真夏の天使 薄荷飴
アルコールがないと孤独な夜を超えられないように
恋がないと人生味気ないように
アイスがないと夏を乗り越えられないような気がする。
私はハーゲンダッツにカルーアを混ぜて食べるという
キンキンの禁忌を犯しながら
終わった恋の一部始終を口の中へと押し込んだ。
昨夜まで私の体内を流れていた
殺意によく似た灼熱の血の余熱で
アルコール度数のやけに高いバニラアイスは
舌の上に乗せた瞬間するするとほどけて
はじめからそこになかったかのように溶けていった。
ばかに素直すぎるやさしさと毒のような思い出だけを残して――
夏の夜の部屋を満たす心地よい冷房と
喉の奥で絡まるうれしい甘味が
思考の放棄をうながす。
それはまるで母親が子を寝かしつけるようなやわらかな所作で。
「全部吐き出してしまいなさい」と耳元でささやくように
快楽物質が私の服を一枚一枚脱がしていく。
午前0時のワンルームで
大人げないほど上機嫌に
別れた恋人への呪い歌を歌う
私は真夏の天使になる。
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