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31.オリーブくん

アラームよりも先に目が覚めた朝。
カーテンをあけて今日もよく晴れたな、と
昨日ばいばいした、新しい太陽の光を浴びながら
背伸びと、あくびをぽくぽく。

2年間使っていた
黄色と青のコーヒーカップの底に
コーヒーの染みがつもり、
とうとう洗剤とスポンジでは
取れなくなってしまったので
最近新しいカップを買った。

キャラメル色のダブルウォールグラスで、
心地よいカーブを描いた
指が3本程入るすこし大きめの持ち手が
コチンとくっついている。
サボりがちだったが
たまには時間をかけて豆を挽いて
丁寧にコーヒーを淹れるのも良い。

いつもよりもゆっくりと準備をして
お気に入りの音楽をかけながら
自分のための朝食を用意して食べる。
1人でも、
「いただきます」と
「ごちそうさま」を言って。

駅までは歩いて13分ほど。
晴れた日は自転車で行く選択肢があるが
今日は歩いて行こうと決めた。

父のお下がりの自転車は
白いジャイアントのクロスバイクで、
スカートやワイドなボトムス
ロングコートなどは汚してしまうし
巻き込んだら危険なので着ては乗れない。

冬の間は寒がりでロングコートが手放せないし
何よりハンドルを握る手や、
帰り道、家路を急いで、ぐんぐんペダルを漕ぐと
顔に当たる冷気に刺されて叫びそうになるので
徒歩を選ぶことが多くなっていた。

いつもより早く起きられたのに
ゆっくりと準備したせいか、
結局いつもの時刻に改札を通った。

春色の電車に乗って目的地を目指す。
コードのストレスから逃れる為に
ワイヤレスイヤホンを購入してからは
毎日それを使っていたのだが。
充電をし忘れていたようで、
耳の中でぷつりと音楽がやんでしまった。

こんな時のために、有線イヤホンも
リュックの小さなポケットにしまっていた。
5年ほど前にお世話になっていた
ミュージシャンに頂いた
オーディオテクニカのATH-LS200。
久しぶりに繋いだらとても良いものを頂いたな
と感動した。
良い音だと感じた自分の耳にも驚いた。

ハンバートハンバート
しみじみと音のつぶつぶを味わっていると
車窓の向こう、アパートのベランダで
オリーブの葉がぴんと太陽へ向かって起立していた。
「やぁ、オリーブくん。
君もいい朝に出会えたようだね」と
心の中で挨拶をした。

こんな朝が迎えられることに
しあわせを感じながら。

生まれ変わったような気分になっていた

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