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山下達郎『FOR YOU』(1982)

アルバム情報

アーティスト: 山下達郎
リリース日: 1982/1/21
レーベル: AIR(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は22位でした。

メンバーの感想

The End End

 スティーリー・ダンの『Gaucho』やドナルド・フェイゲンの『The Nightfly』を想起する音像。
 最近レコードプレーヤーを手に入れたのだけど、少ない手持ちのレコードを聴いたり色々調べたりしていて思うのは、“良い音”と“原音に忠実”みたいな観念はイコールではないということ。
 レコードに込められている音の周波数レンジは実はあまり広くない。ヒトの可聴域が約20~20000Hzであるのに対し、レコードに記録される帯域は40~10000Hz程度で、低域の表現はスピーカーのキャビネット自体が振動することと倍音によるあたかも下で基音が鳴っているかのような錯覚、高域の表現はカートリッジ(針)が振動する際に付加される倍音によるところが大きいらしいのだ。
 つまりレコードは“音質が良い”のではなく、“ヒトが魅力的に感じる音がする”と言い換えるべきなのではないか。録音芸術作品の制作においてもそれはおそらく同じで、『FOR YOU』や『The Nightfly』は精緻な加工によって誰がどんな環境で聴いても“良い音”だと感じやすい音を実現しているのではないだろうか。
 平たく言えば“映え”の世界なのだから、聴く我々も再生機器やイコライザーでどんどん好みの味付けをして良いのです。おそらく…
 …というようなことを、聴きながら考えていた。音楽はいつだって自由!

桜子

 最高のアルバムです!
 私は小さい頃にダンスを習っていたのですが、その基礎練で踊れるような曲がやっと出てきたような、そんな感覚があります。歌よりもリズムが身体に響いてきて、テンポ感もちょうど良いし、レッスンを始める時の爽やかな気持ちがある...。音に多幸感があって色々その頃の気持ちを思い出せてきて胸がいっぱいになってしまいました。

俊介

 このアルバムをきくより数年前に、love talkinがサンプリングされたSaint pepsiのskylar Spenceを聴いてしまったので現代的なあの音圧と大胆な原曲使いに先に触れた耳ではなんともこのアルバムを評価し難い!
 もちろん原曲の良さもあるけど、今の気分的になんとなくシティポップには食傷気味だった自分にとって、グレーゾーンのサンプリングミュージックははある意味、シティポップの偉大さに逆説的に気付かさせてくれる。
 シティポップになんとなくフォーマットとしての限界を感じてても、Saint pepsiのような色々な制約の内で(ときには外で)リメイクに挑戦してるアーティストに出会うと、改めてクラシックに対して畏敬の念を持って挑めるのはいわゆるZ世代だけなのかしら、、

湘南ギャル

 サークルでSPARKLEをコピーしたことがある。ギターの音色についてかなりの時間を費やした。他のパートの人たちも口出しして、ああでもないこうでもないと盛り上がった記憶がある。当時の自分は、大体一緒ならいいだろと正直呆れ気味であったが、今なら彼らの熱意も多少は理解できる気がする。前回扱ったRIDE ON TIMEに比べると、このアルバムでは山下達郎の音色へのこだわりが一段増したように感じる。ライドオンでは音像がナチュラル目だったけれど、今作ではすべての音がポップなオブラートで包まれているようだ。個人的には、ライドンでの山下達郎の全力具合が人間味を感じられて好きだったので、今作のアーバンで余裕がある山下達郎にはそこまでハマれなかった。

しろみけさん

 右腕一本分の夏。鈴木英の描いたジャケットも相まって、「夏だ!海だ!タツローだ!」のキャッチコピーが最も体現されているアルバム(しかし発売されたのは1月らしい)。2023年現在は『FOR YOU』が山下達郎のパブリックイメージの最大公約数だと思うし、実際に何度聞いてもそう感じざるを得ない隙のなさがある。
 “SPARKLE”の、完璧としか思えないイントロのカッティングは、自分の中でこのジャケットのイメージとあまりに強固に結びつきすぎている。夏が来ると、毎年このカッティングが頭の中で弾ける。自分の夏は、山下達郎のちょっと粘っこい右腕の運動と、恐らくセットで記憶されている。本当に完璧な一曲。

談合坂

 ‘お手本’から’唯一無二’になったような印象。ここまでされては彼のようになりたいという気持ちなんて起こらない。いや、どうしたらこんな風になれるんだろうとは考えてしまうか、、
 確固としたスタイルが成立するのにはがっちりした型が存在しているということがひとつ大きい要素なのだろうと思っていたのですが、このアルバムを通して聴いてみると味付けのバリエーションがかなり豊富でさらなるショックを受けてしまいました。私も全てを自分の音楽として収束させられるようになりたい。

 インタールードがある作品、好きです。リッチにポップに拡大したシングル曲を静謐さが伴うコーラスで挟み、アルバムとして成立させるシステムのおかげで全編聞いてもスッキリした食べ応えになりますね。

みせざき

 爽やか、爽快で夏の木漏れ日を感じるような世界観が広がっていくような音楽でした。今まで聴いてきたやまたつの作品に更に広くまた奥行きある世界観がプラスされたような作品に感じました。全体的なアンサンブルの一体感を強く印象として抱きました。山下達郎のシャウト、歌声はそうした世界観を綺麗に彩ってくれる心地よさがありました。

和田はるくに

 ライブ盤の『JOY』でも聴けるようなソウルフルな歌唱が増えてきて、聴いていて楽しい作品。歌の力もそうだし、自分も歌いたくなるような曲が増えた印象。
 というか、このアルバムはジャケの力もすごいと思った。だってこのジャケなら例え屁の音しか入ってなくても名盤だと思っちゃうよ。

渡田

 前回の『RIDE ON TIME』より、ジャンルとしての「シティポップ」らしさを強く感じた。楽器の組み合わさり方がより穏やかで、『RIDE ON TIME』で感じたような全ての楽器が個々に際立っている雰囲気はなく、あくまで全ての音が混ざり合って主たるメロディを作っているように思える。こうした穏健な軽快さがシティポップとしての雰囲気を際立たせているのかもしれない。
 『RIDE ON TIME』や『SPACY』と比べると山下達郎の個性と、ジャンルとしてのシティポップらしさの双方が比率良く表れている感じ。それでも、分かりやすい音楽のために個性を妥協しているようには思えなかったのは、その双方が丁寧に表れていたからだと思う。

次回予告

次回は、ザ・スターリン『STOP JAP』を扱います。

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