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牛丼つゆだく問題 (投資信託の場合)

林伸次さんの以前のcakes記事です。
有料記事なので「バーで牛丼つゆだく問題」って?という疑問は記事を買ってみてくださいね。

バーやレストランの体験価値。これはどんなもので構成されているか。
お料理やお酒、飲み物といった食事はもちろんですが、雰囲気やそこで交わされる会話も価値をつくっていますよね。他にも色々ありますが、その場、その間に居合わせた他のお客さんも体験価値に関わってくることがあると思います。
居合わせたお客さんのせいで全てがぶち壊されることも、ありますよね。

「バーで牛丼つゆだく問題」を読んでみてすぐに思い出したのが、『投資信託事情』2022年10月号に寄稿した 「こんなはずじゃなかった!」 です。

https://ibbotson.co.jp/researchjitr/

投資信託にも「牛丼つゆだく問題」に相似の現象が見られます。

その場に居合わせたお客さんの言動で「なんだかなぁ」となってしまうことがあります。
SNSを見ていると、こんな例があります。

ご自身の保有されているファンドの損益を毎日ツイートされています。評価損を抱えられているようで「恨み節」のようにも見えます。僕の試算ではそのツイートの主はそのファンドを1年くらい前に一括で買い付けられたものと推測されます。ファンドの設定来高値近辺です。その後、そのファンドの基準価額が下落基調に入ったことで目下、評価損になってしまっているようです。

こうしたツイートを毎日、毎日発信されていると「なんだかなぁ」と感じてしまいます。

「牛丼つゆだく問題」が起きる理由

この問題が起きる理由を考えてみました。
お店とお客さんとの間に「目線」「期待」が異なっている、
そこにミスマッチがあるから。
これだと思います。

お店で体験する価値は、お店側が提供するもので多くは決められますがお客さん側がもたらすものにも影響を受けるのは上述の通りです。居合わせたお客さんがその価値を台無しにしていまうことも。
お店、お客さんとの協働、そのプロセスで創り上げられる価値なんだと思います。そんなプロセスが時間とともに積み重なってお店のブランドがつくられていく。「老舗」「のれん」ってそういうものだろう、って思います。

投資信託、ファンドでも同じことが言えそうです。

ファンドと投資家との間の「目線」「期待」があれば、「こんなはずじゃなかった!」が起きてしまう確率が格段に高まります。

評価損を抱えている投資家が「こんなに評価損があるんです」とツイートして「こんなはずじゃなかった!」を毎日発信している一方で、このツイートを見ているであろうファンドの皆さんも「こんなはずじゃなかった!」と感じているんじゃないか、と推測します(ファンド側の人はそんな所感を発信することはできないでしょうけれど)。

誤解を恐れずに言っちゃうと、ファンドも投資家を選ぶ必要があるんじゃないか、ってことです。

株式投資で果実を得るには相応の時間が掛かります。一朝一夕に簡単に果実が得られるとすればそれは「投機」の可能性が高い。
じゃあ相応の時間ってどのくらいよ、という問いが生まれますが、それをファンドは具体的に示すべきなんだろう、って思います。

僕が毎月追加で買い増し続けているファンドの一つ、スパークスさんの厳選投資。その厳選投資の月次レポート(2019年3月末基準)にはこんな記載があります。

https://www.sparx.co.jp/mutual/uploads/pdf/gen_201903.pdf

企業の経営者は単年度業績だけを考えて経営しているわけではなく、中長期的(3~5年以上)な 成長を優先して様々な努力をしています。同様に私どもの投資行動も中長期の時間軸を前提にしています。

僕たちは株式を保有することで、その会社の事業活動に関わっています。もうめっちゃくちゃ少ないシェアではありますが、会社が「お店」だとしたら”お店側”に関わっているとさえ言えます。

とにもかくにも、ファンドに資金を託す投資家と、ファンドとの間の目線が合っているか、は投資を通じて得られる果実に大きく影響する。僕はそう考えています。

この辺の目線を、考え方を、ファンドと投資家との間で、時間をかけて合わせていかなければ、ファンドの「牛丼つゆだく問題」は存在し続けるのではないでしょうか。

ファンドの広告内容、再考の余地ありませんか?

ネットで掲出されているファンドの広告。その多くは結果、パフォーマンスを前面に押し出しているものが多いように感じます。結果、パフォーマンスをアピールすればそれに魅力を感じた人を引き寄せるのは至極当然のことだと思います。

でも、結果、パフォーマンスは過去のことであって、将来がどうなるかはわかりません。ランディングページでその種の説明をしていても、その説明はパフォーマンスを見てやってきた訪問者に届くでしょうか。甚だ疑問です。

パフォーマンスを喧伝する広告も、「牛丼つゆだく問題」の原因の一つでしょう。入口で、ファンドと投資家との「目線」のミスマッチをつくっているわけですから。

もちろん、時間をかけてそのミスマッチを解消するような努力にファンド、投資家の双方で取り組むことも可能だと思います。が、かなり難しいでしょう。

ファンドがどんな体験価値を提供しうるのか、ファンドの「目線」、それらを広告で示していくこと。長い目で見れば、「ブランド」「老舗」「のれん」に通じているように思います。

ミスマッチに向き合う意思の表れ:月次レポート

ファンドと投資家との目線、考え方のミスマッチを小さくしていくためには、日々の情報発信が大きな役割を担っていると思っています。ですから、ファンドの月次レポートって大事なんですよ。
気合いに溢れるレポートは、そのミスマッチを小さくしよう、小さくしたいという意思の表れだと思います。
「やっつけ仕事」感溢れるレポートは、「牛丼つゆだく問題」を放置、増幅させる温床にもなっていると思います。

#月次レポート研究所  をよろしくお願いします。


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