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博物館へ行こう!#1「豊島区立郷土資料館」①


レンタル学芸員のはくらくです。レンタル活動以外にも訪れた博物館の記録を取って公開してみようかなと思っております。第1回で紹介するのは、「豊島区立郷土資料館」です。はじめてのレンタル活動のあとにいってきました! その様子については、下記の記事をご覧ください。

さて、本題です。今回のご依頼後に「どうせなら行ったことのない館を回って帰ろう」と思い立ち、向かったのがこちらです。池袋駅から歩いて15分ほどでしょうか? 「としま産業振興プラザ」という施設の7階に資料館があります。

としま産業振興プラザの外観 1階にはカフェがあります

ビルのワンフロアが展示施設になっているイメージです。常設展示室と企画展示室があります。まずは常設展示室から。入り口を入ると、正面には「写真でたどる豊島区年表」があります。一応、江戸時代から記載はありますが、メインは近代以降ですね。写真が多く、ビジュアル的にわかりやくいことが特徴でしょうか。この年表の貼ってあるもの自体が展示ケースになっており、背面には2つの模型が入っています。画面右奥に壁面の展示が見えていると思いますが、展示室の真ん中にこのケースがあるコンパクトな展示室です。


一つひとつみてもいいし、気になったところを広い読みでも楽しい

「コンパクトな展示室だから近代以降だけ展示しているのかな?」と思いましたが、最初の展示は剥ぎ取り標本や地形、地質の話でした! この規模の展示室でもワンテーマではなく、通史をやろうという心意気を感じます。すてき。武蔵野台地の成り立ちも紹介されていました。ざっくりした説明ですが、画面左側(写っていない部分)には考古の展示、奥の壁面が近世、ケースの裏側が近代の展示に分かれているイメージです。

ここからは、わたしが個人的に印象に残っている展示をご紹介します。

『寛永江戸全図』(部分)

こちらは豊後国臼杵藩稲葉家に伝来した現在確認できる最古の江戸図だそうです(寛永19-20年[1642-1643])。三代将軍・家光の時代ですね。キャプションには、古い寺院や大名家の下屋敷を除き、この頃の豊島区域は、ほとんどが百姓地、つまり田んぼや畑だったようです。

巣鴨のあたりを拡大

たしかに大名の下屋敷もあったようです。画面中央の長方形の部分には、「酒井河内守 下屋敷」と書かれています。どこの大名だったんでしょうね……今度調べてみようと思います。もうひとつ『江戸大江図』という万治年間(1658-1661)の江戸図がパネルになっており、

寛永末期に作成された江戸図に比べ、大名屋敷の植栽や村の付近に多くの草木が描かれており、「板橋通」(旧中山道)沿いにある「酒井雅楽頭家下屋敷」の向かい側には幕府の「御苗木畑」がみえます。
17世紀後半、上駒込村の染井地区において植木屋の活動が盛んになりますが、武家屋敷が建ち並ぶなかに、緑に囲まれた当該地域の風景がうかがえます。

『江戸大江図』キャプションより

こちらの酒井家は、川越や前橋、姫路などの藩主を務めた徳川譜代の重臣の家かと思います。ネットで検索できるレベルで調べてみたところ、『江戸大江図』が作られた時代は酒井忠清の時代だったようです。それにしても、豊島区も植木が有名だとは知りませんでした。大消費地・江戸の近郊において、広い土地を利用して仕事を行っていたんですね。染井地区の植木屋のなかでも、元禄・享保年間の伊藤伊兵衛と伊兵衛政武という人物は有名だったそうです。

植物の栽培・管理と展示、近隣の大名屋敷庭園の維持・管理、自らの経験に裏打ちされた園芸書の執筆に携わり、のちに江戸で一難の植木屋という高い評価をうけました。

展示パネル「染井の植木屋と伊藤伊兵衛」より

近代で印象的だったのは、先に紹介した2つの模型ですね。1つは「長崎アトリエ村」、もう1つは「池袋ヤミ市」の模型です。前者は芸術家向けのアトリエ付貸家群のことだそうです。昭和初年からつくれれたそうです。わたしは特に後者が面白かったです。

『池袋ヤミ市模型』

池袋のヤミ市は、太平洋戦争の直後、交通の便が良かったことなどから、急速に発展したそうです。政府が衣類や米、砂糖などの物資の供給をコントロールする統制は戦時中から行われていましたが、戦後もしばらくの間続いていました。足りない分はどうするかというと、ヤミで買うわけですね。

この模型が印象に残ったのは、個人的な理由です。わたしは幼いころ、川崎市にある溝の口という町に住んでいました。溝の口駅の近くには、薄暗い商店街があり、父はその商店街を「ヤミイチ」と呼んでいました。その言葉の響きと少し薄暗い雰囲気もあり、子ども心にあまり近づきたくないなという場所でした。あの場所も規模の差こそあれ、こんな雰囲気だったのかなぁと思いながら眺めておりました。

なお、豊島区立郷土資料館は、展示室内の撮影については申請方式になっているそうです。今回掲載した写真についても「SNS等への掲載」ということで利用申請を行い、許可をいただきました。ありがとうございます。

今回の記事はこのあたりで終わりにしたいと思います。次回は企画展示室の展示についてレポートしたいと思います!