インドのブーム

イギリス人とビジネスを始めたいならカツカレーの話題は必須だ。イギリスで日本のカツカレーは完全に定番食になっている。イギリス人にお気に入りの日本のカツカレー店を紹介したり、場合によっては自宅でカツカレーを振る舞うと喜ばれるはずだ。インド人と仲良くなりたいなら日本のアニメの話題は必須だ。「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」はインドで放送されていて人気だ。最近では40年前のアニメ「おぼっちゃまくん」が現地で大ブームだ。主人公の御坊茶魔やびんぼっちゃまくんは会話の共通の話題になるだろう。親しいインド人と握手する際には茶魔語を駆使して「ともだ○んこ」と発声すれば、2人の距離はぐっと縮まるだろう。もちろん相手は慎重に選ぶべきだ。初対面の年上でしかも硬そうなインド人に「ともだ○んこ」は危険すぎる。信用と仕事を同時に失う。
「おぼっちゃまくん」はテレビ朝日(9409)がインドの放送局にライセンスを供与している。インドでは、おぼっちゃまくんの「唯一無二のユニークさ」や「“学園モノ” という、子供たちに身近な設定で、滅茶苦茶なことが起きるさま」がウケているそうだ。テレビ朝日の担当者は「インドは人口14億人、子供だけで4億人いる、とても勢いのある国です。『おぼっちゃまくん』のアニメが放送されていた1980年代、1990年代は日本にもとても勢いがありました。『おぼっちゃまくん』の “勢いのある(ありすぎる)作風” が、インドという国の勢いにシンクロして、いい形で弾けたのだ」と説明している。そして実は勢いがあるのは「おぼっちゃまくん」やインドだけではない。テレビ朝日にも勢いがある。
例えばテレビ朝日の世帯視聴率を見てみよう。前期の全日、ゴールデン、プライムの視聴率は全てトップで、視聴率三冠王を達成している。これは開局初の出来事だ。しかも前期の営業利益は214億円で過去最高だ。テレビ離れが叫ばれている。それでもテレビ朝日には「相棒」や「ドクターX」などの強力なドラマコンテンツある。安定的に広告枠を販売することは可能である。さらに適切な経費管理で過去最高の営業利益を計上したようだ。
インターネット展開も重要だ。インターネットで番組を配信するTVerは今年の4月から地上波番組のリアルタイム配信を始めた。テレビ朝日の番組が地上波で完全に放送されていない県は実は多い。山梨や富山など8県もある。TVerには広告枠があるので、テレビ朝日は未放送地域で新しい視聴者を獲得し広告を販売することが可能になっている。そしてネット配信のABEMAも重要だ。テレビ朝日はABEMAに出資している。出資比率はサイバーエージェントが6割、テレビ朝日が4割だ。今年11月のサッカーワールドカップはABEMAが全試合を放送する。ABEMAでしか視聴できない試合は多数ある。例えば日本と同グループのスペインVSドイツの強豪対決は地上波の放送予定がない。さらに準々決勝4試合のうち、2試合も地上波の放送がなくABEMAのみだ。ワールドカップでABEMAの加入者数が大幅に増え、それはテレビ朝日の株価評価にプラスに働こう。
このようにテレビ朝日には勢いがある。一方で株価を見るとほぼボトム圏だ。とても「おぼっちゃまくん」ブームを織り込んだ水準ではない。今のところ「おぼっちゃまくん」の収益インパクトは不明だ。それでも40年以上前に制作されたアニメの再放送だ。コストはほぼゼロだろう。テレビ朝日の株価も「おぼっちゃまくん」で弾けると考える。

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