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戦いの終わりに

※即興小説トレーニングで書いたお話です。
お題:知らぬ間の吐息
制限時間:30分
文字数:950文字
掲載元:http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=625528

 すっかり日が暮れてしまった、暗い公園のど真ん中で一人の少女が大の字で寝転がっている。白いワイシャツにプリーツのスカートという出立ちの彼女は、目を閉じているようだ。
「おーい、大丈夫か」
 公園の出入り口から入ってきた背の高い少年が、そう声をかけながら少女に歩み寄る。
「……って、こんな状態じゃあな」
 少年はポツリと呟いて、少女の近くで両膝をついて座る。ピクリとも動かない少女の体の表面からは、わずかだが白い湯気のようなものが立ち上っているのが見て取れるのだった。
「魔法少女が代々の家業とは、ほんと恐れ入ったもんだよ」
「……何よ、急に」
 突然、少女が口をきいた。
「なんだ、もうパワー切れで寝落ちしたものかと思ってたのに」
 少年が軽口を叩くと、少女は目を閉じたままで続ける。
「今日は百パーの力出してなかったからね……これでもセーブ出来るところはセーブしたのよ」
「その結果が、二十階建てビルを全壊したのち敵を殲滅、かあ。末恐ろしいもんだ」
「なあんだ、褒めてくれないの」
 疲れ切った口調で言って、少女はそこでやっと目を開けた。
「いや、よくやったよ」
 少年は静かに頷いた。
「手段はどうであれ、敵を完全に倒すことが今回の目的だった。それをちゃんと達成出来たんだから、今回は本当によく頑張った」
「そりゃどーも……」
「レベルアップもそろそろ出来そうだな、この調子だと」
「あともう一段階レベルが上がれば、もっと強力な魔法が使えるようになるし……頑張らないと」
 少女は、ゆっくりと目を閉じた。
「その分体力の消耗が激しくなるから、回復魔法も合わせて覚えないとな」
「……」
「って、今度こそ寝落ちしたか。まあ、この調子じゃあ丸二日は起きなさそうだな」
 少年は言って、少し目を細めた。それから少女の体を抱きかかえると、ゆっくりと立ち上がった。
 眠りに落ちた少女は、表情一つ変えずに静かに寝息を立てている。その様子を確認して、少年は一つ吐息をついた。長い長い吐息だった。
 まだ高い体熱を持ったままの少女を大事そうに抱えて、少年は公園の出入り口へと向かって歩き出す。
「戦い続けることが正義、だとお前は思っているかもしれないけど……案外、そうでもないんだぜ」
 呟きながら進む少年の足取りは、力強かった。

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