見出し画像

いつまで続く!?新型コロナウイルスの収束時期の目安 ~感染症流行モデルによる検証~

 猛威を振るう新型コロナウイルス(COVID-19)は、GW後の緊急事態宣言の解除など、今後ゆるやかな自粛緩和や収束を期待しつつも、いつまで続くの?と不安を感じている方も多いと思います。

そこで、感染症分野の数理モデルを用いて、新型コロナウイルスの収束時期を予測します。またその結果から、このウイルスとどう向き合っていけばよいかを考察します。(結論だけ知りたい方は4.をお読みください)

1.どうすれば感染症予測ができる?

 世界保健機関の予測シュミュレーションの基礎は、W・O・ケルマックとA・G・マッケンドリックによる感染症流行モデル(SIRモデル)といわれています。SIRモデルは、スペイン風邪のような、特定範囲内(たとえば、日本国内など)での人口における急速・短期的な感染流行に関するモデルであり、「無免疫者数(Susceptible)」「当該時点の感染者数(Infections)」「感染経験者数(Removed)」によって構成されています。(wikipedia:SIRモデルを参照)

画像3

よって本稿でも、SIRモデルを使用しています。ただし、各人数を出しやすくするため、SIRモデルの左辺の微分表現を四則演算に変換し、その一部を右辺に移しています。

画像3

なお、無免疫者数とは、まだ免疫をもたず感染する可能性のある人数。当該時点の感染者数とは、その時点で感染している人数。感染経験者数とは、感染後に回復し、免疫を獲得した人数、または感染が原因で死亡した人数を意味します。

2.SIRモデルの前提

 当該モデルについては、北海道大学の西浦教授の感染症数理モデルのベースになっていますが、オリジナルのSIRモデルの感染人数(基本再生産数)に、「接触削減率(=自粛率)」というパラメータを加えて感染人数(実効再生産数)を算出しているため、本稿でも接触削減率を加味しています。

画像2

なお、国内初の感染者が発覚した2020年1月17日(ミクスonline:新型コロナウイルスを日本で初確認)を起点にしています。また、起点日の無免疫者数を126,219,000人(人口推計:2019年8月1日現在 (確定値))、当該時点の感染者数を1名、感染経験者数を0人としています。

3.SIRモデルのパラメータ設定

接触削減率を加味したSIRモデルで、時間単位・基本感染人数・接触削減率・回復率のパラメータを設定します。

(1)時間単位
 「2週間」を1時間単位として採用しています。

(2)基本感染人数
 Medical News Today:Coronavirus may spread faster than WHO estimateによると、1.4 から 6.49 (平均:3.28)であるといわれていますが、正確な数字は不明です。西浦教授は、2.5人を参考値としているため、本稿でも同値を採用しています。

(3)接触削減率(=自粛率)
 この数値は、各国の取組によってバラツキが大きいため、これからの日本の取組を想像して設定する必要があります。西浦教授は80%としていますが、緊急事態宣言の発動・解除の状況、自粛疲れによるマンネリ化・自粛無視、経済停止による供給力不足、死亡者の約94%が60歳以上の高齢者等をふまえると、この水準は現実離れしている気がします。ここでは、別稿でも取り上げた、「手洗い・マスクなどの予防策を徹底したうえで、60歳未満の労働者を中心に一定の経済活動を継続させつつ、高齢者を保護する」という対策を実行したものと仮定します。それを考慮し、60歳未満の接触削減率を「30%」、60歳以上の接触削減率を「90%」と置いて、年齢別の人口から按分した接触削減率「49.4%」を採用しています。

(4)回復率
 新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年5月16日版)の情報をもとに、PCR検査陽性者数から死亡者数を除いた数÷PCR検査陽性者数を採用しています。

4.新型コロナウイルスの収束時期の目安

 SIRモデルの結果、当該時点の感染者数は、次の図表を描きます。

画像7

感染者数は、2021年7月頃をピークに、その後下落しはじめ、2022年11月頃に感染者数はほぼゼロにります。参考までに、全く自粛をしなかった場合には、感染者数のピークは早まりますが、感染者数が急増します。すなわち、死亡者数も急増します。

また、無免疫者数と感染経験者数(免疫抗体獲得者数)を追加すると、次の図表を描きます。

画像7

無免疫者数は、2021年3月頃から急激に減りはじめ、2021年12月頃からほぼ一定になります。一方、感染経験者数は、無免疫者数と逆の動きをします。

別稿のスペイン風邪の場合、人口の43.3%が感染して収束しましたが、新型コロナウイルスの場合、人口に占める感染経験者数の割合が同水準になるのは、2021年11月頃(起点から96週後)となります。

つまり、一定の外出自粛をし、感染者数を抑える対策を取ったとしても、収束まで1年半から2年はかかり、スペイン風邪に近い蔓延期間になります。

5.今後の上手なウイルス対策

 話は飛びますが、私は経営コンサルタントという仕事柄、「当該時点の感染者数」の図表をみた時に、製品ライフサイクル(導入期→成長期→成熟期→衰退期)を連想しました。

<wikipedia:製品ライフサイクル画像6

製品ライフサイクルでは、フェーズに応じて、取るべきマーケティング戦略が異なります。

新型コロナウイルスの感染対策についても、同じように、いくつかのフェーズに分けて、各フェーズに応じた対策を取ることが効果的かもしれません。

似た切り口として、元財務官僚・元衆議院議員 松田学氏:フェーズを区分した「出口」へのロードマップ案では、フェーズに応じた出口戦略案を示しています。

画像7

同氏は、各フェーズについて次のように説明しています。

<フェーズ1>
緊急事態宣言(接触率8割減?)・・・厳しいポジティブリスト方式
→「原則禁止、例外OKの中で、これとこれは良い」(現状:日用品の買物のための外出など)

<フェーズ2>
準緊急事態?(接触率半減?)・・・緩やかなポジティブリスト方式
→「原則禁止ではあるが、条件付きであれとこれこれなら良い」(OKの行動リストを増やす)

<フェーズ3>
注意期間?(接触率2~3割減?)・・・厳しいネガティブリスト方式
→「原則自由に転換するが、あれとこれこれはやってはいけない」

<フェーズ4>
終息宣言(新常態)・・・緩やかなネガティブリスト
→「これだけはしない」

つまり、フェーズを4つに区分し、段階的に着地点に導くことを主張しています。

松田氏の案に、別稿でも取り上げた「コロナ弱者である高齢者の保護」「集中防護の実践」、さらには「失業・倒産防止等のための経済対策」等の対策を、各フェーズに盛り込んでもよいかもしれません。

いずれにせよ、これまでの均一的な対策には限界があり、このままでは医療面・経済面等で多大なる影響を及ぼしかねないので、上記で紹介したような多面的・連鎖的な対策が必要かもしれません。

一日も早い収束を祈るばかりです。

参考:分析のバックデータ

分析で使用したバックデータです。セルの色については、青字が「ベタ打ち」、黒字が「関数あり」、緑字が「別シート参照」です。コンサルや投資銀行などでよく用いられている方法です。

(公開:2020.5.17)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?