかないのだろう、と。


最後に

 レスキューナウは、日本唯一の危機管理情報の専門会社として、防災分野で様々なサービスを提供しています。防災・危機管理の重要性が叫ばれるなか、当社も事業拡大につきメンバーを積極採用しています。
 災害や危険から安心な暮らしを守る事業をやってみたい、自分の価値観と共感できる部分がある、ちょっと興味が沸いたので話を聞いてみたい、ぜひ応募したいなど、弊社に少しでもご興味を持っていただけましたら、ぜひ弊社のリクルートサイトをご覧ください。


参考文献


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