令和六年のリミットブレイク~私がTEAM NOAHについて語ること~
はじめに
2024年秋。
プロレスリング・ノアの別ブランド・『MONDAY MAGIC』シリーズの開幕前に、プロレスリング・ノアがあるニュースを発表した。
2024.12.19後楽園ホール大会を、NOAHの本興行+NOAH内の別ブランドによる合同興行形式で開催するというのだ。
NOAH本興行、『MONDAY MAGIC』に並び立つようにして、あるブランドの名前が掲載された。
2024年に発足した『LIMIT BREAK』である。
私はリリース内容を見て、感慨深い思いでいっぱいになっていた。
『I AM NOAH』剥奪⇒返還から始まった船出
2024年2月に産声を上げたNOAHの新ブランド・『LIMIT BREAK』。
潮崎豪率いるユニット・TEAM NOAH結成から程無くして、TEAM NOAHのユニット興行としてスタートしたブランドは、現在月1回ペースで興行が開催されている。
今でこそNOAHのブランド興行として定着しつつある『LIMIT BREAK』だが、その船出は決して順風満帆とは言えないものだった。
キッカケは、NOAHの年始ビッグマッチにあたる2024.1.2有明アリーナ大会まで遡る。
第4試合のシングルマッチで小島聡に勝利した潮崎豪が試合後にマイクを握ると、今のNOAHに向けてこのような提言を行った。
潮崎の号令と同時に集結した、齋藤彰俊、モハメドヨネ、小峠篤司、Hi69と共に結成されたのが『TEAM NOAH』である。
ユニットの頭領である潮崎は、すぐさま行動を開始した。
この日組まれたGHCヘビー級王座戦『拳王vs征矢学』で勝利した拳王に、潮崎は王座挑戦を表明したのである。
拳王は、【ユニット結成⇒即挑戦表明】という流れに真っ向からNOを突きつけたが、逆に潮崎の代名詞である『I AM NOAH』を賭けるよう要求したことで王座挑戦を受諾。
かくして、有明ビッグマッチの次大会にあたる2024.1.13後楽園ホール大会のメインイベントにて、『拳王vs潮崎』のGHCヘビー級王座戦は実現したのだが、会場の支持率は圧倒的に拳王が優勢。
潮崎が好きな私も必死に声を出して応援したのだが、それ以上の声量で観客の拳王コールが掻き消す状況に、思わず心が折れそうになった程であった…。
声を出しても出しても、周囲の人やホールの壁に吸い込まれて無力化されていく感覚は、潮崎が敗戦を喫した結果以上に忘れられない記憶となった。
試合に勝利した拳王のマイクに対して、拳王コールで支持する観客達。
試合に敗れた潮崎は、戦前に拳王と交わした約束通り『I AM NOAH』を失うことが決定…。
しかし、勝利した拳王によるマイクは、これだけで終わらなかった。
拳王の計らいもあり、すぐさま『I AM NOAH』は潮崎の下に返還されることになった。
これは、屈辱なのか…?
それとも、天啓なのか…?
この一戦が終わって間もなく発表されたのが、TEAM NOAHによる興行『LIMIT BREAK』の始動である。
半ば会社決定感も否めないタイミングとはいえ、拳王から返還された『I AM NOAH』のフレーズと、「NOAHを更なる高みへ持って行け」というエールは、発足当初のTEAM NOAHないし『LIMIT BREAK』において重い命題を背負うことになった…。
『鈴木軍』撤退直後の雰囲気と、コロナ禍前のNOAH
2024.2.15『LIMIT BREAK』後楽園ホール大会。
不安も入り交じった新ブランドの旗揚げ戦だったが、会場の熱気も、関本大介vs桜庭和志の異種格闘技戦のようなカードも、NOAHの若手の大和田侑が石川修司に挑むシングルマッチも、今のNOAHとは毛色が明らかに異なっていた。
同じNOAHなはずのに、客層が普段の本興行と異なる『LIMIT BREAK』の空間に、私自身強い衝撃と刺激を受けたのである。
『LIMIT BREAK』発足前から、プロレスリングZERO1のベテラン選手を中心に集結した『REAL ZERO1』との対抗戦も組まれたが、『LIMIT BREAK』は対抗戦に軸を置くというより、普段のNOAH本興行に参戦しないような他団体所属やフリーランスを起用しながら、NOAHの本興行と違ったカラーリングや方向性を作っていこうとする気概も窺えた。
この旗揚げ戦で象徴的だったのは、メインイベントで組まれた『潮崎豪&小峠篤司vs永田裕志&秋山準』のタッグマッチである。
この試合で爪痕を残したのが、小峠篤司だった。
名だたるヘビー級の実力者が集う中、唯一Jr.ヘビー級の小峠は、秋山や永田に対して積極的に食らいついていったのである。
試合は30分時間切れドローに終わったものの、終了直後に観客席から自然発生した大小峠コールのうねりは、『TEAM NOAH』や『LIMIT BREAK』の顔が潮崎だけではないことを示す象徴的なシーンになった。
個人的には、一番"LIMIT BREAK"してほしかった小峠が旗揚げ戦で真っ先に殻を破り、今後に向けた期待値を高めたことが本当に嬉しかった。
『LIMIT BREAK』では、今のNOAH本興行において要となっている清宮海斗や拳王、HAYATA、YO-HEYといった選手は登場しない。
その一方で、菊池悠斗や晴斗希といった関西を拠点に活動するプロレスラーや、ヨシタツ、ブラックめんそーれ、岩本煌史、石川修司といったフリーランス、DDTプロレスリングなどの他団体選手が『LIMIT BREAK』には多数参戦している。
個人的には、『鈴木軍』撤退後にあたる2017年~2018年頃のNOAHに近い雰囲気を、『LIMIT BREAK』の空間に感じている。
今思えば、『鈴木軍』撤退後にHAYATAやYO-HEY、タダスケ、Hi69らがNOAHに参戦し始めたし、『鈴木軍』vsNOAHの二頭抗争を展開する中で2015年末にNOAH内の全ユニットも解散していたことから、【一から何かを造り出していく空気】という所で共通項を感じたのかもしれない。
また、観客の声援の雰囲気にしても、明らかに今のNOAH本興行とは異なっていた。
今のNOAHは、女性や子供が選手に声援を送る場面を絶えず確認することが出来るけれど、この日は良く言えば"コロナ禍前のNOAH"に戻ったような、どこか懐かしくも野太い雰囲気。
熱さ一つとっても、方向性がまるで別物…。どちらが良い・悪いという問題では無いけれど、「今の本興行と『LIMIT BREAK』の雰囲気を両立できたなら、これはきっと面白くなるんじゃないだろうか?」と私は感じた。
"潮崎のワンマンユニット"ではない、TEAM NOAHの団結力
TEAM NOAH発足当初に私が見かけた、ある意見である。
2023年頃からGHC Jrタッグ王座挑戦者決定トーナメントでタッグを組むも、ユニット無所属だった小峠篤司とHi69。
2022年のキング・タニー脱退や、当人達の試合数減少もあり、事実上の開店休業状態に陥っていた『ファンキーエクスプレス』の齋藤彰俊とモハメド ヨネ。
ここに、2023年秋の中嶋勝彦退団で『AXIZ』が活動停止となっていた潮崎豪が加わり、寄り集まる形となった『TEAM NOAH』には、前述の「強さ、激しさ、闘う姿勢が圧倒的に足りない」発言も含めて、当初は懐疑的な意見もあったことは否めない。
しかし、当時のNOAHでヘビー級を擁するユニットは、ジェイク・リー率いる『Good Looking Guys』(2024年7月解散)しか無かったことや、NOAH本隊からユニットに移動することで得られるメリットも多いと私は考えていた。
とはいえ、結成当初はここまで大きな役割を果たすことになるなんて、想像もしていなかったのだけれども…。
『TEAM NOAH』で最初に結果を残したのは、メンバー最年長の齋藤彰俊だった。
旗揚げ当初に開戦したREAL ZERO1との抗争劇から、2024.3.31ZERO1靖国神社大会でクリス・ヴァイスの持つ世界ヘビー級王座に挑戦した齋藤彰俊は、奥の手であるデスブランドを発動してクリスに勝利。
キャリア33年目にして、自身初のシングル王座戴冠を果たしたのである。
近年は大会中継の解説者として登場する機会も増え、2023年4月の仙台ビッグマッチでは、直前に欠場選手が出た代打として急遽私服のズボン姿で試合もした。
そんな大ベテランが成し得た快挙に、私は強く胸を打たれた。
その後、3度の王座防衛を果たした後、2024年11月に引退したものの、個人的に、引退宣言前に齋藤彰俊が大復活を遂げた要因に『TEAM NOAH』加入の影響を挙げずにはいられない。
何故なら、2022~2023年頃に試合数が減っていた状況からTEAM NOAHの枠組みに加わったことで、若手や外敵の壁となって立ちはだかり、タイトルまで獲得した齋藤彰俊を見れたのだから。
同様に、コンディションは安定しているものの試合数が減少していたモハメド ヨネ、NOAH本隊の1選手という扱いだったHi69も、TEAM NOAHを通じて外敵に立ち向かう姿や怖い姿を見せつけた事で、ユニット結成が意義深いものになったと私は感じている。
そんなTEAM NOAHで躍進していた選手を個人的に挙げるならば、やはり小峠篤司ではないだろうか?
Jr.ヘビー級でありながら、ヘビー級の秋山準にも容赦なく食らいついていく負けん気の強さ。
潮崎豪と共に出場したタッグリーグでの活躍。
潮崎豪の欠場⇒『N-1 VICTORY』不参戦の際に急遽代打として名乗りを挙げた積極性。
大原はじめとのGHC Jr.タッグ挑戦表明⇒大原のTEAM NOAH正式加入から僅か2週間で、王者チームのHAYATA&YO-HEYに比毛をとらないタッグワークの数々。
ここ数年、結果の部分で今一つ突き抜けきれないでいた小峠が、TEAM NOAHで果たした役割は非常に大きい。
以前より、盟友である原田大輔のニーアッパーなどを引き継いだり、ユニットを追放された選手に救いの手を差し伸べたり、相手の何かしらを引き受ける役割も担ってきた小峠。
TEAM NOAHでも、当初齋藤彰俊が担っていた旗持ちも、潮崎欠場時に潮崎のMA-1を着用したことも、DDTとの対抗戦で先頭に立ったことも全て担い、今やTEAM NOAHのリンクマンとして欠かせない存在感を発揮している。
TEAM NOAHというユニットは、潮崎豪のワンマンユニットではない。
ユニット無所属やユニット開店休業状態で定まっていなかった個々の立ち位置がTEAM NOAHの存在で整理されたことで、各選手が持ち味を発揮出来る場になったのだから。
DDTとの交流、本興行抜擢etc…。『LIMIT BREAK』だからこそ出来た繋がり
『LIMIT BREAK』は、TEAM NOAH興行という立ち位置でしか実現出来ない景色も多く生み出した。
その代表例となったのが、DDTプロレスリングとの交流だろう。
2022年6月、中嶋勝彦が遠藤哲哉に放った張り手が賛否を巻き起こした『サイバーファイトフェスティバル2022』を最後に、同じサイバーファイトグループでありながら、交流が限定的なものになってしまったプロレスリング・ノアとDDTプロレスリング…。
この一件以降、時が止まったままだった両団体の扉が再び開かれたのは、『LIMIT BREAK』の舞台だった。
事の当事者であった遠藤哲哉率いる『BURNING』を中心として、DDT勢の『LIMIT BREAK』参戦が決定したのである。
中でも、遠藤哲哉率いる『BURNING』と『TEAM NOAH』による対抗戦は、潮崎&小峠のKO-Dタッグ王座挑戦に発展した。
この展開は、2023年までの両団体の関係性では考えられないことだったと私は思う。
『サイバーファイトフェスティバル』は、団体間のカラーリングに合わない、ドロドロした対抗戦の図式を前面に推したことで、禍根を残す結果になった感は否めない。
ただ、『LIMIT BREAK』では、そうしたドロドロとした感情や因縁を挟まずとも、純粋に双方の「負けられない」という姿勢が明確に打ち出されたことで、ある種のスポーツライク的な所に落とし込み、過去の因縁を昇華してみせた。
この事実は、両団体の胆力を見せつけたという点で非常に大きなものになったのではないだろうか?
BURNING vs TEAM NOAH以外にも、『DDT vs NOAH』のカードは『LIMIT BREAK』の舞台で多く実現した。
DDTやNOAHの本興行ではカラーリング的に実現しにくい、対抗戦色溢れるカードも行われる磁場として、『LIMIT BREAK』の果たした役割は大きいと言えよう。
また、2024年秋に入ってからは、『LIMIT BREAK』で準レギュラー格として定期参戦していた他団体・フリーランスの選手が、新たにNOAH本興行へと参戦し始める展開まで生まれた。
『LIMIT BREAK』に旗揚げ直後から参戦していたヨシタツは、2024.10.14後楽園ホール大会より発足したNOAHのヒールユニット『TEAM 2000 X』のマネージャーとして本興行に登場。
セコンドからジャック・モリスやダガを支援する巧みなラフファイトの数々は、近年のNOAHには見られなかった客席からの大ブーイングを生み出す原動力となっている。
同じく『LIMIT BREAK』に参戦していた菊池悠斗も、9月に『RATEL'S』へ加入すると、11月にはGHC Jrタッグ王座にも挑戦。
関西出身の晴斗希も、清宮海斗や拳王のいる『ALL REBELLION』へ11月に加入を果たした。
果たして、2025年以降も『LIMIT BREAK』経由でNOAH本興行に参戦する選手が現れたりするのだろうか…?
まとめ
潮崎が『TEAM NOAH』結成当初に触れていた提言であるが、私自身、1年近く経った今現在でもハッキリと定義は分からない。
なぜならば、今のNOAHにも闘いはあると感じているから。
ただ、活動してユニット興行の回数を重ねていく中で、『LIMIT BREAK』でしか生み出せない景色や闘いが実現してきた。
これは紛れもない事実だろう。
極端な話、NOAH本興行に普段行かないという方でも、参戦選手がいる『LIMIT BREAK』を見にきて下さる方は少なくない印象を受けるし、NOAH本興行だけでは届かないファン層に対しても、TEAM NOAHや『LIMIT BREAK』がNOAHを伝える役目を担っている。
TEAM NOAHが発足した2024年を振り返ると、決して良いことばかりではなかった。
まず、2024年7月の日本武道館大会では、メンバーの負傷欠場等が無かったにもかかわらず、『TEAM NOAH』としての試合は『齋藤彰俊vs潮崎豪』の世界ヘビー級王座戦の1試合のみ。
このカード自体も、日本武道館大会の全カード発表後に追加されたものだった。
また、夏から秋にかけて、潮崎、小峠、Hi69とメンバーの半分以上が負傷欠場で離脱した時期もあった。
そして、TEAM NOAHに初タイトルをもたらした齋藤彰俊が、今秋に引退した。
でも、この1年で様々な苦難や変化がありながら、それらを乗り越えて逞しくなった『TEAM NOAH』の面々を、今や「寄せ集め」だと嗤う者はいないだろう。
この立ち位置まで持っていったのは、メンバー全員の力と頑張りに他ならないからである。
2024.12.8キラメッセ沼津大会。
NOAHの本隊単独興行としては2024年最後となる興行のメインを任されたのは、清宮海斗や拳王を擁する『ALL REBELLION』と、『TEAM NOAH』(+大和田侑)による10人タッグマッチだった。
NOAHにレギュラー参戦しているイホ・デ・ドクトル・ワグナー・ジュニア、ドラゴン・ベイン、アルファ・ウルフといった名物外国人選手が不在。
そして、一人あたりの出番が限られる多人数タッグマッチ。
そんな状況下でも実現した満足度の高さに、連携や団結力といったTEAM NOAHのユニット力も大きく貢献していた。
今のNOAH本興行ではファンの世代交代が進み、創始者の三沢光晴、小橋健太らがキッカケでファンになったというより、清宮や拳王、HAYATA、YO-HEYなどが中心にファンを獲得している印象が強い。
(かく言う私も、三沢光晴がいた頃はプロレスファンではなかったけれど、今はNOAHが好き)
現世代が台頭して、三沢以後のファンを中心にしたNOAH本興行。
NOAHのイメージカラーである緑や過去の歴史を今に繋ぎ、大切にしていこうとする『LIMIT BREAK』。
ここに、当日カード発表から観客の度肝を抜く『MONDAY MAGIC』を加えた計3ブランドが、2024年のNOAHを牽引してきたと言えよう。
NOAH本興行、『MONDAY MAGIC』、『LIMIT BREAK』の3つで何処が一番目立つのか…?
2024年の始まりを思えば、NOAH内の3ブランドによる勝負の土俵に『LIMIT BREAK』が立ったことは大きいと私は思う。
年始に拳王から受けた檄をバネにして、TEAM NOAHや『LIMIT BREAK』が周囲を見返していく光景を、いったい誰が予想できただろうか?
2024年のTEAM NOAHや『LIMIT BREAK』を振り返りながら、私は来年以降の動向に目が離せないでいる…。