短編小説「三原色の内蔵の透明なワーム」
言えなかった。あの日。
君が、屈託のない笑顔を向けるから。
太陽にかざしたビー玉みたいに、
透き通った瞳で、
私を見つめるから。
君と私は同性で、別にそれは、
関係ないのかもしれないけれど、
今この瞬間だけは、
私たちの間に真実は必要ないと思ったから。
どこで間違ってしまったのかな。
あのね、本当はわかってたんだ。
あの日、君が見せてくれたもの。
手の中の薄い板に映る、1枚の写真。
君は無邪気に笑っていたけれど、
君よりも少し、長く生きてる私には、
それが何なのか、一瞬でわかった。
あの時、私の時間は完全に止まったんだ。
どうしてかな。
あの時のこと、もうよく思い出せないよ。
赤と青と黄。
三原色の鮮やかな3つの球体には、
複数の凹凸が付いていて、
意図的に透過された、ワーム状の身体に
内臓のように収まっている。
周囲に広がる透明な液体は、
まるで清涼飲料水の広告みたい。
『新卒ちゃん、それさ、』
『オ◯ホール。』
そう、君が見つけたその画像。
男性用セルフプレジャー、◯ナホール。
どうしてかな。
私、君と仲良くなりたくて、
SNSで話題の漫画の話をしてたのに。
今思えば、作品内の擬音語で検索したのが
良くなったのかもしれないね。
だからって、罠過ぎん?
どうなっとんねん、最近のインターネット。
「もぅ〜。こんなのしか出てきませんよ?」
笑う君。
音が消えて白んでいく世界と、硬直する身体。
生まれて初めて「永遠」を感じた。
本当のことは、
知らなくて良いよ。
嘘つきな先輩でごめんね。
それでもたまに思い返してしまうんだ。
あの日の、
君の眩しい笑顔と、
君が見つけた、
「三原色の内臓の透明なワーム」。
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