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コーネリアス『SENSUOUS』(2006)

アルバム情報

アーティスト: コーネリアス
リリース日: 2006/10/26
レーベル: ワーナー(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は37位でした。

メンバーの感想

The End End

 “こんにちは、小山田圭吾です”がめっちゃウソで毎回笑っちゃう。パッと聴きとても複雑なことが行われているように聴こえるけど、ほとんどの音は4/4拍子に則ったループの形をしている。発音タイミングがズラされていたり、頭の拍で発音しない音色でイントロが構成されていたりすることで、一拍目の頭が掴みづらくなっているだけだ。
 …だから大したことない、と言いたいのではない。複雑過ぎないパーツを用いて複雑に聴かせることは、ただ複雑で難解な音楽を作るよりずっと難しい。『SENSUOUS』は、その奥に広がる複雑で豊かな音楽たちの、これ以上なくポップでラディカルなプレゼンテーションなのだと、聴くたびに感じる。
 そしてそれは何より、不特定多数のリスナーを諦めていないことだ。この作品には、“分かる人に分かればいい”のではなく、可能な限り多くの人に分かってもらおうという意識が通底しているように思う。
 理解されようとすることは即ち理解しようとすることでもある。おそらく私は実際に鳴っている音以上に、その意識こそを“ポップネス”と呼び、愛している。

桜子

 こんな感想ずるいとおもうんですけど、あまり感想とか出てこなくて、頭を空っぽにして聴ける作品だなと思います。広がる音に、心身も時間も任せられる。
 とてもリラックスできるから、今聴いて、涙が出てしまいました。感想とか出てこないんだけど、涙は出てきた!
 声を歌謡として使っていない曲が多いから、何回聴いても自分が歌う気持ちになれなくて、そこがとても好きだな〜。疲れない。

俊介

 前作のバリがとれて、さらに洗練された感じ。というかすごい音が良くなったっていうか滑らかになってる。それぞれの楽器が有機的に混ざり合って、作品自体が1つの生き物だと思わせるくらいなまなましい。傑作。

湘南ギャル

 細野史観が鳴りをひそめたと思ったら次は小山田史観か〜、とコーネリアスになかなかハマれない私はげんなりしかけたが、そんな予想を裏切ってSensuousは楽しみながら聴けた。発せられる声が、ボーカルとしての機能と音としての機能の間で反復横跳びをしている。6曲目のGumなんか特に顕著で、歌と音を行ったり来たりどころか、その間で宙ぶらりんとしている物すら見つかる。デタラメに声を出すだけだったら、肉声と電子音をここまで共存させることはできなかっただろう。発せられた言葉が伝えることができるのは、意味だけではない。語感や発音だって意味と同じくらい、時にはそれ以上の”意味”を持つことだってある。そんなことを実感できる作品だった。

しろみけさん

 (やっべ、忙しすぎてアルバム聞いてる時間ねーわ…うわーどしよどしよ、これ水曜までに送んないとThe End Endにアレやられちゃう……三日くらいトイレから出れなくなるんだよなアレ……って、ん?「Sensuous Sametime」…?どういうことだろ、とりあえずこれから聞いてみるか。んーーーーあ、小山田さんども。お買い上げって、サブスクで聞いてんの申し訳ないッス…(笑)。「お時間がない場合は全曲同時に再生したこちらをお聞きください」えー親切じゃん!そうそう、時間ないからこういうの欲しかっうわうわうわいうわうわうわうわうわうわいうわうわうわうわうわうわいうわうわうわうわうわうわWOWOWWOWOWWOWOWWOWOWOWOWWOWOWWOWOWWOWO!?!????!!!??!WOWOW!?WOWOWか!?!?WOWOWだ!!!!!!WOWOWのCM!??!!??WOWOWのCMだlalalalalallalallalal耳きもちきもちきもちきもちきもちきもちきもちきもちきもちきもちきもちきもちきもちきもちきもちきもちきもちきもちきもちきもち断片的?「Sensuous Flagments」?待って水飲ませてトイレ行かせて換気させてうわうわうわいうわうわうわうわうわうわいうわうわうわうわうわWOWOWWOWOWWOWOWWOWOWOWOWだ!楽しみかたわかったわ!!!!!!!!!アザーーーーーーーーーーーース~(^з^)-♡)

談合坂

 2020年代のアルバムだよって言われたらあ~~それっぽいね~~~って言っちゃうと思う。私が先に2020年代の音楽を聴いていて、これが明確にそのルーツに存在しているというだけのことなのだろうけど、それにしたってその過程で捨て去られてきたものがあまりにも少なくてすごい。
ユーモアが成立するための要素として’変さ’を使ってはいるけど、決して作品としてその変さを楽しむようなものにはしていないのが絶妙だと思う。

 この企画では「FANTASMA」「POINT」と扱ってきた。「SENSUOUS」が一番好きです。ポストロックの祖といわれるTortoiseはセッションで生まれた演奏や出た音を全て素材としてProToolsに並べ重ね加工し、理路整然とカオスがマニュピレートされた「TNT」というアルバムを作った。Tortoiseのメンバーは後にこの「録音素材のDAW上での加工」の突き詰めて90年代後半に勃興したエレクトロニカシーンと共鳴する電子音楽とも生演奏とも分類できない音楽を作った(「The Lazarus Taxon」というアルバムを聴いてみてください)。私はそれを勝手に「生音エレクトロニカ」と呼んでいて、「SENSUOUS」はまさに「生音エレクトロニカ」だ。あらゆる録音や偶然出た音を小山田氏が完璧に統制しているような美しさを受け取った。私が作った「生音エレクトロニカ」のプレイリストを覗いて頂ければ何を言いたいかうっすらわかっていただけるかと...。

みせざき

 ちょっと難しい印象でした。今まで聞いてきたコーネリアスの作品よりだいぶ難解で、一聴では掴みきれない部分が多かったです。多分同じフレーズの反復や、曲の中で盛り上がりと言える部分が少ないのが理由だと思います。きっと今後聴きつづければ何処かでビビッと来る瞬間が訪れると思います。

和田醉象

 うーん。このランキングには一体何枚のコーネリアスが入ってるんだとそろそろ食傷気味になってしまう。
 これまでの作品はソロになっての意欲や、そこからさらに突き進んだ成果物だったりが明確だったから作品に対する構造を理解して話せたんだけど、「これ、前回とどこが変わったの?」と思ってしまった。(この後10年アルバムリリースがなかったから、ある意味的を射た批評かもしれない)
同じクオリティ、方向性のものを出し続けることができるというアーティスト性の成熟を褒めてもいいのかもしれないけど、ただ、それは一概に褒めてられたりばかりしてもいいものでもないよなあという感想。
 今までより良い環境で録ったそうだけど、サブスクの配信で聞いたからそこまでの恩恵も得られなかった。ちゃんとした環境で聞いたら面白いアルバムなのかもしれない。
 (配信版だと全曲を同時に流したり、編集して1トラックに繋げ直したボーナストラックがあった。QueenのJazzみたいで面白い取り組みだと思ったけど、ナレーションで話してるお前は小山田圭吾じゃないだろと思ってしまった。)

渡田

 楽器の音と聴いたことのない変な音を、思うがままに、綺麗に聞こえるようにつなげ合わせていっている感じ。
 音楽による主張とか、感動とか、そういった「音楽を通した表現」という概念がなかった。ひたすらに音楽そのものの自由さとか、子供の頃の音に対する原初体験とかを表しているよう。
 環境音を入れてみたり、適当な声を出してみたり、それまでの曲を同時に流したり、音をおもちゃのように自由に扱っている感じがする。こういう点からは、音楽に対する子供らしい自由さを感じて、NHKの教育番組などに小山田圭吾の音楽が取り入れられていることにも頷ける。

次回予告

次回は、ゆらゆら帝国『空洞です』を扱います。

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#アルバムレビュー
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