見出し画像

無数の光にザワついて

夜景スポットと呼ばれる場所行ったことがないという人は少ないと思う。
僕も何度か行ったことがある。夜の暗闇に広がる無数の光。確かに綺麗だ。しかし、僕は夜景が苦手だ。

その理由の一つは、あの独特な雰囲気のせいだと言わざるを得ない。
夜景を見るには、街を一望できる高い場所でなくてはならない。大抵は山の上で、人気の少ない場所であることが多い。まず、夜に人気の少ないところに行くということに肝試し的な怖さを感じていまう。場所によっては、観光地として本やサイトに掲載され、夜景を見るために綺麗に整備されているところもある。しかし、その道中は大概が暗い山道だ。ビビりな僕の場合は、車の中にいても少し不気味に思ってしまう。もし、うっかり何か異様なものが見えてしまった時には、夜景どころではなくなってしまう。
綺麗なものを見に行く時に、恐怖心がセットでついてくるのは改めて考えると異様だ。

しかし、実際に夜景スポットに行くと、心霊とはかけ離れた世界が広がっている。敷き詰められた車、そこ此処から聞こえるひそひそ話。示し合わせたかのように集まったカップル達は、ほぼ100%の確率でロマンスしている。それは決して悪いことではないし、批判しているわけでも、嫉妬しているわけでもない。ロマンチックな空間であることは紛れもない事実だ。それに、集まったカップル達は、お互いのこと以外眼中にない。メインだったはずの夜景はものの数秒で背景と化す。それを考えると、普段よりも心がオープンになってしまうのは致し方ないことだと思う。その空間でしか味わえない二人だけの世界があることは素敵なことだ。
だが、それが道中で拾い集めてきた恐怖心と入り混じった時、なんともいえない独特な雰囲気が完成する。ロマンスしているカップルだって、夢中になっていながらも、多少は夜の山への恐怖を感じているはずだ。
しかし、これ以上に大きな理由が別にある。


そもそも夜景は自然にできるものではない。人が生活する中で、発せられる様々な光を俯瞰で見た時、それが夜景と呼ばれる。そうでないものもあるのかもしれないが、少なくとも日本三大夜景と呼ばれている夜景は全て山の上から見る街の明かりだ。
これが、僕が夜景に苦手意識を感じてしまう一番の理由だ。
街の明かりということは、言い換えれば、その一つ一つが生活の明かりということになる。夜景が綺麗に見えるのはほとんどが夜になっても明るい都会の街だ。僕の生まれ育った田舎では、21時を過ぎると真っ暗になるような地域もある。夜になっても明るいということは、それだけたくさんの人が生活しているということだ。たくさんの人が生活しているということは、その分だけ感情が存在することになる。無感情で生きている人はほとんどいないからだ。

ここで、少し整理しようと思う。
夜景=街の明かり
街の明かり=生活の明かり
生活の明かり=人の数
人の数=生まれる感情の数
少し極端だが、僕の感覚で表すとこんな感じだ。
つまり、夜景として見える光の一つ一つに人の感情が宿っているということになる。

当然、山の上から人の姿を捉えることはできない。
しかし、それがかえって想像力を搔き立てるのだ。
僕が見た夜景の中には、上品なホテルの一室で彼氏から指輪をもらって喜んでいる女性やタバコの銘柄がわからないコンビニ定員に怒っているおじさんがいただろう。仕事でミスした悲しみを頼れる女上司に慰めてもらう新人社員もいただろうし、飲み会帰りに「楽しかったー!」と笑い合っている大学生もきっといた。もっと想像を膨らますと、明かりが消えているところには、夢見る貧乏芸人や悩みを抱えて眠れずにいる思春期の学生がいたかもしれない。

山の上から見える、大きな光の中では僕が想像できないような楽しい出来事が起きていて、大きな光の中の、小さな暗がりのでは僕には想像できないような悲しい出来事が起こっているのかもしれない。
そんなことを考え出すと、夜景を素直に楽しめなくなってしまうのだ。

この世の中に完璧なものなんてないと思う。
どんなに綺麗に見えるものでも、裏を返せば欠点や汚点がある。
それも全部含めて、美しいと思えるようになれば、僕も人として一歩成長できるような気がしている。

夜景の話はこれで終わりだが、ここまで読んでくれたあなたに一つだけ大切なことを伝えておかなくてはならない。

今回、このテーマで書いたのは、僕の想像力を自慢したかったわけでも、天才肌に憧れて繊細さをアピールしたかったわけでもない。あくまでも、思ったことを純粋な気持ちで綴っただけだ。
自己プロデュース的な思惑があったわけではないことをここに宣言する。

この「ぼくのはなし」は、読んでくれたあなたにとって、なんの得にもならないだろう。ただもし、少しでも共感できる部分があったなら、また僕の話を聞いてほしい。

大切なことを最後にもう一度、念を押して言っておく。
僕はこのテーマを使って、想像力を自慢したかったわけでも、繊細さをアピールしたかったわけでもない。

神に……いや、1000万ドルの夜景に誓う。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
また、ぼくのはなしを聞いてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?