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楽しさと儚さの化学反応"KIGI10周年展覧会all is graphics"

アートディレクションやプロダクトデザインを手掛けるクリエイティブユニットKIGIの10周年展覧会が、代官山のヒルサイドテラスで行われた。

オープニングのイベントは、彼らを慕う人たちで溢れかえり、現在デザイン界を牽引する存在であることがわかる。

KIGIは植原良輔氏と渡邉良恵氏によるクリエイティブユニット。お菓子のAUDREYやメガネのJINSなど日頃よく目にする物の多くのブランディングやパッケージデザインを担当してきた。
両氏はD-BROSというプロダクトブランドを持つドラフト社の出身。現在でもフラワーベースなどの代表的なプロダクトがD-BROSから販売されている。



会場の様子
展示の様子

展示会のタイトル「all is graphics」が示すように、グラフィックデザインを出発点としながら、ジャンルの境界を越えてあらゆるかたちへとその表現を展開していくKIGI。
クライアントワークとプライベートワークを自身が納得するバランスを保ちながら、果敢に挑戦している。
KIGIが生み出し、人々を驚かせ、魅了し続ける理由は何なのだろうか。

1.日常に溶け込みブランドを体現する

クライアントワークtheatre products他
クライアントワークTartine他

誰しも生活の中で目にする多くのグラフィックデザインがKIGIによるものであることが、この展示会でわかる。
「ファッションがあれび世界は劇場になる」をブランドコンセプトとしたtheatre products、幻想的であり不変的なロゴデザインは、ブランドから生み出されるアイテムの数々やその世界観とぴったり合致している。
クッキー生地の上にクリームがのったタルティンなど可愛くワクワクするお菓子に出会えるTartine。後ろ姿か僅か顔の輪郭がわかる程度の不思議な女性たちのイラストが印象的だ。そこにクマや鳥、草花が登場し、素材や作り方にこだわったお菓子であることがイラストの世界観から滲み出される。
そうやってKIGIのブランディングデザインは、ブランドが作り出す商品をとことん理解し、その世界観をカチッとデザインで体現する。それは突拍子もない目立つものではなく、何かどこかで見たような、懐かしさを感じつつ、見たことのない整えられたデザインたちだ。

2.時間を生み出す独創的なデザイン

Mirror Cup&Saucer
酔独楽

カップソーサーに描かれた絵柄がミラーになっているカップの側面に映し出され、使う人独自のデザインに仕上がる。そしてカップをソーサーから離すとその絵柄は消えて他の景色を映し出し、またソーサーに戻すと絵柄が蘇る。ソーサーに置く持ち手の位置を変えるとまた新たな絵柄がミラーに映し出される。使う人の操作やその時間によってあらゆるデザインを生み出す。
酔独楽は接地面が凸面で置くことができない。注がれたお酒を飲み干し、相手に返杯する、めでたいハレの日をお酒で注ぎ合うことで祝う酒器だ。「酔いが回ると独楽も回る」という合言葉の基、ただひたすらに飲み続けなければいけないそうだ。盃としてはかなりビビッドな色合いで、美しい扇形のラインを持つ。独楽を作るのと同じ製法で職人によりひとつひとつ手作業で削り出している。
いずれも時間を上手く操ったユーモアのあるデザインだ。

3.繊細さと儚さが閉じ込められている

プライベートワークDANCE
into the field

KIGIのデザインが常に独創的でユニークなのは、プライベートワークを継続しているからだと思う。クライアントの思惑にコミットしなければならないワークとは別に、彼らの研ぎ澄まされた感性を爆発させる場としてプライベートワークがあるのだろう。
有機的な絵柄が閉じ込められた瓶がいくつも並ぶ光景。底面が隆起していて、既視感が歪められる。そこには見る側が考える余白が残されている。
その儚さは、プロダクトでも感じとれる。渡邉氏が描くイラストは、どこか憂いを帯びている。スミノエの技術をもって実現した大きなラグ。真夜中に女性が深い森安に迷い込んで、ちょっと変わった草花や動物と出会う、独特の世界観だ。そこから繰り広げられる、不思議な物語を見る側が作っていくことにのる。

植原氏と渡邉氏のそれぞれの持ち味が発揮され、さらに両者のパチパチっと音を立てて出来上がる化学反応的なデザインが、世の中を魅力して止まないのだ。

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