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二階堂和美『にじみ』(2011)

アルバム情報

アーティスト: 二階堂和美
リリース日: 2011/7/6
レーベル: P-VINE/カクバリズム
「50年の邦楽ベスト100」における順位は92位でした。

メンバーの感想

The End End

 「歌はいらない」の時点でめっちゃ惹きつけられてしまった。”もの思いにふけるとき 歌はいらないの 考えるのをやめたいとき 歌がほしいの”、いつも私が考えていることすぎて。
 もっとも、この曲は”ゆっくり考えたいから歌は一度黙って!”と言っていて、私はいつも”何もしていないとロクでもない考えに飲み込まれるから、ずっと音楽を聴きたい”と言っているので、同じことを言っていても中身は逆なのだけど…でも、”歌よだまって”って”歌う”くらいだから、この人も大概一緒なのかもな。歌に、音楽に憑りつかれた人。
 それにしても、本当にすごい声。「岬」のロングトーン、二胡か何か?っていう倍音の響きと伸び。意図的だと思うけど、なんならちょっと歪んじゃってるくらいのエネルギーが、たまらなく愛おしい。

桜子

 感情が良く声にのって、はつらつとした人だな〜〜と思って聴いていたら、ピンと張った緊張感があったり、はたまたそれが静けさへ作用してリラックス出来る空間が出来たり、自分の纏う服を、自由に変えられる人ですごく素敵だと思いました。

俊介

 ビル・エバンスなり、アーマッドジャマルトリオなり、ジョン・コルトレーンなりの恍惚は自分の中で現実からすごく離れたロマンティックで特別の状況と空間でこそ輝くんだけど、その中に日本の風土というか日常を見出した彼女の才能、脱帽。一般日本人の生活の中で、ジャズは多分他人だ。
 なんか似た気持ちが以前あったなってデジャヴ、G.RINAの漂流上手

湘南ギャル

 音楽を聴いているというより、芸能を鑑賞していると言った方がしっくりくる。曲ごとに、いや曲中でさえ、まるで別人のように表情を変える。二階堂和美って200人いるねん?なかなかこういう歌い方をする人は見ないが、ぜひ後継者を見つけて本当に芸能の一種にしていただきたい。
 集中して歌を聴いているとどうしたって歌詞を噛み締めることになるけれど、残念ながらその歌詞が好きになれなかった。自分がウジウジして別れを言えなかった曲のタイトルに「女はつらいよ」と付けられても、いやそれは女がつらい話じゃなくてあなたのつらさの話でしょうと突っ込みたくなってしまう。私が、強気‼️能動的‼️パワー‼️みたいな女の子に好感を持つきらいがあるのでそう思ってしまうんだろうけど、恋愛についての歌詞があまりに陳腐だ。心を焦がす暇があるならカチコミに行け。(とはいえ昨今の潮流を見ると、ガールズエンパワーメントと並行して、男性ももっと弱音を吐こうよのムーブメントもあり、それと同じように弱音を吐きたい女性だっていてもいい。ただ、not for meだったというだけ。) でも一曲目は素敵だったな。歌声でこんなに繊細な表現ができるのだから、言葉だってわかりやすくありきたりなものより、曖昧で抽象的なものが似合う。

しろみけさん

 そのモチーフや節回しから、同じく“和”らしきものを取り上げ、この企画でも聞いた矢野顕子『Japanese Girl』を想起した。しかしこちらの伴奏は室内楽チックなもので、その広がらなさが奥ゆかしさに転化されている。個人的に、長唄やブルースをはじめとした伝統的かつ土着的な歌謡曲の魅力は、「出て行かれなさ」が醸す哀しさにあると常々感じている。『にじみ』ではそういった「出て行かれなさ」が、種々のローカライズを間に挟みながら、端的に表現されているように感じた。二階堂和美が高畑勲『かぐや姫の物語』で歌ったのも納得だ。

談合坂

 鳴り響く声の圧倒的なバリエーション、これをすべて確実に狙って出せる人の世界を一度でいいから体験してみたい。人体の動きを活き活きと切り出す録り音の精緻さがそんな気持ちを後押ししている。
 底が見えないサウンドが一方にありつつも、言葉に意識を向けていると途端に現代の日常に足が着くタイミングがあるのも面白い。

 幼児と小児と老人とギャルのすべての要素を持つような声を収めたアルバム、とだけでも成立するような圧倒的な声の記名性を備えている作品にしては攻めているトラックがかなり多く収録されている。「PUSH DOWN」のアンビエント~ジャズを横断するようなトラック、「お別れの時」のオーケストラセクションのような重厚感。しかしやはり声の記名性に気圧されてしまう。今ミュージックマガジンが選び直すなら中村佳穂がこの枠にくるのではないか。

みせざき

 13年のアルバムとは思えないくらい簡素で昭和的な雰囲気でしたが、歌としての力、しっかりと説得力をもつ曲の力を身近に感じることができるアルバムだと思いました。暗さの中にも明るさを併せ持つような不思議な気分にさせてくれるのもまた一つの魅力だと思いました。

和田醉象

 人間って色々な側面があって、時には矛盾した様な言動をすることもあると思うんだけど、その人間臭さというか多面性がわかりやすいアルバムだと思った。
 それは声や歌い方のスタイルもそうだし、民謡っぽい楽曲がある一方でしっとりしたバラードもある幅の広さにも表れている。
 人付き合いしていると、その人のことを嫌になったり、逆に魅力的に感じることがあるけど、それと同じで、すごく近寄り難く感じる瞬間もあれば、居酒屋で隣に座って愚痴聞いてあげてるみたいな新期間を覚える瞬間があり、これは他の作品では得られない感情だなと思ってます。

渡田

 この企画で2000年代からの女声の音楽を聴いていると、スタイリッシュさを追求したもや、声も綺麗な音の楽器そのものとして扱うようなものが多かったが、今回のアルバムでは声はあくまで人の声、普段の話し声とかけ離れすぎてない声がした。
 こういった特徴は前回まで聴いていた2000年の音楽等と雰囲気があまりに違うせいで、時代の流れの水面下で独自の進化をしてきた音楽のように思える。そのせいか歌詞の内容は日常そのものなのに、どこか浮き足だった、非現実じみた雰囲気を感じてしまう。

次回予告

次回は、坂本慎太郎『ナマで踊ろう』を扱います。

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