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お母さん、お父さん。私もラーメンが食べれるようになりました

人生ではじめて「ラーメン」というものに出会ったのは小学校3年生くらいだったと思う。はっきり覚えている。クリスマスイブの12月24日。
広島市内の「100m道路」に飾られたイルミネーションを、家族で観に行った日のことだった。

広島市内周辺に住んでいる人たちのクリスマスといえば、この100m道路に飾られた「ドリミネーション」を凍えながらみる、というのが恒例行事だった。なぜ「イル」ミネーションではなく「ドリ」ミネーションなのかはわからないが。

まあそんなこんなで、我が家も子供が大きくなって彼氏彼女を持つまではこのドリミネーションを観に出かけることが、毎年の恒例行事だったのだ。
カイロを貼って、厚いブーツをはいて、厚いダウンを羽織る。防寒対策を万全にして、キラキラと光る1年で最もたのしい街へ出かけた。

その日は雪こそ降ってはいないがかなり寒い日で、凍えながらドリミネーションを見上げていた。
どこかであたたかいものでも食べようという話になり、親が私たちを連れて行ったのが、以降私にラーメンという食べ物にトラウマを植え付けた、罪深い豚骨ラーメンの店だったのだ。
この世の終わりだと思った臭すぎるその店を今でもはっきりと覚えている。
香りだけはうまく言葉にできないというのが私の持論なんだが、あのクリスマスイブに入ったお店のくささを私もなんと言ったらいいかわからない。
吐瀉物(食事中の人、すみません!)のような、とにかく食べ物ではないヤバイ匂いがしてきたのだ。あまりの臭さに、「こんなの食べものじゃない、いやだ、帰ろう、別の店にいこう」と咄嗟に強く言ったのを今でも覚えている。大丈夫だよ、そのうち慣れるよ、と言ってくる親に根気強く反対して、結果的にジョリーパスタであたたかくも冷たくもないパスタを食べることになった。

匂いは一度嗅いだら体がずっと覚えている。
好きな人の香りは多分一生忘れないだろうし、街の中ですれ違えば、例えそれが違う人であっても必ず振り返ってしまう。
豚骨ラーメンもそうで、あの臭い匂いがずっと体に残ってしまい、とうとうラーメンそのものを拒絶するようになっていたのだ。つい最近まで、私はラーメンという食べ物が苦手だった。

じょじょにそれが改善されていったきっかけが、東京にきて美味しい煮干しの出汁のつけ麺を食べたことだった。太くて喉越しのいい麺に、かつお節のきいた魚ベースの汁。あまりの美味しさに、「麺ってたしかに美味しい!」と思うようになったのだ。

それからつけ麺で体を慣らしていくうち、私はつい最近、家系ラーメンを試すことにした。
その日も雨が降ってとても寒い日で、風の強い不快な1日だった。高校の同級生とたらふく飲んだ帰り道、寒い日に何かあたたかい麺をお腹に入れたい、と思ってふと思いついたのが、家までの帰り道にある横浜家系ラーメンだったのだ。
あそこなら夜遅くまで空いているし、あたたかい麺が出てくるだろう。たらふく飲んだ日の夜には、なぜか濃い味付けの麺を食べたくなる。半分酔ったまま扉を開けると、元気のいい店員のにいちゃんが体育会系な挨拶をかけてくれた。あたりを見回すと、黙々と麺を啜る男性客しかいない。男性客に挟まれた狭いカウンター席に通され、ベーシックなラーメンを頼んでまつ。
あっという間に出てきたのは黄色のスープとのり3枚、バターのような油の匂いが漂う豚骨ラーメンだった。
いただきます。半分酔っていたせいか、深く考えることなく麺を口に運ぶ。

うまい!!!

もっちりとした麺に、濃厚な油にまみれたスープ。やわらかいチャーシューで麺をつつんで食べると、背徳感に支えられた贅沢なおいしさが口の中に広がる。外は冷たい雨。お酒を飲んで冷えた胃にどんどん豚骨ラーメンが注がれる。満たされる。

これが家系ラーメンというやつらしい。
なーんだ。ラーメンも美味しいじゃないか。これなら私も食べられる。

とはいえ、キツい豚骨ラーメンを食べれる自信は全くない。
けれども私にとっては、「ラーメン」を啜れるということは20数年生きてきてほぼ奇跡に近いのだ。やっと私もシメの一杯を決めることができる。

実は今日も、家系ラーメンを啜ってきた。

アクセサリーを見に、ふらっとパルコに立ち寄ってしまったのだ。前にも書いたことがあるが、わたしはこういうがめつい女の店が好きではない。結局30分ほどでやられてしまい、HPをひどく消耗してしまったのだ。
疲れた。お腹もすいた。ひとりで入って、食べ物で英気を養いたい。

そうだ。あのラーメンしかない。

土曜日の夕方、人はこれから街に出かけて酒を飲むという時間帯に、私はそそくさとその家系ラーメンの店に足を運んだ。
今日はセルフサービスになっているにんにくをこれでもかというほどに麺にぶちまけてやった。スタミナをつけるためだ。
う〜〜ん、うまい。にんにくって最高だ。麺とにんにくの組み合わせを考えた人に感謝を言いたい。帰り、元気のいい店員さんがバタバタしているうちに店を出てしまった。すると律儀に後から気づいた彼が私が外に出た後に「 ありがとうございましたあ!またお願いします!」とわざわざ外まで出てきて言ってきてくれた。その親切さと徹底ぶりに益々好感度がアップしてしまった。

結果、私は帰りの一駅を歩いて帰ることにした。気づけばパルコですり減ったHPは満タンになり、るんるんな気持ちで歩き出していた。これもあのラーメンのおかげだ。

お母さん。お父さん。
あなたたちのおかげでトラウマになった豚骨ラーメンを、ついに私は克服することができました。酒の後に啜る麺はなんでこうも美味しいのでしょう。
臭みのない豚骨ラーメンは、おいしいですね。

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