物語を広げる、デニムのかたち。| REKROW TALKS #02
繊維産地を超えて、大きな枠の中で物語を描くプロジェクトREKROW。今回の舞台は東京に移りました。
「RIPPLE EFFECT / 波紋を広げる」をテーマに行われたREKROW TALKS #2。
ゲストは約15年間サスティナブルに関わる業界の動向を伝え、課題に向き合ってこられたサスティナビリティ ストラテジストの廣田悠子さんと、REKROWの素材を利用した商品開発に取り組んでいただいている文化服装学院の専任講師、花田浩朝さん。
司会進行は、ONOMICHI DENIM PROJECTとREKROWより綿吉杏が行いました。
(左から 花田さん / 綿吉さん / 廣田さん)
ONOMICHI DENIM PROJECTを起点とした、REKROWがもつ広がりの可能性。どんな話が生まれるでしょうか。
***
1. REKROWが広げる可能性の輪
今回のREKROW TALKS #2はオンライン配信に限定して公開されました。初めにゲスト紹介から始まり、プロジェクトの概要からトークがスタートしました。
綿吉:今日は素敵なお二人をお迎えして、トークを進めさせていただきたいと思います。司会進行を務めるONOMICHI DENIM PROJECTとREKROWを担当している綿吉です。本日はよろしくお願いします。
廣田:よろしくお願いします。でもそのまえに、今自己紹介で出てきた写真についてコメントを貰ってもいいですか?
綿吉:この写真ですよね。これ、右側が私なのですが...笑。左はONOMICHI DENIM PROJECTに参加してくれているラムネ屋のお母さん、カツコちゃんです。
廣田:いい笑顔ですね笑
綿吉:ありがとうございます笑
綿吉:では改めて、REKROWについてお話ししたいと思います。
本プロジェクトは、私たちが住む広島県東部の福山市一体で行っています。福山市はデニムやワークウェアの産地で、国内シェア70%を誇る地域で専門工場が多く、技術力も高い。
この地域で生まれたのがプロジェクトREKROWです。
綿吉:REKROWは、役目を果たしたワークウェアを新しく生まれ変わらせる、産地で行うサーキュラーエコノミーというプロジェクトです。
福山で制作したワークウェアを回収し、また加工や解きを行ってまた1枚の生地に戻したり、商品化して販売したりできたらと考えています。また販売だけではなく、実際ワークウェアを着ていた方々にも何か商品がお返しできる仕組みになればと思っていて。
REKROWによって、一つの循環型社会の実現を目指しています。
綿吉:この第一弾として、福山市にある常石造船のデニム製ユニフォームを回収しました。
このユニフォームは回収を行うことを目的とし、REKROWチームがデザインから開発を行いました。デニムは経年変化を楽しめる素材なので、こんなにかっこよく色が落ちたデニムを捨てるなんでもったいない、という想いからプロジェクトがスタートしています。
綿吉:今回のトークテーマは「RIPPLE EFFECT」、これはREKROWを進めて行く上で重要な言葉です。
綿吉:このロゴを見てもらうと、まず名前自体がWORKERを逆さから読んだものになるのですが、記号の「O」に点がついています。
これは波紋をイメージして作ったもので、REKROWを中心として地域や世界に様々な波紋を起こしたいと思っています。
***ここでまで、REKROWのプロジェクト概要の説明が終わりました。
綿吉さんの初司会進行を見守りつつ、REKROWに込めた想いを再認識。REKR"O"Wの"O"に込められた波紋。取材を続けながら、少しずつ地元企業を超えて全国へ広がっている感覚があります。
それは新しいプロダクトの開発だったり、イベントの開催だったり。プロジェクトを通して、各地でREKROWが繋がっていきます。
***
綿吉:次に、ONOMICHI DENIM PROJECTについても紹介したいと思います。
綿吉:産地で作られたデニムを尾道市内の方々に作業着として使い込んでいただき、ユーズドとしたデニムを販売するのがこのプロジェクトです。
現在約100名の尾道市民の方が参加してくださっていて、職種も様々で個性あるデニムが出来上がっています。作り方は新品のデニムをお渡しして週に1度の回収と洗濯を行い、また配布して穿きこんでいただく作業を1年間繰り返します。
その間、地域の方とコミュニケーションをとり続けるので、販売時には私が穿いていた人のストーリーを伝えられるようになります。この工程はプロジェクトに欠かせないものになりました。
綿吉:実際に尾道の商店街に小さなお店がありまして、このユーズドデニムはストーリーをお伝えするために店頭販売のみになっています。穿いていた人の暮らしや仕事の頑張りは、私の口からと実際にデニムを見ながら感じていただきたいと思っています。
また、尾道に足を運んでもらうきっかけになって欲しいと思い、こういった形で販売しております。
廣田:綿吉さんは、全部のストーリーを把握しているんですか?
綿吉:そうですね。基本的には普段穿いている方と一緒に話をした内容を、私からお客さまに伝えることを大切にしています。
廣田:なるほど。やっぱり1週間に1度、回収して洗ってまたお返しするというプロセスが積み重なっているんでしょうね。
私はこのプロジェクト「1年穿いてください」と言われて1年後に回収されるものだと思っていたので。1週間に1回のコミュニケーションというのを知って、改めてびっくりしました。
綿吉:穿いてもらう方も、1年間放置されてしまうと穿いているデニムに対する愛情が薄れると思うのですが、1週間ごとに「良い感じになりましたね」と伝えるその一言がやる気になっているのかなと思います。
廣田:確かに、見つけた傷やアタリが普段の作業によるものだったりすると、なおさら愛着がわきますね。
綿吉:そうなんです。さらにユーズドデニムを喜んで購入してくださるお客さまが全国から来てくださるっていうのも、本当に貴重な経験だと思います。
古着屋さんやリサイクルショップで販売しても、こういうことって起こらないですよね。購入してくださる方も穿いていた方もすごく楽しんでいるのを実感しています。
実際に穿いていた方と受け継いだ(購入した)方が繋がる機会も在ったりして、そこでまた人とのコミュニケーションが生まれたりすることも見ているので、すごく意味のあるプロジェクトではないかと思っています。
*** ONOMICHI DENIM PROJECTは穿き手と消費者を繋ぐプロジェクト。本来は顔の見えなかった存在を、綿吉さんが届けています。
住職・農家・漁師・大工・保育士・デザイナー・飲食業…。様々な職業の人が穿くデニムは、それぞれにストーリーを持ちます。彼らの生き方を知って、自分の生き方に重ねていく。
デニムを買うのではなく、想いを一緒に穿いていく。消費者の新しい買い方が見えてきます。
***
綿吉:今回、4月から文化服装学院のインダストリアルマーチャンダイジング科とバッグコースの生徒さんにREKROWとONOMICHI DENIM PROJECTについて、授業の一環として取り組んでいただいています。
(準備中の文化服装学院生徒)
尾道デニムもすごく似合っていて、REKROWの素材をお渡しして商品開発やコンセプト作りも一緒に考えています。今日の後半には学生さんのプレゼンテーションも予定しています。楽しみに待っていてください。
綿吉:では、早速ですが花田先生に質問です。
まずは、どうしてREKROWと尾道デニムプロジェクトを授業に取り入れようと思われたのか教えてください。
花田:そうですね。端的に言うとかっこいいから、ですね。
かっこいいというのが、すごくわかりやすくて。文化服装学院の教育をどう伝えていくかというのを考えていて、このプログラムを導入しました。
花田:ちょっと文化服装学院の教育について話をすると、実は2021年6月で98周年を迎えました。ちょうど六本木で展示会をしていて、1940年からのハイファッションをディスプレイしています。
歴史をたどっていくと、1940年ごろに和装が洋装に変わり、そこから1970年のDCブーム、時代と共にファッション教育も変化してきました。
そのなかで、2020年の新型コロナウイルスにより時代が大きく変わりました。文化服装学院として、若い方たちにファッション教育をどう提供していければいいかを考えるきっかけになりました。
花田:2015年に国連で採択されたSDGsもメディアでよく取り上げられるようになり、ファッションには一過性の側面もあるが継続していくことは何になるのか。そこを、REKROWの中から学んで欲しいと思っています。教育目標は3つありまして、
・サスティナブルな活動の実体験を得る。
・デニム製品の解きから時間の価値を学ぶ。
・地域の文化と営みを学ぶ。
これらが、REKROWを通すことで伝えられるのではないかと考えています。例えば持続可能なプロダクトの企画・制作を通して、デニムに関わる手間ひまや時間と、それに見合う作り手の想いや価値を感じて欲しいですね。
花田:産地の活動を知らなければ、今後のファッション業界を担う学生に何も伝えられないと思って広島に赴任しました。
広島では、地域の文化としての縫製工場を知り、備後絣の歴史を辿りました。すると同時に縫い針とかビーズ、別の産地としての側面も見えてくる。こうして産地を知りながらクリエイティブな活動をすることが大切だと感じました。この実体験を、REKROWの中でして欲しいと思っています。
長くなってしまい、すいません笑
綿吉:いえいえ。花田先生、ありがとうございます。
とっても熱意が伝わりました。実際に授業をしてみていかがでしたか?
花田:デニムを解く体験にはすごく時間がかかって大変でしたね。製品の工程を逆にたどっていくことで、工程の多さや特殊な縫いの工夫などを改めて感じていました。
洋服の破れとか伸びは人によって全然違うので、その人の生活や仕事がデニムから見えてきます。解くとき、いろいろ感じられたのではないかと思います。後ほど学生からのプレゼンテーションでも想いが伝わると思います。
綿吉:その体験はすごくいいですね。
花田:ONOMICHI DENIM PROJECTも、お客さまがデザイナーとなって育てていくプロジェクトですよね。かっこいいじゃないですか。このかっこよさを、サステナビリティにも当てはめて欲しいです。それがREKROWに取り組んだきっかけなので。
綿吉:ありがとうございます。では次に、廣田さんに伺いたいと思います。
綿吉:廣田さんはサステナビリティに関する記事を書いてこられましたよね。記事を書きながら、この数年はどうだったでしょうか。
廣田:今お話にもありましたが、前提として着古したものをゴミではなくどう生かし、循環させていくのかについて世界的にトライアンドエラーを重ねている印象です。
今回のプロジェクトは、前提としてかっこいいというお話が先ほどもありましたよね。このかっこいいものにどうやって新しい命を吹き込み、別の誰かの手に渡っていくかという、ストーリーを考える点が非常に興味深いですね。
廣田:もう一点付け加えると、産地を活性化させるところにも興味を持ちました。
先ほども話に出ていた、サプライチェーンが海外へと出てしまったこと。繊維関連企業が激減した背景がある中で、今後企業をどう守り、繋げていくかを私たちは考えなくてはならないと思います。その点でもREKROWは興味深いですね。
綿吉:廣田さんはサステナビリティの担当部署を立ち上げられたと伺っていますが、そのきっかけについても教えてください。
廣田:きっかけはパリやミラノといった海外コレクションを取材していた時です。
シーズンが終わるとトレンド出しという作業があって、丈や色、生地の感触などを分析して今シーズンのトレンドについて記事にしたりセミナーを開いていました。
廣田:この作業で産業がうまく回れば疑問は持たなかったと思うのですが、売れずに積み上げられた在庫や焼却処理されていくファッションアイテムの現状に自分自身が加担しているような気持になりました。
どうやったら良い循環にできるのか考えたとき、サステナビリティがキーワードに上がってきました。そこで、きちんと専門性をもって紹介できるようにしたいと思い、2018年に当時の編集長に伝えて始めることになりました。
綿吉:なるほど。実際に取材をされて面白かった取り組みはありますか?
廣田:はい、3つの事例を紹介したいと思います。
廣田:まずは、addidasのフューチャークラフトループという取り組みですね。
スニーカーとしても素敵なのですが、このプロダクトは一つの素材と7つのパーツだけで靴が完成しています。さらに、使い終わった後にまた原料に戻すことができるんです。
再度素材としての循環プロセスを考えたとき、単一素材の方が処理しやすいと10年かけて開発されたそうで。通常のスニーカーのであれば、パーツが約70種類、素材は約12種類もあるそうです。
廣田:とにかく、今私たちが来ている服を見てみると、単一素材はほとんど無いんですよね。服もよく見るとボタンが違ったりして。そこを敢えてモノマテリアルでつくるのが、高度だけど面白い取り組みだと思いました。
次はH&Mの取り組みですね。H&Mも循環型ファッションをコンセプトに掲げています。
ストックホルムの旗艦店に巨大な機械を置いて、着なくなった他ブランドも含めたニットを持ち込んで2,000円程度支払うと、5時間で新しいニットを着くてくれるというサービスがあります。
(参考:WWD Youtube)
廣田:着なくなった服がゴミではなく新しい服になるという体験がすごく面白いですよね。循環型の仕組みを確立するには、消費者も含めて回収から素材に戻すところまでやらないと実現しないと思います。
今回もユニフォームを回収して解体されているということで、やはり仕組みが大切ですよね。まさか目の前でボロボロな自分のニットが新しいものに作り替えられるなんて、と思いませんか。
こういったプレゼンテーションも含めて、知らない人に知る機会をつくるきっかけづくりが大切だなと思いました。そして、次にNIKEさんのプロジェクトです。
(参考:スペースヒッピー)
廣田:スペースヒッピーというプロダクトで、ごみをどう活用するかから始まっています。ソールの部分が尖っているのは、ゴミがデザインに組み込まれているんですよね。
ソールやアッパーは基本リサイクル素材をメイン、さらに生産工程の廃棄物も回収して今では99.9%再利用しているといいます。こういった、無駄にしない考え方はNIKEさんの場合デザインに組み込んでいくのがユニークだと思いました。
綿吉:先ほどのH&MもNIKEも、目に見える形なので誰にでも伝わりやすいくていいですね。
廣田:ファッションなので、こういうプロダクトはおしゃれで身に着けたいなって思いますよね。そこはデザイン力が問われていると思います。
バランスをとりながら、限りある資源を活用していく方法を考えなきゃいけないなと思います。
綿吉:その意味で、花田先生が教育の面から取り組むというのも自分事として捉えやすいですよね。
花田:そうですね。例えば学生が洋服づくりをすると、必ず裁断片が出ます。それを集めて、再紡績して、また商品をつくるという企画を昨年から取り組んでいます。
こういう取り組み、実は学生から発案があるんですよ。
若い方たちは実は非常に環境意識が高いので、こういう企画は教育の中で、ディスカッションしながら積極的に組み立てていきたいと感じています。
***かっこよさと環境の共存。
REKROWから生まれたデニムを解くという工程が、実はデニムの価値を再認識させてくれています。作り手の熱量、穿き手のストーリーが見える解きという工程が、その時間を追体験させてくれます。
そして根底にあるのは、ただシンプルにかっこいいプロダクト。工夫をし、環境負荷を減らしつつもかっこよさは捨てない。
この話を聞くと、生産工程は今後さらに2極化していくように感じました。単純作業による量産と、思考を伴った複雑なプロセスによる高付加価値の生産。今後はどう変化していくのでしょうか。
***
2. 繋がりながら、伝わっていくこと
綿吉:ONOMICHI DENIM PROJECTもREKROWもそうなのですが、参加してくださる方が居て、商品になったものを喜んで購入してくださる方がいるというプロセスを見ることができます。
これが、ものに対する愛着やものを捨てないこと、リペアしてまだまだ穿いていくという考え方につながりますよね。ONOMICHI DENIM PROJECTは20代~80代までが参加しているので、愛着を持つものに触れる機会が増えています。
REKROWも、企業のユニフォームがちゃんとかっこよくて、着た後も誰かに喜んでもらえるのは凄くいいと思っています。続けていきたいですね。
廣田:なんだか、繋がっていく感じが気持ちいいですね。
綿吉:そうですね。尾道デニムは尾道デニムプロジェクト参加権というものがあります。お客様自身もプロジェクトに参加できる仕組みです。委託販売という形で、穿いてくれた人のストーリーをお伝えしながら商品を販売できています。
尾道だけではなく、違う地域でもデニムを穿きこむことでデザインを完成させていく取り組みは、自画自賛にはなりますがとてもいいと思っています。
廣田:結局何を循環させてもそのスピードが速ければ意味はなくて、いかに循環のスピードをスローに、長くしていくかでしょうね。
それは丈夫なものをつくる、壊れたら直す、どうしても着れなくなったら解体して別のものをつくること。そして最終的には、ケミカルリサイクルや原料に戻す技術も考えられますね。
まずは長くどう着てもらうか。そのためにはストーリーが無いと、購入と消費を繰り返すカルチャーからシフトできないと思います。
花田:確かに、その通りですね。
花田:この尾道デニムを今僕も穿いているんですが、上質な素材としっかりした縫製技術があるプロダクトです。これを綿吉さんがお客さんに届けているんですよね。
綿吉:はい、そうですね。
花田:お客さんがデザイナーになるわけじゃないですか。そこでストーリーを作り上げていくのがものすごく大事ですよね。
ファッション業界は生地を織る人、企画をしてくれる人、納品してくれる人、売ってくれる人が分業になっていますが、綿吉さんはこれらのバックボーンを一貫して見て伝えている。
それってすごく大切なことじゃないかと思うので、このプロジェクトはやっぱりかっこいいですね。
綿吉:確かに。私は制作現場も見ますし、町の方が穿きこんでいる間にコミュニケーションも取っていて、販売ではお客さまにそのストーリーを伝えています。
自分が穿いたデニムではないのに、自分が育ててきたように販売できるんです。その想いもお客さまに伝わっているから、こうして購入してくださる方がいるんだろうなと思います。
販売するうえでも、全ての工程を知るってすごく大事なことだと思いました。逆に買い手側も、選んで購入する力が求められてくると思います。
廣田:とても同意しますね。
綿吉:このプロジェクトに関わっていたからこそ、私にもそういう考えが生まれた気がします。この考えは自分事で終わらせず、いろんな方に繋げていきたいですね。
花田:今回のテーマのRIPPLE EFFECTは、こう波紋が尾道という町からどんどん大きな波紋に広がっていくイメージですよねね。この取り組みはデジタルになってより取り組みやすくなったんじゃないでしょうか。
実際に授業でもデジタルとしてオンラインを活用していますが、情報の伝達が速くなりますよね。今回のイベントも、主催のDISCOVERLINK Setouchiさんとわずか1年間でコミュニケーションをとりながら作れてしまう。
生徒たちのプロダクトへも落とし込む機会が作れたのはメリットだと思います。この波紋を広げるRIPPLE EFFECTというテーマは、尾道だけでなくて東京やほかの地域にいながら波及する可能性をすごく感じました。
綿吉:ありがとうございます。廣田さんは伝えるお仕事をずっとされてきたと思うのですが、伝えることの難しさはありませんか。
例えば、伝え過ぎると相手に聞いてもらえないこともありますよね。デジタル化と共に、人と人との繋がりも薄れつつあると思うのですが、意識していることはありますか。
廣田:そうですね、まず不特定多数に向けた発信は難しいなと思っています。例えば私が扱っているトピックとして、サステナビリティがあります。
このトピックに興味を持ち始めると、もっと知りたいという方もいる。でも、そこに踏み込めていない方から見ると行動一つがどうしてダメなのかわからない。すると、自分が否定されているような気持ちになりますよね。そこが難しいと感じています。
どちらかというと興味を持ち、もっと知りたいと考えている方々と盛り上げて、さらに波紋のように伝えていく方が、スピード感をもってできるんじゃないかと思います。
廣田:メディアにいると不特定多数になりがちなので、誰にどう届いているかが見えづらくて。取材とか今回のように、直接会って想いを確認できると中で誰と何がしたいか気持ちがまとまりますね。
やっぱり結局は人と人とのコミュニケーションは、デジタルでもそうでなくても大切で、考えをお互いにシェアすることが大切なんだと思います。
綿吉:考えをきちんと伝える、コミュニケーション能力は必要ですね。
花田:デジタルだとより一層必要になりますよね。販売もライブコマースにシフトしていて、売れる人の販売の仕方はトークが上手じゃないですか。
花田:トークが上手で販売知識もありますよね。
その人がたまたま手段としてより広く発信できるデジタルを使う。ただ、デジタルは熱量が伝わりにくいですよね。この熱量は凄く大事で、今回REKROWでも一つ気づきがありました。
デニムを解いていくとき、作っている人たちの熱量をすごく感じたんです。熱量、感じたよね?
...(会場の学生頷く。)
花田:そうだよね。カフス一つで使っている糸を変えたり、地縫いする糸はこれで、ハサミ付けはこの糸でというのがわかるんですよ。そうして、作り手の凛とした姿勢を感じる。これは実際の体験でしか得られない。
昔の服は20万円とか30万円する服を解いていくと、例えばイタリアのジャケットはばっくりと作るんです。アルマーニやベルサーチのジャケットは、着てみたときに肩に乗った感じがしないんですよね。
花田:作りってやっぱり、作り手の情熱が内側に込められているんですよ。それが、REKROWの取り組みで感じました。デジタルとフィジカルの重要性、綿吉さんの対面販売の話からもすごく伝わりました。
綿吉:ありがとうございます。販売ってすごく難しくて、いろんな方に届けないといけないんですよね。そこまで知りたくない方もいますし、ファストファッションで安く買えることもありますよね。
綿吉:安いものは価値が無いと思われがちでも、実際には手を加えて作っている人が何千人といるわけですよね。
価格帯や販売方法、伝え方を間違えるだけで価値が無いものとして扱われるのがすごく悲しいと思います。高いから良いものはあるとは思うのですが、安くても良いものはもちろんあるし、そこを考えてもらいたいです。
***一つの伝え方から、価値の感じ方は人それぞれ。
作り手が価値を伝えなければ、中々その想いは伝わらない。それを感じ取る能力も、人と人とのコミュニケーションから生まれている。
少しずつ、関わる人同士が繋がることで、感じ方は変化し徐々に伝わっていくような。そんな気がします。
***
3. 愛着を持って、扱うこと
廣田:この先は多分、どう愛着を持つか、という話ですよね。別に安くても長く着ている服ってありますよね。
綿吉:そうなんです。愛着は価格じゃないんですよね。
でも、実際には買っても袖を通さず捨ててしまった服もあって。フリマアプリで安く売って、また新しい服を買うようなサイクルが生まれているのも現状です。どうしたらいいんですかね笑
廣田:そうですね、ここで言うのもどうかと思うんですが...笑。まずは吟味して、たくさん買いすぎないのは必要ですよね。
例えば吟味して買った服にはその時のことを思い出せたりしませんか。こういう時に欲しかった服だなとか。そういうところにも愛着が生まれているから、長く着続けられると思います。
花田:僕も、デジタル化が加速したことで改めて丁寧な時間を過ごすことの重要性に多分気づいたんだと思います。
廣田さんがおっしゃったように、その場でパパっと選ぶより商品の魅力を吟味して、感じてもらえるような。それを伝えるのは販売員のお仕事ですよね。
やっぱり販売員の方々の役割はすごく重要だと思います。
綿吉:そうですよね。作り手が直接伝える機会は中々ないと思うので、販売員が代弁していくべきですよね。
花田:販売員の方が、作り手の凛とした姿勢を言葉を通して伝えていただくことが、若い人たちへ洋服の価値を伝えるきっかけになると思います。
綿吉:実際に販売をして、売れたら嬉しいという想いもあると思いますが、実際に悩んで購入した人がその後どれくらい着てくれているのかを知る機会って中々なくて。
尾道デニムで1年かけたものはすごく愛着を持つんですが、それがフリマサイトで出品されているとすごく悲しくて。単なるデニムとして販売されるのではなく背景が次の所有者に届いているかどうか。いろんな事情はあると思うのですが、手を離れた後の仕組みをもっと作れないのかな、という想いは感じます。
サスティナブルな商品を作ったとしても、その商品が使われなかったり、捨てられたりしたら意味はないですよね。
花田:そうですね。学生にも授業で言うのが、デザインを考える中で付加価値を考えなさいと伝えます。これから情報を発信する我々にとって重要ですよね。
綿吉:確かに、デザインをするうえでも付加価値を設計に落とし込む力が重要ですね。
花田:そういう点で、後半のプレゼンテーションで学生がどんな付加価値を考えたかについても注目してもらいたいです。
廣田:付加価値の一つはストーリーな気がしています。販売員さんやブランドが直接伝える力は重要ですが、結局服がフラットに並んでいた時に私は誰の手で作られたかを知りたいと思うので。
アパレルメーカーは今まで作って終わりでしたが、ちゃんと商品を語れるかどうか、提案できるかどうかというのは、その先長く使われるイメージや、最後の廃棄されるところやリサイクルしていくところまで含めた設計やデザインが求められていますよね。
例えばREKROWでは解体することを前提としてデザインがされていますけど、今まではかっこよさ、かたち優先だったと思います。
廣田:どういう素材で、どんな人たちが関わってどう作ればリサイクルと循環が生まれるかを考える必要が出てきた気がします。
学生の時からこうしてきっかけに触れられるのは良いですよね。本来のプロダクト開発は原料や糸がスタートですが、このプロジェクトでは仕事を終えた服がスタート地点というのも素敵だと思いました。
綿吉:しかも、かっこいい。
花田:そう、かっこいいんですよ。かっこいいって、動機付けになるじゃないですか。魅力的な教材ですよね。
綿吉:でも、実際にはこのデニムを着ている人たちはそれをかっこいいとは思っていないんですよね。
多分、安全面から穴が開いていたらダメだったり、作業服としてはすでに役目を終えているので。だけど、それがかっこいいと知ってもらえたらREKROWとしては一番良いなと思っています。
穴が開いているからガムテープで止めている人がいたりすると、逆にその発想はなかったなって。普通ならかっこよく当て布をしてリペアすると思うんですが、何も気にしていないから、ガムテープで貼っちゃえばOKみたいな発想が生まれてくるので。
綿吉:あまり考え過ぎてもですが、それはそれでかっこよさそうなんですよね。
今回は「波紋:RIPPLE EFFECT」というテーマから、ここまで話が広がりました。結局はファッションに限らず全てのことに対して愛着を持って接することが、これから必要な力だなとお二人の話から感じましたね。
花田:そうですね。人との繋がりの大切さも感じました。
改めてこの企画を通して学生さんたちにも感じてもらえたと思うので。それが、RIPPLE EFFECTというテーマのように広げながら次世代へ伝えていきたいです。
綿吉:わくわくしながら繋げていけたらいいですよね。誰かにやらされる形ではなく、かっこいいと思いながら参加して楽しむことが重要かなと思います。
廣田:そうですね。愛着というか、愛ですよね。人に対しても、ものに対しても。ものを作った見えない作り手さんに対しても、愛をもって選びたいですね。
廣田:愛をもって選択していくというのは、消費者でも作り手でもできることだと思います。なぜそれを選ぶのか、その理由を考えることもすごく必要ですよね。
綿吉:ありがとうございます。
最後に、せっかくなので二人の愛着ある一着について教えてもらえたらと思います。
花田:私は今回の尾道デニムですね。10年間広島で仕事をさせていただいたご縁が繋がって、この企画をいただいたので。自分が一番プライドを感じて穿けるアイテムです。
プライドというのは、ストーリーを自分の言葉として落とし込めているかどうかです。このデニムを穿くことで、広島の10年間を思い出して身が引き締まる思いになります。これが、僕の愛着ですね。
綿吉:すごく嬉しいです、ありがとうございます。廣田さんはどうですか?
廣田:私は仕事柄、節目に合わせて服を買うことが多いんです。
例えば今日履いているパンツはsacaiの初めてのプレコレクションのアイテムで、ちょうど私がWWDジャパンで担当していました。
sacaiというブランドが、国内の人気ブランドから世界の人気ブランドに変化していくのを追いかけた特集で、自分の仕事と思考が重なったときに購入したアイテムでした。
廣田:単に素敵だから購入するというより、何かあるから選ぶことがったです。自分とかなりリンクしていますね。
綿吉:とっても素敵ですね。せっかくなので私も一つだけ話をさせてください。
綿吉:私は古着が好きで広島に好きなショップがあるのですが、一目で可愛い、自分が着たいと思って選んだ服があるんです。
それが100年前に作られたブラウスだと教えてもらって。100年前って言われたときに、自分の想像を超えた服がこのタイミングで自分のもとに来たっていうのがとても嬉しくて。
廣田:たしかに、一体どんな旅をしてたどり着いたんでしょうね。
綿吉:そうなんです。それがすごく嬉しくて大切で。
私は、大好きな服はクタクタになったり穴が開いたりするまで着るのが愛情だと思っていて。その服も穴だらけになっちゃったんですよ。生地も傷んでいるので。でも、それも可愛くて。
着てなくても、クローゼットの中を見るだけで幸せです。
花田:ちょうど文化服装学院の年数とつながるわけですね。
綿吉:本当ですね笑 縫製が丁寧に作られていたから、そこまで残って私のところに来てくれたんだなと思います。
そういう服が、世の中にたくさん生まれると良いですね。
***
**
*
***RIPPLE EFFECT をテーマに広がったトークは、愛着というキーワードで幕を閉じました。デジタル化が進む今だからこそ、改めて製品の作り方、伝え方を大切にすること、そして考えると。
新しい可能性は、まだまだ広がり続けそうです。
オンライン配信ではこの後、学生からのプレゼンテーションもありました。その様子はぜひ動画でお楽しみください。
■REKROW TALKS #02
ゲスト:花田浩朝さん(文化服装学院)×廣田悠子さん(サステナビリティ ストラテジスト)×綿吉杏(ONOMICHI DENIM PROJECT/REKROW)
テーマ:RIPPLE EFFECT / 波紋を広げる
日時:2021年6月26日(土) 13:30-15:30
Online:https://youtu.be/Ga_u0vHWLS4
参加費:無料
*オンライン配信のみ。事前予約は不要です。
【GUEST】
■花田 浩朝さん
学校法人文化学園文化服装学院
専任講師
https://www.bunka-fc.ac.jp/
文化服装学院アパレル技術科を卒業後、同学校に入社。2005年、初の直営校となる広島校開校の責任者として広島に赴任。広島発の子供服ブランド「emma de choeur」の運営サポートを行う。2015年より東京校インダストリアルマーチャンダイジング科の講師を務め、将来ブランド運営を目標とする学生に向け教鞭をとる。
■廣田 悠子さん
サステナビリティ ストラテジスト
https://www.wwdjapan.com/author/yukoh...
石川県小松市生まれ。2006年INFASパブリケーションズ入社し、「WWDJAPAN」記者として海外コレクション、セレクトショップ、百貨店、シューズなどの分野を担当し、18年サステナビリティ分野を新設。21年6月独立。「WWDJAPAN」コントリビューティング・エディターやアパレル企業のアドバイザーを務める
■綿吉 杏
株式会社ディスカバーリンクせとうち
ONOMICHI DENIM PROJECT 責任者
REKROW
http://www.onomichidenim.com/
https://rekrow-hiroshima.com/
2017年 ONOMICHI DENIM PROJECTスタッフとしてディスカバーリンクせとうちへ入社。USEDデニム製作から店頭での販売、商品開発、コンテンツ企画などを行う。
REKROWプロジェクトも兼務。
花田浩朝さん、廣田 悠子さん、文化服装学院のみなさん。ありがとうございました。
(文|写真:ナカニシ ミツヒコ)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?