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【小説】開高健の「パニック」。保身に汲々とする役人の無能と愚かさを痛烈に風刺した作品。

先日芥川賞を受賞した開高健氏の「パニック・裸の王様」の記事を書きましたが(記事はこちら)、同作品の中の「パニック」を週末に読んでみました。

この小説では、大量繁殖したネズミの処置を通して、保身に汲々とする役人の無能と愚かさを痛烈に風刺した作品。作品を通じて、組織の中にある人間について考究されている点に特色があり、1957年に『新日本文学』誌に発表され、平野謙に称賛されて注目を浴びた作品として知られています。

物語は、ある地方で120年ぶりに一斉に笹が花を開き、実を結んだことから話は始まります。笹は救荒植物の一つであり、この実を巡って、あらゆる種類の野ネズミが集まり、田畑や林から一斉移動し、大量繁殖するという現象が起きます。

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鼠と聞いて、唾棄しそうになった皆様、私も鼠と聞くと虫唾が走るほど嫌悪感を覚えます。渋谷での鼠の大繁殖の騒動は記憶に新しいところ。youtubeにアップされた渋谷の街を縦横無尽に闊歩する鼠の姿を見ると、背筋が寒くなりますよね。

そんな鼠を退治すべく物語の主人公、俊介が務める県庁山林課では、多数の鼠害の苦情や陳情書が連日のように押し寄せられてんやわんやの大騒ぎに。山林課は緊急に鼠害対策委員会を設け、俊介の意向で近県の動物業者から鼠の天敵であるイタチやヘビを買い、マークを付けて野に放ち、殺鼠剤を業者から買い集めて、被害地に配る計画を立てます。

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鼠の大虐殺の計画を立てたはいいものの、如何せん、鼠の数は予想以上に多く、対策はまるで効果はありませんでした。次第に人々は、鼠を媒介とした伝染病の幻に怯え始め、街の医師は誇大妄想に陥った患者の対応に追われました。そう小説の題名の通り、人々はパニックに陥ったわけです。

伝染病といえばデング熱、マラリア、 エボラ出血熱なんかを思い浮かべますが、麻疹や風疹、インフルエンザも伝染病ですよね。動物を媒介するものや空気中に浮遊した微生物を吸う空気感染、接触感染と呼ばれる個体同士の接触、もうどんな環境に身をおいても伝染病の危険性はあります。それこそ無菌室に身を置くしか手がありません。

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話は戻り、ネズミ騒動は政治現象にまで発展し、野党がこぞって官僚・知事の腐敗・怠慢を非難するようになりました。この騒動の渦中に、購入したイタチにマークを付けて放ったイタチが含まれるという不正事件が起きた。つまり野に放ったイタチを捕獲して再度、売買するという不正が発覚したのです。

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俊介は課長にイタチの動物業者の出入りの差し止めを申し出たが、その夜、俊介は課長に呼ばれ、ラジオと新聞で鼠害が終了したと言う嘘の宣言をするよう頼まれます。そして、その翌日俊介は課長からへの左遷を告げられます・・・。

このパニックは、1957年に書かれたものです。「保身に汲々とする役人の無能と愚かさ」、つまり、今の世の中に通じるものがあると思えませんか。いつも街頭演説する政治家の話を聞いて思うんですけど、少子化対策や地域や産業の活性化問題を演説して何一つ具体的な策を話さないことにいつも疑問符を浮かべます。そしていざ当選してみると、何一つ具体的な策を講じずただただ保身に走るのみ。

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すべての政治家がそうだとは思いませんが、自分のお金じゃない分、本当に本当に税金の無駄が多いこと。そしてその管轄にいるお役人の方々も右へ倣えなのか意を唱えるものも少ないと感じます。民間だったらありえませんよね。

鼠の群れのように、人間の群れもドブネズミのようだとこの小説は問題提起をしているのではないでしょうか。

written by パープル@いつでもどこでも働ける、リモートワーカーという生き方

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