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《小説》赤と青の交差の先に 1-2

 仕事終わり、夏海は友達に合コンに誘われたと目を輝かせながら私に報告してきた。一緒にどうかと誘われたが、やんわりと断った。
 今日は10時からの恋愛ものドラマの第4話。大好きなドラマだ。録画もするが毎回オンタイムでお酒片手にテレビに齧り付いてみている。男には恐怖心しかない私だが、ドラマは別だ。あんな風に綺麗な恋愛だけが出来たらどれだけ幸せだろうか。
 時刻は8時過ぎ。少しだけ残業があったが、真っ直ぐ帰るには少し時間がある。お酒のおつまみでも何か買っていこうかと駅前の交差点で考えながら歩いていた時だった。
「おねーさーん。可愛いねぇ。ひとりー?」
20代前半くらいの若い男の人が話しかけてきた。若干お酒臭い。飲んできたのだろう。
30も過ぎた女をナンパですか。暇人か。
「すみません、急いでますので」
スルーしようとすると腕を掴まれる。
「まってよー。いいじゃん少しくらい遊ぼーよ」
「俺らとイイコトしようぜ〜」
「すみません。やめてください」
しつこいため、履いているヒールで足を踏んで逃げようとしたが、足元を見て後悔。昨日の雨でヒールが乾かず、ヒールのないパンプスを履いてきていたんだった。
仕方が無いのでキッと睨む。
「なにそれ、抵抗のつもりー? かわいいじゃん」
効果なし。それどころか、相手は腕を掴む力を強くしてきた。振りほどこうにもほどけない。
「いやっ、やめて!」
「きいたか? やめて! だって。くくく。かわいー」
逃げようとする方向を塞がれ、振り返っても道を閉ざされ怖くなる。目の前には首にタトゥーの入った長身の男。後ろはスポーツでもやっているくらいのガタイのいい男。
「大人しくしてたら悪いようにはしないよー?」
最悪だ。でも抵抗しないとと藻掻くが意味をなさなかった。
思わず涙が出そうになる。
「えー、泣いちゃうの? かわいいね。もっと泣かせてあげたくなる」
Sっけのある顔をされて血の気が引いたが、その瞬間掴まれていた腕が突如離され思わずよろめく。
「俺の彼女に何してるの?」
見上げると紅林康介の姿がそこにあった。王子様だと思った。


営業課の康介は佐々木部長達と一緒に飲んでいた。
「部長、穴埋めって他部署からの異動とかって可能なんすかね?」
「関谷、いきなりなんだよ」
「いやね、康ちゃん先輩。実は今日、事務のエリートと初対面しまして」
「え、麗華さま!?」
佐々木部長が身を乗り出す。
営業課では事務課の蒼井麗華は事務のエリートと呼ばれるほど有名どころだ。クールビューティーで仕事をバリバリこなすキャリアウーマン。可愛いが代名詞の橋爪夏海と同じくらい、周りから絶大な信頼を得ている。
「そうなんすよ、麗華さまっす。今日橋爪ちゃんとお昼食べてるところに遭遇したんすけど。どうやら彼女、営業志望らしいっすよ」
「すまん、麗華さまって誰?」
蒼井麗華の存在をよく知らない康介が尋ねると2人から同時にツッコまれた。
「紅林、もう少し周りを見た方がいい」
「そうすよ、康ちゃん先輩。麗華さまを知らないなんて……」
そう言われても……、と困り顔になる。
その後、飲みが終わるまで2人から散々情報を叩き込まれた康介だった。

「お疲れでーすっ」
 いい感じの酔い方をした関谷と部長とお店を出たのは8時過ぎ。駅前は家路に着く人、これから飲み屋へ入る人、ゲーセンやカラオケに足を運ぶ人などが入り乱れていた。
 そんな時だった。
「やめて!」
嫌がる女性の声が聞こえ、反射的に振り返る。ナンパされているのか3人くらいの男に囲まれていた。
「あれ?」
「部長、どうかしました?」
「いやな。多分絡まれてるの、麗華さまだぞ…………っておい、紅林!」
それを聞くと康介は飛び出した。
他部署とはいえ、社内の人間。ほっとけるわけがなかった。
「でたでた。康ちゃん先輩の人助け体質」
こうなった康介は誰にも止められない。

「俺の彼女に何してるの?」
「は? 誰だ、てめぇ」
「あれ聞こえなかった?」
そういうと康介は睨みをきかせながら再度言う。思わず康介の腕にしがみつく。
「俺の彼女に何してんのかって聞いてんだよ。分かったらとっとと失せろ」
チッ……! と舌打ちをしながら、取り囲んでいた3人組がはけていく。
「大丈夫?」
「あ、えと、はい。大丈夫……です」
遠くにお昼に話した関谷さんが見える。そうするとこの人も会社の人だ。誰だっけ……、と私は考える。
あ、そうか。この人、どこかで見たことあると思ったら営業の紅林さんだ。夏海から写真を見せてもらったことがあったが、本人とは初対面だった。
「すみません。紅林さん、ですよね? ありがとうございます」
「いえいえ、無事で良かった。あ、ごめんね。彼女とか言っちゃって。嫌だったよね?」
「あ、いえ大丈夫です」
助けるため、とっさに嘘をついてくれたのだろう。
「大丈夫? 送ろうか?」
「大丈夫です。お気遣い感謝します」
「いや、近くまで送ってあげなさい」
そういったのは営業の佐々木部長だった。
「佐々木さん、おつかれさまです」
「夜の街は怖いから。こいつガタイ良いし、ボディーガードと思えば、ね」
「ですが……」
「また同じ目に遭わない保障はないから。ね?」
部長に押し切られ、近くまで送ってもらう事になったのだった。

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