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【書評】ESG投資で激変!2030年会社員の未来

投資家仲間に勧められ、著者が楽天IR戦記(この本も面白かった)を書いた市川祐子さんだったこともあり読んでみた本。面白い内容だったので、紹介していこうと思います。

本書をESG投資の観点のみに絞り、ざっくりとまとめると、以下の2点になります。

①なぜ企業はESGに取り組む必要があるのか
②ESG投資は儲かるのか
・企業のパーパス(目的)の重要性
・成長率を伸ばすESG、リスクを下げるESG
・マテリアリティ(企業の重要課題)の重要性

以下で内容をまとめていきます。


①なぜ企業はESGに取り組む必要があるのか

この根本的な質問に答えるために、本書では1,000兆円超の資産を運用している世界最大の運用会社、ブラックロックのCEOの言葉から始めます。

ブラックロックCEOのラリー・フィンクは「気候リスクは、投資リスク」と話していて、その発言はブラックロックが運用を託されている膨大な額の年金が背景にあると言います。

そのうえで、気候リスクの経済的影響の大きさを示すため、英国の調査機関が試算した気候変動対策をした場合、しなかった場合の経済コストを示します。その試算によると、気候変動対策をした場合、GDPの1%分のコストが毎年発生します。対して、気候変動対策しなかった場合、GDPの5〜20%分のコストが毎年発生するそうです。そのため、年金運用を受託した長期投資家の利益追求の観点からも、気候変動対策は重要ということになります。

また、もう一つ重要なこととして、投資家は今、気候変動を考慮して、資金を右から左に移しているという点を挙げます。2020年時点でESGマネーは世界で4,800兆円(35兆米ドル)であり、2年前より15%増え、金融機関で運用されている額の36%に当たるという調査結果を示します。気候変動の問題が現れるよりずっと前に、世界のお金はものすごい速さで気候変動問題の対策に向けて動いていて、企業はそれに対応したビジネスの転換を求められているのです。


②ESG投資は儲かるのか

企業がESGに取り組む必要性はわかったものの、ESG投資は本当に儲かるのでしょうか。この問いに対し、本書はパーパス、ESG、マテリアリティの3つの視点で説明していきます。

・企業のパーパス(目的)の重要性

著者が出会ったベンチャー投資家は、スタートアップに投資する際
・なぜその事業を行なっているのか(Why)
・何をやっているのか(What)
・どうやって優位性を築いているのか(How)

の3つのうち、1つ目の「なぜその事業を行なっているのか(Why)」に納得できるスタートアップにしか投資しないそうです。WhatやHowは市場環境の変化によっては変わらざるを得ないけれど、Whyが強ければ、その企業が生き残れるからだと言います。
このWhyはパーパスであり、長く稼ぐためのエンジンになると本書は主張します。

・成長率を伸ばすESG、リスクを下げるESG

次に、株価の構成要素を
・成長率
・収益率
・割引率

に分解したうえで、成長率を高めること、リスクを下げる(割引率を下げる)ことにESGは有効であると説きます。

例の引用は省きますが、環境に配慮した製品作りは短期的には利益面でマイナスになるものの、付加価値が増加し長期的な成長率増加に繋がり得ること、現場で働く人の健康被害が減り事業リスクが下がることを挙げます。また、そのような取り組みに対して投資マネーが回る状況が生まれていることが重要と言えます。

・マテリアリティ(企業の重要課題)の重要性

マテリアリティとは、その企業にとっての重要課題のことで、今日ではESG等サステナビリティの観点も考慮したものとされています。この考え方の説明のために、本書は、二宮尊徳(※江戸後期の経世家、思想家。一般には二宮金次郎)の言葉を引用します。

道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である

ここで道徳を社会の利益、経済を株主の利益に置き換えると、社会の利益と株主の利益は車の両輪であり、どちらも欠けてはならないことがわかります。企業の持続可能性と社会の持続可能性の両方を実現するために、適切なマテリアリティの設定が重要になるのです。


※ここからは個人的な感想ですが、こうしたパーパス、ESG、マテリアリティ等の視点に基づいた投資方法は、少なくとも2,3年以上の投資期間を設けないと超過リターンを生み出しづらいものと思われます。1年以内の投資では、業績サプライズが株価変動の主要な構成要素であるためです。

より長く投資する必要がある、もしくはそのようにしたいという意向がある場合は、上述のとおりパーパスの確認が重要となり、パーパスに沿ったESGの取り組み(マテリアリティ)が実行されているかをよく確認することが重要になるのだと思います。


まとめ

ESG投資というと綺麗事のようなイメージを抱きがちですが、投資マネーの大きな割合を占めてきており、無視できない長期潮流となっています。個人的にESGの観点は投資に取り入れてきたつもりだったのですが、具体的な数字を示されることで、自分の思っていた以上に重要な世界の流れだったことに気付かされました。自分の投資期間が少しずつ長期にシフトしているなか、読んでおいて良かった本だと感じました。

なお、今回の書評で取り上げなかった内容は数多くあります(かなり幅広い内容について書かれた本だからです)。ESGのそれぞれについては触れませんでした。E、S、Gそれぞれについて個別に詳細な説明がなされていて、S、Gについてはそれぞれ1章を割いて説明されているため、ESGはE以外よくイメージが湧かないという人にはぜひ一読をお勧めしたいです。

また、これも書評で触れませんでしたが、「あなたのパーパスは何ですか?」という最終章での問いには深く考えさせられました。僕はその時々に楽しいことに夢中になることは得意なのですが、長期的な視点で目標を立てて動くことが苦手なためです。大きなことを成し遂げるにはパーパスが必要だと思うので、考えておきたいと思いました。

このように、本書は投資をする人だけでなく、世の中の流れを知りたい人、これからの生き方・働き方を考えたい人にとっても良い本だという感想を持ちました(そもそもタイトルが2030年会社員の未来でした)。気になった方は、ぜひ手に取ってみてください。





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