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他人の人生観を変えてしまう情念について~2022.6.28『中野たむvsなつぽい』~

はじめに

じょう‐ねん ジャウ‥【情念】
〘名〙 心の働きと思い。また、強くとらわれて離れない
愛憎の感情

精選版 日本国語大辞典より


私はプロレスを観るようになってから、何度となく、記憶に残る素晴らしい試合に出会ってきた。

ただ単に"素晴らしい"といっても、どちらが勝つか分からないハラハラ感だったり、ドラマチックな展開だったり、会場の盛り上がりの凄まじさだったり、その内容は様々だ。


最近、運が良い事に、私はまた一つ素晴らしい試合に出会う事が出来た。

ただ、その試合は、今までに体験した事のないような、迫りくるものを感じ取れたのだ…。


それは、人の人生観すらも変えてしまうような、情念の塊…。


人生を変える情念がぶつけられた、『中野たむvsなつぽい』

2022.6.28 スターダム後楽園ホール大会。

6.26名古屋ビッグマッチから2日後、7.9立川ビッグマッチまで残り2週間を切ったタイミングで開催された今大会のメインは、『中野たむvsなつぽい』のシングルマッチ。

6.26名古屋でのケージマッチ、今大会のシングルと、2番勝負と銘打たれた一戦だった。

アクトレスガールズ時代も同僚だった2人の邂逅。
試合前の入場シーンから、両者睨み合うバッチバチの様相。

そして始まった試合…。

試合序盤から、場外に出てボディスラム合戦を開始する両者。
一度点いた火花は、最後まで消えることが無かった。

正直なところ、試合自体は技の流麗さを競ったり、派手な技が目を惹いたりするようなキレイな内容では決してなかった。
終盤、技の形が崩れて選手がリトライする場面も見られたほど。

私自身、ベストバウト級だと感じた試合の中では、中々記憶にない事だ。

ただ、それでも私の脳裏に焼きついて離れないのは、双方の愛憎による情念に他ならない。

互いに怒りや苦しみといった感情の一切を、トリートメントすることなく、ありのまま吐き出す。
中野たむも、なつぽいも、ある種の泥臭く隠してしまいたいような姿まで曝し、この試合を通じて表現してきたのだ。

感情を曝け出す事は、恥ずかしくも何ともないし、寧ろ美しく感じられる瞬間がある。
2人の試合を見ていて、自然とそのような感情を抱いた。

この1試合の為だけに、こうして記事を書きたくなってしまった一番の理由がコレだ。

観客も気圧されそうな感情の坩堝。
激闘を制したのは、なつぽいだった。

試合後、中野たむの握手をなつぽいが振り払い、睨み合う場面も…。

冒頭で、【人の人生観を変えてしまうような試合】と述べたのは、2人が試合を通じて見せた感情が、他者に影響を及ぼすほどに凄まじかったからだ。

私は、2015年の『中邑真輔vs飯伏幸太』を見て衝撃を受けてプロレスを見始めたのだが、視聴する時期が異なっていたら、私にとってこの試合がその立ち位置になっていたかもしれない。

そう感じるくらい、凄まじい瞬間を生で見れた幸せ。
こういう瞬間が訪れるから、プロレスは最高に面白いのだ。


まとめ

ビッグマッチの狭間にあたる平日後楽園で生まれた激闘。

私の中で、プロレスの試合を見て勇気や元気を貰う機会は、年々減少傾向にある。

だからこそ、このタイミングで見た『中野たむvsなつぽい』は非常に意義深いものがあった。
地を這うような泥臭い姿も肯定する、ある種の人間賛歌ではないか、と。


きっと、この先、プロレス界で"良い試合"は数多く生まれることだろう。
だけど、人の人生に影響を与えるだけの示唆に富んだ試合は、そうそうお目にかかれるものではない。

ふと、そんなことを感じた、6月末の後楽園ホールでした…。

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