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杓子がルーツの造形美"marni 100Chairs"

母と娘と新宿伊勢丹へ行った。
お互いに選ぶものをあーだこーだ言いながら買い物をするのがストレス発散のひとつだ。

リビングフロアでマリメッコの服や食器を見ていたところ、展示に居合わせたのがマルニ木工の椅子がずらっと並ぶ"marni 100 Chairs~選ぶ楽しさと、長く愛する椅子との出会い~"だ。

マルニ木工は、「工芸の工業化」をモットーに、職人の手仕事と機械加工のバランスを追及し、精緻なモノづくりを続ける家具メーカーだ。

創業者の山中武夫氏が、広島県の宮島の木を用いた伝統工芸に魅了され、1928年マルニ木工の前身となる会社を設立した。当時難易度の高い木材の曲げ技術を確立し、それまで手工業だった日本の家具工業に対して、「工芸の工業化」を目指してに成長を遂げた。
技術開発に力を入れ、一品生産だった彫刻入り家具の工業化に成功し、1968年に開発した「ベルサイユ」は日本の洋家具史上最大のヒットとして今も知られている。
1990年以降は、その国際的なデザイン感覚と日本独自の木に対する美意識、精緻なモノづくりの技を融合し、日本から世界へ発信する家具づくりをスタートさせた。

プロダクトデザイナーの深澤直人氏、佐藤オオキ氏他、ジャスパー・モリソン氏なども加わり年々その世界観を広げ、100年経っても「世界の定番」として認められるような木工家具へと発展し続けている。


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今回の展示会でも木の魅力がスペース全体に感じられた。特に紹介したいMARNI COLLECTIONの椅子がこの3点だ。

1."HIROSHIMA"by 深澤直人

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MARNI COLLECTIONは、マルニ木工が作るべきものは何か、を求めてプロダクトデザイナーの深澤直人氏を迎え、100年使って飽きないデザインと堅牢な家具づくりを目指して、2008年に発表された。
このHIROSHIMAは、笠木から肘掛けにかけての滑らかなラインが特徴的だ。どの角度から見ても美しく無駄がない。
人の身体のラインにもそっと馴染む、人と同化するような椅子だ。
2009年にミラノサローネで発表されて以来、海外からの評価も高く、多くの国々で展開されている。確かに日本らしくもあり、世界に通用するスタンダードさもある。
フィンガージョイント部分の精度も高く滑らかで、工芸と工業の両立が垣間見える。
また、HIROSHIMAという創業地を題する名称そのものが、原点回帰と自信を日本に世界に表明している。

2."T&O T1Chair"by ジャスパーモリソン

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T&Oシリーズは、無垢材と色のついたスチールによるコントラストが新しさを与えるジャスパーモリソンによるデザインだ。メープル材を3次元に削り出した座と背もたれを弾力性のあるスチールが繋いでいる。このスチールが快適な座り心地のポイントだ。しかも全体に木の温かみにブラックで締めたり、レッドで遊び心も与えている。ジャスパーモリソンらしい存在感のあるシンプルさだ。スタッキングできるものもあり、連続してならんでいるのも美しい。

3."Roundish"by 深澤直人

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体に触れる滑らかな丸みのあるフォルムが心地よいRoundishシリーズ。丸みのある背板は背中をすっぽり包み込み、どんな姿勢で座っても収まりがよく、長時間座っていられる。板座もあるが、この張座が何ともフォルムに合った温もりを醸し出している。さらにMARNI COLLECTIONでは、ミナ・ペルホネンともコラボしていて、このフォルムともマッチする普遍的なデザインファブリックと共に椅子を楽しむことができる。

どの椅子を見ても、懐かしさを感じる美しい木の曲線。これは創業者の山中氏が魅力されたとされる宮島の杓子ではないだろうか。
200年以上前、宮島で主な産業がなかったため、神泉寺の僧が提案したのが杓子だ。使い込むほどに手に馴染んで愛着が湧く。職人が手間をかけた伝統工芸が生み出した社会的遺産に、今こうやって伊勢丹のフロアで出会えたのだ。

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