見出し画像

中国におけるMBTIの流行は何故なのか

 MBTI、あるいは16タイプ診断と言えばわかりやすいだろう。INFPとか、ESTJとか、使用する心理機能の傾向によって、人の性格を16タイプに分類する性格診断テストである。日本では数年前、2016年くらいから流行しているので、知っている人も多いだろう。そんなMBTIが、最近中国でも流行しているようなのだ。

 自分が16タイプ診断を知ったのは2015年だった。大学の就職支援と言うか、キャリアデザイン系の講義で題材になっていた。当時は日本でも知っている人はあまりおらず、ネットの一部で話題になっている程度で、黎明期という印象だった。確かこの年に、日本ネットのMBTI界隈であれば誰もが知っている伝説の解説サイトができ、その影響もあって有名になっていったような気がする。現在ではそのサイトは閉鎖されてしまったが、文章自体はwikiwikiにコピペされて残っているため、見覚えがある人も多いだろう。

↑伝説のサイトのまとめwiki

小紅書で検索すると、関連する投稿がいくつも出てくる

 そんなMBTIが、今中国で流行している。小紅書(RED)という名のチャイニーズインスタグラムでMBTIに関する単語を検索すると、それに関する投稿が大量に存在しており、流行の度合いが高いことが分かる。私のWechatのモーメンツ上でも、MBTI関連の投稿を時々見るようになった。

 では一体いつから中国での流行が始まったのだろうか?私が初めて中国に行ったのは2016年だが、この年では周りの中国人に尋ねても、知っている人は誰もいなかった。二度目は2018年から2019年の一年間、中国に滞在したが、MBTIに関する話は聞いていないと思う。この頃になると、16タイプ診断は自分にとって当たり前の知識になっていたので、あまり相手のタイプを聞くようなことはしなくなっていたため、質問する機会もなかった。となると、やはりコロナ騒動が始まった2020年以降に流行しだしたのだろうか?

 では何故、中国でもMBTIが流行りだしたのだろうか。コロナ発生後の2020年以降の出来事だと仮定すると、やはりコロナの影響は無視できないと考える。当時は自由に外に出ることもできず、生活を制限され、必然的に人々が内省的になっていた時期だった。そんな状況では、外向的な人であっても、自らの内面、自分への理解に意識が向くのも正常なことだ。
 中国人の自己意識の変容、と考えることもできる。厳しいロックダウンを経験したことによって、集団から切り離された自己という認識が強くなっていったのではないか。中国は、共産党による「大きい物語」の影響力が非常に強い国だ。中国特色社会主義、中国夢、そういった独自の単語を使って、中国という国を1つにまとめ上げようとしている。中国人全員が同じ物語に向かって進んでいけるよう、道が整備されている。国土も人口も膨大で、なおかつ多民族国家である中国の安定には、それが欠かせないのだろう。だがコロナ禍により、社会から切り離された、一定の距離をおいた生活が当たり前になった。その暮らしの中で、「小さい物語」を求める人が増えてきたのではないか。MBTIの16タイプ診断は、そんな「私」の物語に対して、手っ取り早く道を示してくれる。ネット上でタイプ別に集まることもできるし、16タイプという共通の概念を用いて、「私は〇〇タイプ」と簡単に自己表現することも可能だ。早い、安い(無料)、うまい。だからこそ、これほど重宝されているのだろう。

 中国人の一般民衆も、「大きい物語」に疑問を持っているわけではないはずだ。そもそもMBTI自体、国家や社会の常識と比較すれば小さいというだけであって、その概念自体はグローバルなものであり、十分に大きい。それでも中国人の意識の個人化が進んでいることは注目すべきことだ。「自分は何者であるか」という、アイデンティティを失い彷徨う現代日本社会のようなテーマを中国社会も共有し始めているというのは、とても興味深い。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?