遥かなる短波ラジオの彼方に

小学校高学年から高校生のころまでBCLと云う趣味をやっていた。

BCLとは” BroadCasting Listening (または Listeners)”の頭文字を取ったもので早い話がラジオを聞く趣味の事だが、単にラジオを聴く、と云うのではなく主に遠距離にあるラジオ局の放送を聞いて楽しむ趣味を指す。

私が小学生低学年のころに日本中でそのBCLがブームになった。ソニー、松下電器(現パナソニック)、東芝を初めとする日本を代表する家電メーカーのほとんどがこぞってこのBCLをするのに適したラジオを発売し、トリオ(現JVCケンウッド)や八重洲無線と云ったアマチュア無線用の機材を製作、販売していたメーカーも「通信用受信機」と銘打って高級機種を投入していた。

自宅のラジオが世界と通じていると云う事はちょうと世相的にも日中国交正常化から日中平和友好条約締結や英国のエリザベス女王の日本訪問にサミット(先進国首脳会議)がアジアで初めて東京で開催されるなどなど夏冬のオリンピックが開催されるとき位しか庶民には身近にならなかった「世界」と云うものが広く世間一般にも様々な「話題」として普通に浸透し始めていた時期でもあり、時代にマッチしていたようにも思う。

ただ小学校低学年の身にはBCLと云う趣味を通じて世界が身近になるという事は大層素晴らしい事なのだろうと云う事はなんとなくでしか理解できておらず興味はあったが実際にラジオのダイヤルを回すまでには至らなかった。

しかしながらひょんな事から「BCL入門ガイド」みたいな本をどこかで入手して元から興味はあったのでその巻末にある「世界の日本語放送一覧」みたいな局名と大体の放送スケジュール、それに周波数を書かれたページを見てラジオのダイヤルを合わせてみた。

インターネット全盛の時代の今では考えられないが、数多くの国が「自国を理解してもらうために」と云う目的のために主に短波(近隣向けには一部中波も)を使った国際放送を運営していてしかもご親切に日本語での放送もあり、一時期最大で放送が入る・入らないは別として20局くらいが日本語放送をやってくれていたように思う。

最初のころよく聞いていたのは英国のBBCだった。「イギリスからこんな日本の片田舎まで電波が届くのか!」とびっくりしたが実際はシンガポールの中継局を通してだったもののそれでも荘厳なビックベンの鐘の音ではじまる放送はロンドンの雰囲気と空気を電波に載せて我が家まで届けてくれていた。

BBCは今でもそうだし以前から「公共放送なので不偏不党な報道を心がける」と云うのがあり、英国の予算を使って英国の事を報道すると云う名目ながらいわゆる「論調」を伝えるコーナーがなく、代わりに「今日のイギリスの新聞から」と云うコーナーがあり、そこで英国の大手マスコミの社説等が引用されていた。

オンエア中のアナウンサーの「今日のガーディアンによりますと」とか云うくだりにえらく国際人になった気分がしたが、もとより小学生にガーディアンの内容とかが理解できる訳もなく、今になって考えてみるとただちょっとだけ自分が国際人になったような気がしていただけだった。

高校3年生くらいの頃から徐々にこの趣味から遠ざかっていたが、25歳くらいの時にその頃住んでいた広島の家が従来と違った放送局の電波が入るのに気づいて今度はそこまでのめり込む訳ではなかったが、5万円ほど出してソニーのその時のBCL用最新鋭ポータブル機種を買い、また始めてみた。

そしてあまりラジオ類の持ち込みには言われない国に海外出張に行く際には何回か一緒に持って行ってその時はラジオジャパン(NHKの海外向け放送・今のNHKワールド)を聞いてその日のプロ野球の結果等を同行のお客さんとかに教えてあげていた。

今では時たま短波ラジオの電源を入れ、ダイヤルを何気に合わせる位だがそれでもこの時に仕込んだ知識は今でも結構仕事も含め役に立つ事が多い。

「ネット社会」で何でもデジタル化されているこの頃だけど、入るか入らないか分からない海外からの電波を探すように、時には待ち受けるようにして雑音の中で聞いていたのはなんともアナログではあるけど、苦労して得たアナログな情報と思い出ほど色あせない気もする。


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