【製本記】 かえるの哲学 09 | 丸背上製・半革装ができました!
題字の箔押しから戻り、とうとう『かえるの哲学』が完成した。数々の反省点とともに、製本様式や製本材料の詳細をまとめておこうと思う。
丸背の半革装に仕立てた、糸かがりの上製本。「丸背」は背に丸みをもたせたもの、「半革装」は背を革で継いだものを指す。通常なら市販の並製本を解体して改装するところを、製本前の刷りだしが手に入ったのでそれを折丁にし、フレンチ・ソーイングと呼ばれる手法でかがり、厚表紙をつけた。
表紙の平(ひら)は、ファンシーペーパー「ポルカレイド」を染めたものでくるんだ。染めたといっても、手製の消しゴムはんこにインクをつけて、ぺたんぺたんと押しただけ。ややこしい図案を彫れるはずもなく、丸と三角と四角を根気よく押して押して押しまくり、小紋にした。柄は、この本に登場する2匹のかえる「がまくんとかえるくん」のワードローブがヒント。ドローイングインクを調合した色は、2匹のボディカラーを反映している。淡々とした柄ゆきと、不規則なインクの滲みと、簀の目のようなレイド(縞)が絡み合い、背革に釣り合う紙になったような、なってないような。
背の題字は金属活字による箔押しで、築地活字の「築地明朝」を使用。背の板紙の幅がやや広かったか。あるいは、やや薄くてもよかったか。いや、もっとしっかり丸めておくべきだったか。背革はイギリスから取り寄せた山羊革で、天地を手作業で剝(す)いたのだが、剝き加減に難あり。それと、革の剝きに合わせて平の板紙にもやすりをかけるべきだった。継ぎの部分は革を削いで紙を貼って高さを合わせたものの、あと一歩。
背の丸みの塩梅は、こんなところか。しかし、耳だしが力任せで、天地の小口がどうも美しくない。耳だしだけの問題じゃなく、かがりの糸の引き具合や仮固めの糊の強さとも関係していると思う。花布(はなぎれ)は、かれこれ20年ほど前にイギリスの製本資材店で購入したもの。長らく寝かせっぱなしの材料も、こうしていつか日の目を見たりするから捨てられない。
見返しに選んだのは「ビオトープ」というファインペーパー。無地の濃紺で全体を引き締めたつもり。製本記にも書いたが、この見返しを貼るのをすっかり忘れてしまい、焦ったのなんの。とはいえ、本文の化粧断ちのあとから貼ったにしては、うまく帳尻が合っている。無駄な技術だが……。
本を開くと、表紙と本文の間に見返しの濃紺が現れ、がまくんとかえるくんの世界を保護する結界のようになる。念入りに背固めしたので180度とはいかないが、糸かがりなので市販の並製よりは開きがいい。
クラシカルなのに、どこか砕けている……そんな本にしたかった。ちょっと古くさくて、居心地よく散らかった、あの「がまくんの部屋」にありそうな本だ。春眠あかつきを覚えぬ(『ふたりはともだち』を読んだ人なら、わかる?)がまくんのベッドサイドに、すんなり馴染むといいのだけれど。
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