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小沢健二『LIFE』(1994)

アルバム情報

アーティスト: 小沢健二
リリース日: 1994/8/31
レーベル: EAST WORLD(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は15位でした。

メンバーの感想

The End End

 覚悟を感じる。自分が魅力的だと思う音楽を自分で作ることや、”LIFE”を冠するに恥じない歌を書くこと、そのプレッシャーや責任を背負う覚悟。
 恋をはじめたときの全能感、しかもピーキーな悦びではなくて、互いに大切に思っている人がいるときの常に心のどこかがあったかい感じに溢れているし、恐らくは全く知らない言語で歌われていてもそれを想起できるようなサウンドをしている。まあ、”こんな恋を知らぬ人は地獄に落ちるでしょう”なんて言う必要は絶対に無いと思うけど。
 ところで、私の身体はアルコールを分解することがとても苦手なのだけど、それでもたまーーに、年に一回くらいとても心地の良い酔っぱらいを体験することができるんです。その気分にも近かった。みんな恋のはじまりみたいな気分になりたくてお酒飲むのかな…

桜子

 溢れる幸福感と少しの切なさ。
 このアルバムでは、恥ずかしいくらいのロマンチックと漏れ出るナルシズムで”君と僕”について歌っている事が多い。
 彼が”王子様”と呼ばれていた理由が分かる。正直、この曲達を聴くと自分の恋愛が頭に巡るというより、小沢健二そのものに夢中になってしまう。

俊介

 中学生のとき、市の図書館で借りたのが初めての「LIFE」との出会いなんだけども、その図書館が田舎の分館だったこともあって、かなり年季が入っていて、奥の方は陽の光が届かないくらい暗くて、人も少なくて、日に焼けた古い本ばっかでそこはとにかく不気味だった。
 で、そこに引っ張られる形で帰りがけにカーオーディオから聴いた「LIFE」にも奇妙な印象が付き纏ってた。歌詞の明るさと正反対にサウンドがドロドロというかネチョネチョしてる感じ。
 いつだったか遠い昔、「LIFE」はアルバムを通して、かなり低い音域の持続音が鳴っていて、それがあのアルバムの違和感とか謎の焦燥感の原因になってる、みたいな出所不明のネット記事をみた気がするのだけれど記憶が定かじゃないし、改めて調べてもみつからない。
 でもそれが事実だとしたら、あのアルバムの異様さに説明がつけられるし、享楽的な歌詞に、気味の悪い低音を組み合わせる意図に対して色んな視点から考察できるよね。
 んでもって、底抜けに明るい歌詞にそういった小癪な遊びを付け加える小沢健二は、フリッパーズ時代のアンニュイで小生意気な彼とスムーズに結びつけられる。
 結局、自分が感じてるこのアルバムに対する微妙な気味の悪さは誰とも共有したことないし、前述の記事もみつからないので、この感覚が年季の入った図書館由来なのか、謎サブベース由来かも分からないけど、溢れでてくる穏やかでふくよかな愛と、それに相反するような得体の知れない焦燥感を併せ持つのが人生(LIFE)ってことなのだろうか、ってことで自分は解釈してます。
 記事についてなにか知ってる人は教えてください(*^。^*)

湘南ギャル

 ポップじゃない瞬間を一秒も作らない!という気概を感じる。過去作にメロメロになった影響で前よりは聴きやすくなった気もするけど、それでも好きなタイプの音楽ではない。曲がりなりにもバンドで管楽器を吹いた経験があるからか、こうした類のひねりがないホーンフレーズが入ったサウンドをどうしても聴けない。主張が激しいバックバンドがいたらメインが浮き出ないから、あえて無味乾燥な演奏をさせているんだろうとは思う。それがわかっていても、バックバンドの個性に負けない、むしろ自在に乗りこなすことで自らの個性をさらに増幅させていたRCサクセションの忌野清志郎や、じゃがたらの江戸アケミ、彼らのような人に私は強く惹かれる。ここまで奏者の人間味を感じさせない譜割にするなら、電子音を使った方が目的を達成できるんじゃないかと思ってしまう。(もちろん、電子音全般に人間味がのってないという話ではないし、そんなことを言いたい訳ではない。)
 とはいえ、今夜はブギー・バックの名曲具合はすごい。90年代の日本のアーティストを好きに起用していいから名曲を作れ!と言われたとして、小沢健二とスチャダラパーを合わせます!って発想が出る人は何人いるのか。スチャダラアニの、”俺って何にも言ってねー”のところまで、本当に何にも言っていないところが好き。オザケンの、”ほんのちょっと困ってるジューシーフルーツ 一言で言えばね”も、一言じゃない上に例え方がキモすぎて大好き。

しろみけさん

 歌と詞がコチョコチョ。「愛し愛され生きるのさ」のラスト、それまでのヴァース部のメロディに沿わせることによって発生した字足らずな発音の″夕べさ″と、直後の″ほんのちょっと″という字余り。「ラブリー」のコーラス、恋に落ちる直前に3連符で畳み掛けられる″完全な″。これは「ぼくらが旅に出る理由」で、はしゃぐ君を前にした場面でも再び登場する。「ドアをノックするのは誰だ?」の″マークはずす飛び込みで僕はサッと奪い去る″って、そんな変則的な詞の動きされたらマークも外れるわな。
 ステディーなバックビートに安住していると、想定外の孔から言葉が伸びてきて小突いてくる。歌と詞が仲良しなんだけど、あまりに仲が良すぎて、役割を忘れてくすぐり合いを始めちゃう。そういう意味で天下一品の譜割。むしろ何も割ってないように聞こえる、究極の「歌詞」だ。

談合坂

 前回なんだかみっちりしていると書いたけど、こちらも改めて聴いてみると思っていたよりみっちりしていた。でも圧倒的に軽やかな日常が見えるのも確かで、LIFEというタイトルが妙にしっくりくる。ホーンセクションやクラップだったり、パーカッシブな鍵盤楽器だったり、肉体が音楽と近いが故の生命感と言えばいいのだろうか。
 そんなことを考えながら「今夜はブギー・バック」を聴いていたら、すっごい低い場所でサブベースが鳴っていることに気がついてなんだか嬉しくなった。

 乃木坂46というアイドルがいる。与田祐希というメンバーがいる。2016年9月3日に乃木坂3期生として加入して、そろそろ丸7年になる。彼女はそれから1年後にセンターとなった。センターに選ばれたのは彼女だけでは無く、大園桃子という同じ3期生のメンバーも選ばれ、2人でセンターとなった。彼女たちには「逃げ水」という曲が宛てがわれ、終っていく夏と記憶を惜しむその曲は今でも私の最も好きなアイドルソングとして刻まれている。
 2人がセンターに立った4年後の夏、大園桃子は卒業した。卒業ライブでは件の「逃げ水」がもちろん歌われ、ひとつの季節の終わりを告げ、楽曲というのはリリースから時を経ても新たな意味を持ちうるのだな、、、と感慨に包まれた。
 その2年後、「乃木坂スター誕生」という過去の名曲を乃木坂46のメンバーが歌う番組にて与田祐希が「ぼくらが旅に出る理由」を歌っていた。「遠くまで旅する恋人に/あふれる幸せを祈るよ」は旅に出た者への餞の言葉として相応しく、「喜びと悲しみが時に訪ねる」はそういったアイドルの姿に悲喜交々していた私の気持ちを代弁しているようだったし、「宇宙の光」と「町中で続いていく暮らし」を並べ歌う様はショービズの世界と日々の生活を共に生きるアイドルという存在への讃美歌のように聞こえた。
 つまるところ、制作された20何年後のいちアイドルの人生さえ描いてしまえる普遍的なストーリーテリングと圧倒的に開けたメロディーや編曲によって作り出された至高のポップアルバムだ、と言えると思います。

みせざき

 とにかく陽気、1stとは違い自身の高揚感、幸福度が歌い方にそのまま現れている印象を受けました。しかしそんな中にも作品としてのソリッドさ、確固たる雰囲気が強かったです。それは特に後半の「今夜はブギーバック」におけるファンク・ディスコ調、ストリングスを混じえた「ぼくらが旅に出る理由」などの音楽的な幅広さ、また後半になるにつれより人生全般を俯瞰した内容へと広がるアルバムコンセプトが興味深かったです。

和田醉象

 全体的に垢抜けた(?)印象。前作やフリッパーズは聞いたことのないものを相手取っている気だったけど、特に『ラブリー』なんかは完全に私が子供の頃に聞いていた音楽になった。90年代というよりかは2000年代の邦楽に通じるエッセンスを感じる。逆に『今夜はブギー・バック』だけすごく古臭い印象。
 シンセストリングスや管楽器の使い方が今までにない感じだけど、その後定着していくきっかけになった爆心地であるように感じる。
 オザケンの歌詞って結構ロマンチックだよなと思ってたけど、今作は割と地に足付いた感じ。けど現代を生きてモテてる宮沢賢治みたいな作風は続く。

渡田

 前回レビューした小沢健二の「犬は吠えるがキャラバンは進む」と同じ特徴を持っているはずなのに雰囲気は全く違う。
 はっきりとしたベースの音や、アレンジ豊かなギターは前作とも一致しているし、当然ながらボーカルの声の質、歌い方も同じだった。特徴が一致しているにも関わらず、印象が違ったのは前回のアルバムよりもそれらの個性が分かりやすく出ていたからだと思う。
 曲の中に語りを入れたり、聴けばすぐに分かるような独自のアイデアがあったのも前回との違いの一つ。前回でも発揮されていた小沢健二の音楽作りの個性をよりはっきりした形で見せたアルバムだと感じた。
 NHKで流れるような、大人が妥協なく作った子供向けの作品のよう。

次回予告

次回は、ドゥーピーズ『DOOPEE TIME』を扱います。

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