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大いなる残骸の地ロスリア
オーガの村を七つ越え、龍の棲む谷を過ぎ、瘴気の沼を抜け、俺たちはこの禁じられた残骸の山に辿り着いた。
無数の錆びたガラクタが、鉄屑が、地平線を越えて、空を貫いて、山を作り出していた。
遠近感がおかしくなる光景だ。
「これで、良かったのか、本当に」
苦難の旅の終わりが、こんな終わった場所だったなんて。
「ええ。ここよ。ついに私は帰り着いた」
「世界」のどんな精霊使いにも、その名を知られて
墓地と王女と彼方の速度
鋼鉄の手すりから身を乗り出すと、眼下の雲に艦影が落ち、少し遅れて付いてくる。ゴウゴウと耳を聾する風。奇妙な静かさ。耳を澄ますと、ゴオンゴオンと、かすかに巨大な駆動音。
「でっけえよな」不意に背後でレオンが言った。彼の後ろには、どこまでも続く芝生と、見え隠れする清潔な墓標の群れ。鴉のような巡回ドローンたち。自走式空中霊園艦「グラーフ・グレイブヤード」の最上層は高層の空気の澄明さに浸されていた。
恩寵の及ぶところをさらに越えて
君は俺をネズミだという。
暗がりの中で哀れに鳴くイキモノだと。
フリーダが喉首を切り裂かれたとき、最後の息が場違いな所から洩れて血がそれに続いたとき、俺はただ。
土星コロニーの希少資源採掘ステーションには、環からやむことなく雨が降り続けている。星系中から食い詰めものが集まり、人生をドブに捨てている。
俺は君を愛していたのだろうか。ネズミなりの愛。
亡骸を一晩かけて浄め、俺はステーションを一
fight for the human's liberty!
地下水道、荒い息が闇を破る。乱舞する灯の光条。
逃げてきたのは細身の若い女だ。無言で向き直る。
益体もないことを追っ手の一人が口走りかけた。女は、構わず両手を風車のように回転させ、言った。
「変、震!」
見よ! 女の全身の関節の継ぎ目に雷光が走り、猛然と彼女を中心に竜巻のような風が起こった。風は雷光を呼び、雷光は風の中に無数の深紅の花びらを舞わせた。
暴風の中心の影は揺らぐことなく、異様
最後にして、最初の旅
人が魔女と呼ぶ年老いた女の住む家を、頑なに泣くのを拒む赤ん坊を腕に抱いた、血まみれの遍歴学生が、月のない夜更けに訪れる。
「何故」と一言問われ「分からない」そう途方に暮れたように「すまない、理由が、いるとは思わなかったんだ」やがて数日のうちに彼は死ぬ。奇妙な傷跡だった。
年は巡り、奇蹟のような猶予に過ぎないと分かっていながら、うかうかと日々は過ぎた。戦争と疫病の噂があった。
子どもは泣きなが
太平洋、スピード、そしてスピードだ!
速度だ。パシフィック・クロスでは速度だけがものを言う。
自律思考、自己修復、魔術原動機付二輪車《オートマチック》が行き交うこの《道》では、ハビタブルゾーン以外での脱落は死だ。野良オートマチックに食われるのだ。
東経140度31分、北緯20度50分に端を発し、奇妙に蛇行しながら、太平洋を斜めに突っ切って、南極大陸アデレード島へと至るパシフィック・クロスはある年、突如出現した。大混乱を乗り越えると
我らかつて妖精境にありき
明日にも魂の緒が切れるという、ハリー叔父さんの苦悶が灰色の空に漂っているような、故郷の駅に僕が降り立ったのは九月末のことだった。
法螺吹きで有名で、遠い土地の、信じられないような、毎回食い違う話をしてくれる叔父さんのことを、やがて僕は避けるようになり、遂には疎遠になってしまった。
帰省したのは叔父さんの危篤のせいではなかった。病室で眠るハリー叔父さんの身体は、風船のように膨れ上がり、さながら積
不死鳥の娘と疾風の十手
「また会えるかい」
お銀はブローニングを所在なげに玩びながら、風来坊に投げやりに問いを放った。
「星が巡れば或いは」
未練なく風来坊は渡し船に飛び乗り、大げさな礼をした。
「風に任せて街から街への旅ガラス、此度もよき一期でありやした。姐さんにもよき風の吹きますよう」
「あいよ、分かった分かった。もう行きな」
烈風が通り抜ける街を貫く大道に風来坊が姿を現したのは一月前だ。見慣れぬ男に街のギャングた
ミサ・ナイトウォーカーとリズ・ダークサイドオブムーン
放課後の誰もいない音楽室でミサが実は私は呪われた吸血鬼の一族の最後の生き残りでずっと私のことを魂のない眷属にしようと狙っていたのだけれど、どうしても出来なかったと深紅の目を泣き腫らして告白してくれたとき、私、そのときはまだ覚醒していなかった、リズ・ダークサイドオブムーンもまた彼女に、自分が月から追放された女魔術師の娘で、闇の遠縁の親戚たちから狙われているのだと告げようとしていたのだった。
しかし
くらやみノスタルジー、良薬は口にレガシー
帰り道、空き地に紙芝居のおじさんが子どもを集めていた。
見覚えのある子どもは一人もおらず、紙芝居自体は、誰が何をしているのかわからない絵で、おじさんはしかしかなりの名調子。顔は見えない。
「そのとき、カエル大将の危機に、悪漢ゴム人間マンがナメクジロボを助けに出したのでありますが、これは秘密惑星バルバラのアバガ大統領の仕掛けた罠だったのです」
ペラリ。
「おじちゃん、飴」
「はいはい。そのとき早
ダイブ・イントゥ・ザ・ダークネス 第一話 Dr. ヘーゲルと闇の世界精神
……別れを告げた筈のレギーネを巻き込んでしまった。
旧市街の半水没地区で、やつ、ヴィッセンシャフトの大幹部ドクトル・ヘーゲルは、殺戮機械《ヴェルトガイスト》とともに待ち受けていた。磔にされたレギーネは、俺が来たことを眼差しで咎めていた。
「全ては伏線、全ては《世界精神》の千年王国に至る過程。キルケゴール、何故抗う!」
殺戮機械の忌まわしい起動音が響く。右手のロケット弾《恐るべきテーゼ》と左手
遙かなる星へのレジスタンス
その日、夜空に星はなく、月は見えなかった。
夜空を銀色の宇宙艦隊が埋め尽くしていた。
魔王城ルガルヘレナの中心部で、邪竜の姿を現した魔王に、俺は魔剣フォスフォレッセンスを抜いて立ち向かおうとしていた。
その時、音もなくワープアウトしてきた艦隊は、前触れもなく、そして魔王軍と人族の区別なく、緑色の光線で攻撃し始めた。城壁はたやすく破壊され、卵の殻のように打ち砕かれ、川は火の海となり、人も魔も焼け
惑星を使役するもの 壁と巨人と世界の終わり
壁があった。僕らは世界の全ての片隅からやって来た。壁の向こうには、楽園があると言われていた。
壁の外側にはスラムができ、僕らはそこで夢を見て暮らした。逃げてきた恐ろしい場所の夢を。マスコミがやって来て、毎日、人が死んでいった。
知り合いがすべて死に絶えた頃、僕はやって来た場所のことを忘れ、壁への感情に向き合いながら、有り触れた若者になった。
そして。
予兆を見た人は少ない。すぐにビル並みの
マッド・バッド・ローラン、アンド、アザー・ストーリーズ
街道を女ガンマンが行く。馬の後ろでは、修道服の女が夕陽を眺めている。
ガンマンはブラダマンテ、修道女はメリッサ。ブラダマンテは一目惚れした黒人ガンマンのルジェロを探していた。当然一悶着あったが腕力で何とかした。
「我が師マーリンの奴、適当抜かしたんじゃねえだろうな」
独りごちたのはブラダマンテではなくメリッサ。師へのリスペクトが酷いことになっている。
「次の町に行けばルジェロにあえる、そう