見出し画像

ブライアン、ロジャー、アダムインタビュー(Planet Rock誌17号 2019年秋)

”We Are The CHAMPIONS ”

12か月前、クイーンの現役メンバーは、彼らの「トラブルまみれの」伝記映画「ボヘミアン・ラプソディ」につきまとうネガティブな見出しへの火消しに追われていた。いくつかのオスカーを獲得し、バンドの驚くべきストーリーや音楽が全く新しい層のファンに称賛されるようになった現在、ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー、そして「新入り」のアダム・ランバートがクイーンの驚異の一年を振り返る。

ブライアン・メイとロジャー・テイラーがクイーンの物語の映画化の可能性を脚本家のピーター・モーガンと話し合い始めてから、2018年10月23日、ウェンブリーアリーナでの「ボヘミアン・ラプソディ」ワールドプレミアまでの10年の間に、多くの紙面が作品の激動の制作過程に割かれた。

この10年で映画が完成しないと思った時はあるかとプラネットロック誌が尋ねると、クイーンのギタリストとドラマーは今日、乾いた笑いとともに全く同じ答えを返す。「何度も、何度も、何度もだ」

作品に関する話題は「ボヘミアン・ラプソディ」世界公開後、劇的に変わった。やって来てはいなくなった監督たちやセットを去った最高クラスの役者たち、ザンジバル生まれのファルーク・バルサラのロック究極のショーマンへの変化を不滅にするために紆余曲折だった脚本の微調整や修正を、今話すものはいない。

代わりに焦点が合わせられるのは、フレディ・マーキュリー役のラミ・マレックが類いまれな演技で受け取ったオスカーや英国アカデミー賞、ゴールデングローブ賞のトロフィー、9億ドル(今も増え続けている)にもなる世界での興行収入。そして「ボヘミアン・ラプソディ」が「アバター」「タイタニック」「スター・ウォーズ  エピソード1/ファントム・メナス」に次ぐ20世紀フォックス社歴代4位のヒットとなった事実だ。

映画がクイーンに与えたインパクトもまた強烈だ。2018年11月の作品公開直後の一週間、クイーンは世界で最もストリーミングされたアーチストになった。サウンドトラックはビルボード200のチャート第3位まで上がり、過去40年近くで最高位を記録したクイーンのアルバムになった。イギリスのアルバムチャートでの成績も同様だ。

6月、「ボヘミアン・ラプソディ」のオリジナルミュージックビデオはYouTubeでの視聴回数が10億回に達した。20世紀の曲としてはガンズ・アンド・ローゼズの「ノーベンバー・レイン」のプロモビデオに次いで2番目に到達した大台である。ライブの分野でもバンドへの注目度は増し、延べ25日のクイーン+アダム・ランバートのラプソディツアー北米日程には40万人余りのファンが詰めかけた。

「それはマーキュリーへの祝祭だった」7月19日と20日、LAフォーラムでのコンサートレビューでフォーブス誌は書いた。「しかし同じぐらいにクイーンのスピリット、ランバート、メイ、そしてテイラーの素晴らしい才能の祝祭でもあった。力強く、活気にあふれていた」

フィラデルフィア・インクワイアラ紙のハワード・ジェンスラーは、8月3日にウェルズファーゴセンターで行われたコンサートのレビューでさらに感情をあふれさせていた。「1970年代初期に象徴的なクイーンのバンドロゴを見下ろす不死鳥を描いた時、フレディ・マーキュリーは何かを知っていたに違いない」と彼は思いをめぐらせた。「ロックミュージックの時代でこれほどの復活を果たしたバンドはないからだ」。フレディだってこれ以上大げさには語れなかっただろう。

クイーンの現在の幸運に対するロジャー・テイラーの査定はもう少し慎重なものだ。「俺たちは戻ってきたし、流行っている」。ドラマーは簡潔に言う。「ツアーは実に素晴らしかった。これまでのアメリカツアーの中でベストかもしれない。それに若い観客の数も驚くほど多かった。彼らはおそらく映画やコマーシャル、スポーツイベントなどで俺たちの音楽を耳にしていたが、何者なのかは知らなかったのでは。映画がそれをはっきりさせてくれた」

「素晴らしかったし、少々驚きでもある」とブライアン・メイが同意する。「僕らは活動していなかったわけではない。常に表に出て動いてはいた。でもこの映画は疑いなしに新たな世代への架け橋となってくれた。新たな二世代への、かもしれない。みんな突然、曲を知っているではなく理解もするようになった。観客はふたたび若く騒々しくなり、一緒に歌いたがる」

「アメリカはずっと我々によくしてくれたが、昔の観客は叫びはしても一緒に歌ったり、”Radio Ga Ga" のハンドクラップはしなかった」と彼は続ける。「観客のパフォーマンス参加は常にクイーンの一部だったが、それが突然世界中に広まったんだ。あの映画は大きな出来事で、違う種類のエネルギーの大量注入をもたらしてくれた」

取材時は9月の後半、ラプソディツアーの北米日程は一か月前に終了したばかりだが、メイ、テイラー、ランバートは一週間のうちにアメリカに戻ることになっている。世界の貧困撲滅を目指す国際的救援への支援継続を喚起する、ニューヨークでの2019年グローバルシチズンフェスティバルのヘッドライナーとしての招待に応じたのだ。セントラルパークでのサポートキャストに、複数のプラチナディスク持ちのR&Bのスーパースター、ファレル・ウィリアムズやアリシア・キーズがいる、それがクイーンの現在の地位である。しかし2019年に浴びた多くの称賛の中にあっても、今日のインタビューがプラネットロック誌の「バンド・オブ・ザ・イヤー」選出を記念してのものだと知ると嬉しそうに見せる礼儀正しさを3人全員が持っていた。

「嬉しいよね」とブライアン・メイ。「しかもこの年齢で! 本当にありがとう。光栄だ」

「ボヘミアン・ラプソディ」のほぼ完成に近いカットを初めて見た時の反応を思い出してほしいと言われると、72歳のギタリストは即座に答えた。

「僕は泣き出してしまった」とロンドンでの家族や友人だけのプライベート試写を回想して彼は認める。「みんな泣いた。あれは圧倒的で、感情に衝撃を受け、時にはトラウマ的ですらあった。作るのに本当に長い時間がかかった映画だったが、若い俳優たちが我々の物語を語るのを見て家族たちは心を奪われたし、我々にとってどれだけ意味があることなのかもわかっていた。尋常ではない感覚だった。とても強烈な」

ロジャー・テイラーも、その試写では目を潤ませたと認めるだろう。映画の制作期間中、だらだらと続くクリエイティブな過程に、このドラマーは時にすっかりいら立っているようだった。「音楽ビジネスもスローだと思っていたが、これ(映画)はまるで ”糖蜜の中での水泳” だな」と彼はプラネットロック誌に寄稿するマーク・ブレイクに語っていた。2013年のことだ。そして今日、彼は少しずつしか進まない制作過程を思い出す。「二歩進んでは一歩下がって。一歩進んで二歩下がることもしばしばだった」

「でもほとんどの間は俺はかなりゆったり構えていた」とテイラーはつけ加える。「実現するかしないか二つに一つだし、どちらにしろ自分たちへの影響はそれほどないと思っていた。完全に間違っていたが。でももし結果がよくなかったら、その話はあまりしなかっただろうと思うね!」

「あの映画を見た時、自分は心を捕えられた。でもみんな同じかどうかが分かっていたわけではない。しかしものすごいヒットになった。作品の意図は、観客を巻き込んでさらい、フレディと音楽に触れ、感情で関わってもらうこと。涙が流れるかもしれないが、その後は元気になってもらうこと。それはできたと思うし、できない映画も多い」

「ボヘミアン・ラプソディ」を見た全員の反応が同じだったわけではない。ガーディアン紙のレビューは星二つで、「ロックの苦労話。やっかいな教訓的裏テーマあり」とはねつけた。タイムズ紙も星二つを与え、これ以上ないほどの上から目線で作品を描写した。「全く無関心な幼児が想像したロックバンドクイーンのストーリー」。サン紙のレビューの星は一つ多かったが警告も出した。「史上最高に興味深く、心を打つものにもなれたかもしれない伝記映画のバラ色バージョン以上のものを期待するなら ー ご用心」

そのような評価を気に留めたかと聞かれると、ロジャー・テイラーは大声で笑って言う。「いや全く。でもレビューが悪い作品は大体、その後大きく成功する。批評家より一般の人の方がずっとよくわかっていると思う。それに、多分週に40本ぐらいの映画を見てその喜びの本質を失っている男のレビューよりも、ソーシャルメディア経由の口コミの方がよほどパワフルなんだ」

「まっとうなレビューもいくつかはあった」と彼は指摘し、「しかし冷笑したり表面的だったりするものも多かった。お前らには分からない、と思ったね。感動しなかったって? ファックユーだ。めちゃくちゃ稼いでんだよ、と」

「見る前から判断しようとしている者たちもいた」と言い足すブライアン。「でもクイーンとマスコミの関係は常に難しかった。フレディは特に。彼以上に大変な思いをした人はいない。もちろん今では彼は聖人で国宝、誰も何も言えないが、長い間この国のメディアからはひどい扱いを受けた」

「ボヘミアン・ラプソディ」に対しては、最初からナイフを研いで待ち構えている部分がイギリスのメディアにあったのでは示唆されると、二人とも即座に同意する。「全くその通り」とテイラー。「大失敗を期待する空気のようなものがあった。ここは古くさくておかしな国だ。俺たちに人気があり過ぎるのが問題で、ただそれが気に食わないメディアが多い」 

ロサンジェルス在住20年のアダム・ランバートは「ボヘミアン・ラプソディ」制作と並行して続いたネガティブな報道について、もう少し楽天的な解釈を示す。

「話題になるのはいいことだ。それが良くても悪くても、撮影開始前から噂になっているなら、うまくやっているってことだよ!」

最終的には劇場に行く人々が作品の運命を決める。映画評論家ではない。そして「ボヘミアン・ラプソディ」が公開されると、世界中の興行収入は全く違う物語を提供した。業界の賞を本当に獲得するかもしれないと考えたことはなかったとメイとテイラーは言う。

「人々に楽しんでもらうための映画を作っていて」とテイラー。「オスカーは考えもしなかった」。ドラマ部門最優秀作品賞、ドラマ部門主演男優賞 (マレック)と二つのゴールデングローブ賞を獲得しても - テイラー「嬉しい驚きだった」– 映画業界で最も重要な夜に参加するという考えは非現実的に思えた。

しかし2月にまた、マレックはフレディ・マーキュリー役の忘れがたい演技で英国アカデミー賞の主演男優賞受賞を祝った。「ボヘミアン・ラプソディ」も最優秀音響賞を受賞。2週間後、第91回アカデミー賞のため映画業界はロサンジェルスに集まった。それまでに、クイーン+アダム・ランバートは24日の授賞式のオープニングで超一流の観客を前に ”We Will Rock You” と ”We Are The Champions” を演奏すると発表されていた。

ランバートはその夜を「クレイジーで、全く現実離れしたもの」として覚えていると振り返り、有名な顔を見つけたらと「怖すぎた」ので観客を見ないようにしていたと認める。クイーンと「ボヘミアン・ラプソディ」のキャストたちにとっては、その夜はさらに妙なものへとなっていった。

「奇妙な夢のようだよ」と認めるメイ。「どこを見ても映画界の大物やずっと尊敬してきた人たちがいて、自分たちはそこにいるべきではない背伸びした少年のように感じた。ゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞はすでに経験していたが、アカデミー賞はもちろん一大事だ。それまでの結果があっても、我々は何か賞を獲れると思って行ったわけではないと思う」「とても変な感じだった。我々はパフォーマーだ。イベントに向けて心構えをし、その場を支配すべくベストを尽くす。しかしアカデミー賞では当然、座っているだけで何もできない。だから変な感覚だ。そしてそこに座り、自分の映画の名前が勝者として読み上げられるのを何度も何度も聞くのはただ素晴らしいことだった」。5部門でノミネートされていた「ボヘミアン・ラプソディ」は4部門で勝利し - 主演男優賞、編集賞、録音賞、音響編集賞  – 作品賞を「グリーンブック」に譲っただけだった。どのように祝ったかを尋ねられるとロジャー・テイラーは笑う。

「かなりシュールだった」と彼は打ち明ける。「ホテルに戻ったが、スザンナ・リードとピアース・モーガン(イギリスの朝の番組「グッドモーニング・ブリテン」司会)に待ち伏せされていてね。彼らはスパイスガールズの誰かや他にも何人かと座っていて、その後 [ 元サッカー選手の俳優 ] ビニー・ジョーンズが来てとても楽しくなった。大した夜だったよ」

ブライアン・メイはあの夜に複雑な思いを抱いている。授賞式の直後、ギタリストはインスタグラムで自身の思いをシェアした。「我々はいまだかつてなかったやり方でアカデミー賞授賞式の幕を開けた」と彼は書いた。「多くのヒーローを含むきらびやかな観客が笑顔で僕らと一緒に歌い、こぶしを突き上げ、即座にスタンディングオベーションをするのを大興奮で眺めながら」

「それから我々は、衝撃的にも4つのオスカー像を手にして会場を後にした。その夜トップの数だ。だからみんな、その後我々が何の悩みもなくパーティーに夢中になったと思い込んでいる。しかし僕はそういうタイプの生き物ではないのだろう。当時も、そして今も、そんな期待はおそれ多くてできなかった形でフレディの映画が認められて心から感謝している。しかし映画賞シーズンを通じて、世間の言動や、それを取り囲むメディアの書き手の振る舞いには大変心を乱された」

今日、彼はそれらの言葉をそれ以上説明しようとしない。しかし、このインスタグラム投稿でも書いていたように、賛否両論のコラムニスト、トビー・ヤングによるあの夜についての論評が、自身の考えをほぼ要約しているとほのめかす。スぺクテイター誌のウエブサイトに掲載されたもので、見出しは「『ボヘミアン・ラプソディ』のオスカーでの勝利は、偉そうな映画評論家たちへの大勝利」だ。

「おかしなものだよ。だってイギリスでは『一体どうやったら "ボヘミアン・ラプソディ" が最優秀作品賞として検討されるんだよ?』なんて反応も即座に一部からあったからね」と彼は笑う。「まるで実際に映画業界で働いている人々よりも詳しいとでもいうように」

「でもとても励みになることもあった」彼は針路を変えて言う。「あの映画を息子や父親、母親と見に行って、それまで話せなかった、ゲイであることの意味や家族であることの意味を話せるようになったという手紙やメールをたくさんもらった。すごく嬉しかった」

「作品中でフレディのセクシュアリティについて十分描いていないという人もいるだろう。しかし、一般の人々に響かない映画になるのは避けつつフレディの私生活をあれだけ多く入れたのは大きな一歩だし、そう言ってくれた人も多い。すぐれた芸術作品で、誠実さがある。それにもちろん、フレディの物語が語られるのを見るのは胸が熱くなるものだった。他の人たちにとってフレディはアイコンで壁のポスターだが、我々には大切な友人だったのだから」

「今のクイーンは大きな家族だ」とアダム・ランバートは言う。「あの映画の成功はあらゆる予想を超えたと思う。成功の波が起こるたび、ブライアンとロジャーはそれはもうワクワクで誇らしげで、それを見ているのは最高だったよ。彼らと組めるのは最初から本当に嬉しかった。続けられてものすごく感謝しているし、ものすごく身の引き締まる思いだ」

ブライアン・メイにとって、2019年は「とびきり特別な」一年だった。「これ以上の華々しさは望めなかったと思う」と彼は言う。ロジャー・テイラーは過去12カ月にクイーンが楽しんだ驚くほどの成功に「やや戸惑っている」と認め、映画は「俺たちのバンド全体を完全によみがえらせた」と言う。

このストーリーへの素敵な追記として、9月28日、ラミ・マレックがニューヨークのグローバルシチズンフェスティバルでクイーンを演奏前に紹介した。「この音楽は私たちに、真の自分自身であるための決意と強さを与えてくれます」

残る質問は一つだけだ。 続編はいつ?「俺の意見では、可能性はないと言わなきゃならないな」と笑うロジャー・テイラー。「一度やったしうまくできた。それに世界的に関心を持たれるとも思えない。だからノーだね、自分としては。続編はご都合主義っぽい。俺は自分のバンドをとても誇りに思っている。人生で一番大きなものだったし、ブライアンの人生でも同じだ。そして俺たちはこれが自分のあり方ですべきことだと自覚してきたし、楽しんでもいる。今、クイーンでいるのは実にいいものだよ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?