携帯電話を作りたくて新卒で入ったカシオ計算機。念願かなって携帯電話の商品開発に携わっていた。しかしカシオが同事業から撤退をすることになる。普通であればそのままカシオに残って、別の事業を担当するか、別のメーカーに転職するのか。
 しかしこの彼女はなんと自分でブランドを立ち上げてしまった。2015年に起業した中澤優子氏、社員は社長一人。これまでの常識ならそんな簡単に製品が出来る訳ないと思う。
 名前は「UPQ(アップキュー)」。ホームページをのぞくと、これまでにない色使いや形の商品が並ぶ。いかにも女性がターゲットで、同性ならではの感性に訴えかける商品群は、男性中心だった家電業界とは異なるベクトルが垣間見える。経産省のベンチャー育成事業などの支援を得て、カシオ退職後に始めたカフェオーナー業の傍らスタートアップした。
 

 テレビ東京の経済番組の中で登場した彼女は、普通のOLという感じでもなくフリーランサーの出で立ちで、珈琲店のテラス席に座っていた。そこが発注メーカーと仕様についての詳細なやりとりを行う“商談室”。
 週の半分は中国・深センへ出張し、製造現場とのやりとりを行う強行軍。扱う商品はいわゆるオシャレ家電、デザイナーズ家電の範疇であろうか。
 実は黒子となる開発と製造を引き継ぎ在庫管理まで行ってくれる、専門企業があるから可能となった訳。こちらの企業もパナソニックを退職した経営者が、始めた新しい発想の家電ベンチャー。販売は特定のネットショップに絞る。ものづくりに付随するコアな部分は、別の企業にあっさり任せ、自分はいかに自分が作りたい商品を作るかに神経を注ぐ。
 商品群に関しては、プロから見ると?の付く商品も多いけど、今は話題性で持っている感じもある。いくら家電製品が平準化してしまったとはいえ、そう易々と作られてはという気持ちも一方ではある。実際、その後は新たに発売したスマートフォン製品でトラブルを連発し、事業自体も小康状態だ。
 

 しかし時代はもっとスピード感をもって変わっている。もはやこういったブランドの立ち上げ方自体は、中国などは何ら珍しくもないことに日本人はあまり気づいてこなかったことに、この本質があるように思えてくる。
 それが出来るだけの環境が中国の深センなどでは普通にあり、技術革新によってそこからユニコーンが急速に生まれつつある。
 おしゃれ家電と言えば真っ先に思い浮かぶのは、「amadana(アマダナ)」。2003年の立ち上げながら、日本の伝統美をイメージしたデザインは評価が高い。NTTドコモの人気の携帯電話を供給して注目された。
 家電量販店で販売するよりも、雑貨店や家具店でディスプレイされたほうが映える。日本の大手家電メーカーが作る画一的なデザインに飽き足らない層にも支持される要素だ。同社の取組は少し早すぎたのかもしれない。

オープン化が進む製造現場

 時は流れインターネットが生活シーンの隅々まで行き渡る。そこには単純にハードという箱を購入すれば、体験出来たコトが、ネットを通すことで、まるでスマートフォンのアプリのごとく、サービスやコンテンツとつながる。メーカーはユーザーが考える使用シーンや目的に沿って、バージョンを付加することが出来る。

 アマダナは数年前に中国のハイアール・アジア社とのパートナーシップを結び、これまでにない家電商品を生み出す力を得た。ご存じのようにハイアール社は、パナソニックがグループ化した旧三洋電機から白物家電事業を買収した。洗濯機のブランドであった「AQUA」をそのままメーカーブランドとして、ハイアールブランドとダブルで展開する。
 今や世界最大規模の家電ブランドとなったハイアールグループとはあえて一線を画して、あくまで日本発のブランドとして展開していく。

 TVでは、洗う様子が見える洗濯機の開発現場を紹介していた。要は三洋電機のDNAを引き継いできた技術スタッフ達を、いかに発想転換させるか。両社の挑戦はある意味、斜陽産業化が著しい日本の家電業界の風雲児となるかもしれないと感じる。すでに国内外にある旧三洋電機のインフラと人材を中国資本が活用し、そこに新たな頭脳が加わった。シャープなども台湾のメーカーと組んで新たなヒット商品を産みだす。

 こうした家電業界の動きは、そのまま日本全体の未来とも重なっている。日本が持つ強み基盤を動かす新たな発想で挑戦する人材の登場だ。次は自動車業界の番となる。コモディティー化で生産現場は変わった。
 香川県においてもこれまで長年にわたり培ってきた地場産業の力の可能性に挑戦する、有能な人材の発掘や、コラボによる新たなスキームの
誕生が、輝く未来への扉を開くキーとなる。メイドイン香川の挑戦を待つ。

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